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第十六話 メレルの森にて

今回は物語にほぼ進展がありません。

ただただ、アホな麻生くんをお楽しみください。


 気がつくと目の前には古代種のような見たこともない木々や花が生い茂り、陽の光も通さない樹海が広がっていた。バルフレア宮殿の円卓の間にいたはずが、180度逆の野性的な場所に立っているこの現状に訳がわからず辺りを見ると、近くの大木にもたれ掛かったセシルが項垂れている。


「お、おい、セシル?ここ、どこだよ?」


 返事がない。まさか死んでたりしないだろうなと慌てて近寄ろうとすると、どこからか声が聞こえてきた。


『いやぁ〜危なかったっすね〜。さすがにあんな大物が攻めてくるなんて思わなかったすから、油断してたっすわ〜あははのは』


 なんとも癪に障る笑い方に麻生は頭を掻きながら問い返した。


「誰だテメェ!ここどこだよ!出てこいや!!」


「後ろにいるっすよ」


 突如耳元でした声に麻生は飛び退き、振り返って身構えると、そこには全身から脱力感が滲み出ている金髪の男が切り株に腰かけてコーヒーを飲んでいた。


「いつからそこに….いや、ていうかあんた誰だよ?俺ら王宮にいたはずなのに、ここどこなんだ?どうなってんだよ?ヴァサーゴとかいうやつは?ダン師匠は無事なのか?コーヒーどこから持ってきたんだよ?いや、それよりもセシル生きてるか?!」


「忙しない人っすねぇ…落ち着きという言葉とは無縁な感じがするっす。まぁそれは置いといて…俺はヘルメスっす。セシル君に魔剣をプレゼントした足長おじさんっすよ」


「足長…いや、たしかに背もたけぇし長いかもだけど、今それアピールするとこか?で、そのヘルメスおじさんがこんな森で何してるんだよ?」


「あ〜君はアレっすね…頭弱い感じっすかね。オーケーオーケー。あと、おじさんじゃないから。ピンチの君たちを助けるために俺がここに避難させたんすよ。ここはメレルの森。王都ジャニスの遥か南にある大森林、別名エルフの隠れ里っす」


「誰が頭弱いだ、コラァ!ん?待て。今エルフって言ったか!?あの耳の長いエルフ!?マジで!?エルフいんのか!?すげぇ!!」


 頭の悪そうなリアクションをした麻生に苦笑いのヘルメスはこれまでの過程をひと通り説明した。

 この森へとセシルと麻生を転移させた直後、ヴァサーゴは帰っていったため、被害は爆発に巻き込まれて死亡したボルティモア卿と戦いによって負傷したダンのみであったということ。セシルは一種の錯乱状態にあったため今は魔法で眠らせているということ。

 そして、この森に来たことも含めて今後のことについて話し始めた。


「とまぁ、そんな感じで君らは弱いっすから、ここでもっと強くなってもらうっすよ」


「どんな感じだよ…つーか、あんた何が目的なんだ?俺たちを転移させたり、世話焼いてくれんのはありがたいけどよ」


 麻生の疑問の多さにヘルメスはなんとも言えない無表情のまま固まった。沈黙に包まれ、木の上で囀る小鳥たちの歌声や風になびく草木の葉擦れの音のみが響く。ヘルメスの雰囲気に先ほどまでのふざけた様子はなく、緊張感が漂う。麻生が生唾を飲み込むと、目を細めてヘルメスは低い声色で答えた。


「よく聞け少年。俺は天界オリュンポスから来たヘルメス。最高神ゼウスの使者であり、伝令を司る神だ。地上支配を足掛かりにし、やがて神々に喧嘩を売ろうとしている72体の悪魔どもを殲滅させるためにお前たちを利用している。それが答えだ」


 想像の斜め上をいく常識を逸脱した返答。ヘルメスのあまりの豹変ぶりと、話の内容に麻生のこめかみから冷や汗が流れ落ちる。


「キャ、キャラ変しすぎだろ…それになんだよ、オリュンポスとか神とかって…あ、あんた、アレだろ、ほら…あの、中二病だろ!」


「はあっ!?なんか意味はわかんないっすけど、失敬っすね!なんすか!チューニ病って!病気じゃないっすよ!」


 神様然としていた雰囲気から一瞬にして元に戻ったヘルメス。しかし、72の悪魔、神々との戦いなどという一介の学生には重すぎる真実に思考が追いつかなくなった麻生は、やがて考えることをやめた。


「あーもうわかったわかった!神サマが俺たちを利用して72匹の悪魔退治な!了解だ。なら、さっさと稽古を始めようぜ。あんたが俺らを鍛えてくれんのか?」


「うわぁ…その感じ、神に対する畏敬の念ゼロじゃないっすか。違うっすよ。俺が戦闘向きじゃないの見りゃわかるでしょーよ。この先の里でエルフたちにレッスンの協力を仰ぐっす。そんじゃ、セシル君を背負ってついてくるっすよ」


