第十七話 新たな仲間
エルフの里に入ったセシルたち。
さらなる強化と新たな仲間を求めて女王レイアークとの謁見に臨む、、、
数刻ほど森を練り歩き、何の変哲もない大木の前でグレイスは立ち止まった。
「あれ?もしかして、グレイスさんも道に迷っちゃった感じ?」
麻生の少し冗談めいた問いかけを無視してグレイスは胸元から輝石のついたペンダントを取り出した。ペンダントを両手で包み込み、まじないのような言葉を囁くと手の中が光り出し木々がざわつき始めた。そしてカーテンのように木々が左右に分かれると、道が開け先ほどまでは見えなかった里が姿を表した。
「先に申し上げておきますが、歓迎はされません。さ、参りましょう」
相変わらずの塩対応に野朗2人は苦笑いを浮かべながらグレイスの後に続く。少し進むと入口らしき場所にエルフ族の男2人が里を守るように武装して立っていた。
「グレイス。その者たちは何だ?」
「ラグナス王国から来られた者たちで、女王様にお会いしたいと申しましたので、連れて参りました」
「ラグナス王国?聞いていないな。レイアーク様に確認する。そこで待て」
衛兵の1人が里の奥へと入っていく。エルフ族はグレイスの言った通り歓迎ムードではない無愛想な対応だった。ヘルメスは先ほどからずっと感情のない無表情のままだが、麻生は苛立ちが少し顔に出ていた。
しばらくして衛兵が戻ると、どうやら女王の承認を得られたようで通してもらえることになった。里の中にある巨木の1つ1つが居住できるように中がくり抜かれて部屋のようになっている。グレイスを先頭に歩く麻生たちを怪訝そうな面持ちで見つめる里のエルフたち。
「俺、こんなアウェーな場所に来るの人生で初めてかも…」
「よかったじゃないすか…貴重な経験ができて。ぜひここでメンタルも鍛えられるといいっすよ」
ヘルメスは周りの視線を意にも介さない様子だ。里の最奥に着くと、そこには樹齢何百年か想像もつかないほどの、他の巨木とは比べものにならない大樹が聳え立っており、くり抜かれた中から光が漏れていた。
「ここにレイアーク様がいらっしゃいます。くれぐれも粗相のないように」
中に入り螺旋階段を上がっていくと、大樹の中とは思えないほどの花が咲き誇り、まさに百花繚乱の様相を呈していた。女王の部屋にしては護衛の兵らしき姿もなく、そこには花に丁寧に水をやる女性が1人いるだけだった。服装も里にいたエルフと大差のない質素な格好をしている。侍女が女王の愛でる花の世話をしているのだろうかとヘルメスが考えを巡らせていると、芝生の絨毯の上でグレイスは首部を垂れながら膝をつき右腕を胸の前に構えた。
「女王様、連れて参りました」
グレイスの声に反応し水やりの手を止めて振り返った女性は質素な服装をしていたはずだが、いつの間にか葉脈を象ったデザインレースをあしらったミントグリーン色のエンパイアラインのドレスへと姿を変えていた。しかし、ヘルメスと麻生が目を見開いて驚愕していたのはそこではなかった。おそらく魔法による衣裳の早替わりーーそんなレアな魔法が霞むほどの彼女の美貌に驚愕していた。
「これは驚いたっすね…美の女神アフロディーテに勝るとも劣らない容姿。エルフは皆、美形っすけど女王は別格……っすか」
美人にめっぽう弱い麻生においては、一瞬だけ気絶していたほどだ。
「ようこそ、エルフの隠れ里へ。ここに人間のお客様がいらっしゃるのはいつぶりでしょう。どうぞ、おかけください」
しかし、この部屋に椅子などは1つも見当たらなかった。麻生は腰を下ろして地面に直接座ろうとすると、女王が指で軽く円を描いた。すると芝生の底からツタや草木が伸び始めて立ち所に椅子やテーブルを形取った。
「す、すげぇ!女王さま収納上手かよ!」
そういう問題じゃないーー麻生のアホな感想にヘルメスは失笑しながら草木の椅子に腰をかけた。侍女らしきエルフが階下から紅茶をテーブルに置いて去ると女王との話が始まった。
「それにしても非常に珍しい組み合わせですね。天界の神と、神の力を失った奈落の神、そしてこの世とは別の次元の人間…何か大きな災禍が起きる前触れといったところでしょうか」
「お気づきでしたか。ええ、まったく耳が痛い限りです。もうご存知でしょうが、ソロモンから72柱の悪魔が地上に侵出してきております。その影響で大人しかった動物たちも魔獣化し、地上は荒廃の一途を辿っております」
「そこでこの若者たちを修練窟で成長させたい、と」
成長ーーその言葉を聞いて麻生はようやくシューレン靴が何かの靴ではないことに気がついた。靴職人がいると誤解されていたとも知らずに、レイアークは紅茶を口にして言葉を続けた。
「しかし、あそこはもう数百年は誰も立ち入っておりません。この里の結界の外にある故、魔獣たちの巣窟に成り果てていることでしょう。あまりお勧めはできませんが…」
「いやいや女王サマ!俺たちは強くならなきゃなんねーんだ。それくらいの障害がなきゃ歯ごたえがねーぜ!」
「おい!口を慎め!女王様になんという口の聞き方を!」
「グレイス、およしなさい。構いませんよ」
たしなめられたグレイスは口を閉じ麻生を睨みつける。視線を逸らして麻生も大人しくなる。そこに椅子にもたれ掛かっていたセシルが目を開いた。
「こ、こは…僕は……」
「やあ、セシル君。こんな美人を前にして寝過ぎっすよ〜。ここはエルフの隠れ里。君はこれからこの先にある洞窟で魔力の底上げと新たな技を習得してもらうっす」
ヘルメスが簡単に説明するも、セシルはまだ状況が飲み込めていないのか呆然としている。レイアークは目覚めたセシルに優しく微笑みかけた。
「はじめまして、セシルさん。私はこの里の長のレイアークと申します。気分が落ち着くまで話は耳に入れるだけで結構ですよ」
虚ろな目でセシルは頷いた。その様子を麻生は心配そうに見つめているーーこんな調子で魔獣のいる洞窟なんかに入っても大丈夫なのだろうかと。ヘルメスは話を続けた。
「では、明日からこの2人を修練窟へ向かわせます。あと、もう一つ。我々と共に戦って頂ける戦士をご紹介頂けないでしょうか?」
「あなた方とともに?ヘルメス様もなかなか強引でいらっしゃる。私たちエルフの民は余程のことがない限りこの森を出ることはありません。それを戦いに参加させたいとは些か我儘が過ぎるのではありませんか?」
先ほどまで笑顔だったレイアークの表情から穏やかさが消えた。その美しさが真顔になったことでより冷たく感じられる。多弁なヘルメスとさすがに口籠る。
「あ、あの…レイアーク様。その役目、私が受けては駄目でしょうか?」
険悪になった空気に割って入ってきたのは、覚悟を決めた面持ちのグレイスであった。
「グレイス…貴女、本当にいいの?もう、里には帰って来られないかもしれないのですよ?」
「はい。覚悟はできております」
「そう…わかったわ。ヘルメス様、お聞きの通りグレイスが同行を願い出てくれました。彼女を連れて行ってください」
「は、はい、ありがとうございます」
ヘルメスの様子からして、グレイスが名乗りを上げていなければエルフの同行者は諦めていたのかもしれない。ともあれ、なんとか話はまとまり一行は女王に感謝の意を述べその場を後にした。
まだ足元がおぼつかないセシルに肩を貸しながら歩く麻生はレイアークのいた大樹から出て、ようやく緊張が解けたのか大きくため息を漏らした。
「はあぁ…さっきの女王サマ、マジやばかったな…確実に"おこ"だったぜ?」
「いやはや、肝を冷やしたっす…グレイスさん、本当にありがとうございます」
「いえ。それよりもヘルメス様、神であることを知らなかったとはいえ、森では失礼いたしました。口調、普段通りで構いませんよ。私などに気を遣って頂かなくても」
「ハ、ハハ…では、お言葉に甘えるっす。それじゃ明日からの修練窟での修行に備えて、今日は道中の森で野営っす!」
「嘘だろ…宿に泊まらせてくれよ!」
「それが…この里には宿がないんです。そもそも部外者を里に入れること自体が異例なので…」
どうやらこの里に宿がないことはヘルメスも知っていたらしい。妙に腹立つ顔で下手な口笛を吹いているのが何よりの証拠だ。
「エルフの里の郷土料理食ってベッドで寝てぇよぉ〜」
「何ワガママ言ってんすか。これだから都会っ子は」
麻生の駄々を無視して里を出たヘルメスたちは修練窟までの道の間で、寝床になりそうな場所を探しながら歩くことにした。しばらく歩いて森の開けた場所を見つけると、森が暗闇に包まれる前に焚き火の準備を始めた。
「ヘルメスって神サマなのにアウトドアとかできんのな。焚き火の準備、手慣れてんじゃん」
「なんすかアウトドアって?俺は放浪することが多いっすからね。これしき朝メシ前っすよ」
石でかまどを作り、その中に枯れ枝と枯れ葉、さらにはナイフで枝を削って削りカスを入れると指先から火の魔法を出して手際よく焚き火を完成させた。
「それじゃアソージンとグレイスは手分けして何か食材になりそうなものを取ってきてほしいっす。俺はここでセシル君を見てるっすから」
2人が森の中へと入っていき、ヘルメスとセシルの2人になると木にもたれかかって呆然としていたセシルが急に話し始めた。
「……ヘルメス、僕は人間になったのか?」
「お、おや?もしかして…タナトス?」
「うん。色々と思い出したよ。まだ断片的だけど…ゼウス様の雷に打たれたところまでは思い出せた」
「なるほど…それじゃ全容を話しておこうかな。ゼウス様の雷は攻撃だけじゃなく、神自身がその身に受けると、神の力を封印する作用もあるっす。神としての力を封印された君をアレスが地上の適当な場所に置き去りにしたっすよ。で、今に至る…そんな感じっす」
ヘルメスの話からすると、タナトスは人間になったのではなく神の力を封印されているだけで、その身はまだ死神のままであるということだった。
「だから、僕が犯したミスの責任を全うして72柱の悪魔を討伐しなければならない…ってことか」
「そうっすね。その責任を果たした時、封印は再び解かれる…ってことっす」
ヘルメスの話でタナトスは合点がいった。ゼウスが放つ雷が別名"裁きの雷"と呼ばれている所以はそういうことなのかと。
「もう皆、僕が死神だとは薄々気づき始めているとは思うけど、僕は今まで通りセシルとして悪魔を討伐するよ。封印が解けるまではタナトスの名は名乗れない」
「了解っす。俺も微力ながら手伝うからさ…頑張るっすよ」
しばらくして麻生がキノコを、グレイスがウサギ数匹を持って帰ってきた。グレイスの持つウサギたちを麻生は目を細めて見ている。
「な、なぁ…それ、食べるのか?」
「ん?ええ、臭みがなくて美味しいわよ」
グレイスの手に握られている、もふもふとした毛並みの愛らしいウサギの姿を見る麻生の目が困惑に満ちている。どうもウサギを食すことに抵抗があるようだ。そんな麻生をよそに調理係となったグレイスは食材の下ごしらえを始めたが、肉の準備を終えたところで麻生が取ってきたキノコを手に取ると、しばらく調理の手を止めた。目を凝らしながらキノコを見つめると、1つまた1つと後ろに放り捨てた。どうやら毒性のあるキノコだったらしく、結局全て捨てられてしまった。
麻生のキノコが全滅したことで、肉とともに野草を少し加え煮込んだスープと焼いた肉のみとなった。火を囲み食欲をそそる匂いと共に晩餐を始めた。
「うんまっ!ウサ公ナメてたぜ!!それにしても、セシル。落ち着いたみてぇだけど…もう大丈夫なのか?」
「うん。心配かけたね」
ようやくいつもの調子に戻ったセシルに安堵する麻生。その様子を見ていたグレイスが何か言いたげにしていると、ヘルメスは人差し指を立てて口元に当てた。
「グレイス、料理上手っすね。君みたいな子が同行してくれると、このメンバーの食環境も安泰っすよ」
「そ、そうですか。お口に合ったみたいでよかったです」
食い盛りの若者2人によって瞬く間に鍋は空になり、腹を満たした面々は焚き火の揺れる炎を眺めながらまったりとした時間を過ごした。明日から入る修練窟という場所がどのような場所なのか、どういった修行を行なうのかなどセシルと麻生が思い思いに想像する中、ヘルメスはふとグレイスに尋ねた。
「グレイスはどうして同行に名乗りを上げてくれたっすか?君も他のエルフと同様、よそ者とは相容れない考えの持ち主だと思ってたっすけど」
「まぁ…色々ありますが、私は強くなりたいのです」
「ふーん…なるほど。じゃあ、頼りにしてるっすよ」
何やら他にも理由はありそうであったが、グレイスはそれ以上多くは語らなかった。
明日の修練窟に向けて、一行は火を消し早めに休むことにするのだった。
結局グレイスが仲間になるんかい!という、、、
カオスの予感とか言いながら、さほど荒れることもなく旅立つことになっちゃいました。
全然悪魔倒さへんやん、、、いつ終わんのよこれ。←作者が言うことじゃない