 ようやく歩き始めた一行は、森の道なき道を突き進んでいく。時折、草陰から顔を覗かせる小動物こそいるものの、どういう訳か魔獣のような凶暴な生物の姿は1つもなかった。ヘルメスの話では、エルフという種族は生まれながらに高い魔力を持ち、中でも長たる女王の座に着く者は計り知れない魔力があるという。コミニュティを汚されることを最も嫌い、多種族が森に立ち入れないようエルフの女王によって強力な結界が張られている。また、里の周辺には不可視の幻影魔法がかけられており、万が一森に入れたとしても里を見つけ出すことは非常に難しいという。

 ヘルメスの転移魔法によって、結界を無視して森には入ったものの、歩けども歩けども同じような鬱蒼とした木々ばかりで、麻生は本当に目的地に向かえているのか不安になってきた。


「なぁ?歩きすぎじゃね?そもそも幻影魔法?とかで隠されてるんだったら無理じゃね?迷ったりしてねぇよな?」


「な!?ばっ、馬鹿にしないでほしいっす!俺、神なんすから!幻影魔法とか見破れるくらいの実力はあるっす!もちろん道に迷うとかあり得ないっすから!」


 ーーあーダメだ。これ、迷った時のやつだ…たぶん。


「それにしても、王宮では運が悪かったっすね。まさかヴァサーゴが攻め込んでくるなんて。ヴァサーゴってのは、悪魔の中でも武闘派中の武闘派。そんなのと戦ってよく5体満足でいられたものっす。でも正直、今の5倍は強くならないと、まともにやり合えないっすよ」


「そ、そんなにかよ…つーかさ、あんた神なら神サマが殺りゃあ早くねーか?」


「ノンノン!俺ら神は本来、地上の出来事には干渉できないっす。だから、君らを強くして君らで解決して欲しいんすよ」


「上手いこと言って〜。ただ人任せなだけじゃねーの?」


「君ね!神様をバカにするとか…ほんと怒るっすよ?」


「あーごめんごめん。神サマ、アーメン」


「……。ほんとにこの子は可愛げがないっすね!」


「そういや、神で思い出した。ヴァサーゴがさ、セシルのことを死神とかタナ?なんとかって言ってたような気がしたんだけどさ…神サマなら何か知ってるか?」


 麻生の話にヘルメスは足を止めた。ヘルメスは天を仰ぎ手で目元を覆っている。何かマズイことでも言ったのだろうかと麻生は首を傾げた。


「いつかはバレると思ってたっすけど…予定よりもだいぶ早いや。あちゃぁ…どうしたもんすかねぇ…まぁ、こうなったら隠してても仕方ないっすね。実は…」


 ヘルメスは死を司る神であったタナトスが如何にしてセシルという少年へと至ったのかを要約して説明した。


「な、なんだよ…めちゃくちゃ波瀾万丈じゃねぇか…そもそもセシルは悪くねぇだろ!それなのに今また神のパシリに利用されて穏やかな生活から遠ざけられようとしてるのか。不憫すぎるぜ!おい!ヘルメス!セシルのことはもうそっとしといてやれよ!」


「誰がパシリじゃい!それは出来ない相談っす。彼が悪魔を討伐することに意味があるんすよ…じゃないと、ゼウス様が…」


 いかなる理由にしても、苛酷な境遇のセシルを思う麻生はこれ以上足を進めようとはせず頑なに立ち止まってしまった。口論になり説得を試みるヘルメスと反発する麻生。

 その時、2人の間を風切り音が過ぎ去り、一本の矢が木に刺さっていた。


「そこの2人。何者だ!」


 矢が飛んできた方向を2人で向くと、背丈の3倍ほどある樹木の高い位置の枝に立つ女性らしき姿が見えた。


「お、おい、あれって…エルフじゃね?」


「そうっすね」


 女は枝から飛び降り、華麗に着地するとこちらに向かって短剣を構えながら歩み寄ってきた。


「あなたたち、結界に守られているこの森にどうやって入ったのか知らないけれど、この森は女王レイアーク様の治める地。早々に立ち去りなさい」


 狩人のような格好をし、プラチナブロンドの美しい髪に雪のような白い肌。紺碧の瞳に特徴的な長い耳を持つその姿に麻生は目を輝かせて熱視線を送っている。この状況でよくそのテンションでいられるなと呆れ気味のヘルメスであったが、ひとまず事を荒立てないためにもこのエルフに事情を説明するのが先決。麻生の前に出てヘルメスは一礼をした。


「これは失礼しました。私はヘルメスと申します。この者はラグナス王国騎士団所属のアソージン。そして彼の背中で眠っている子は同じく騎士団のセシル。我々はそのレイアーク様にお目通したく転移魔法にてこの森にやって来た次第にございます。ですが、途中で道に迷ってしまいまして…どうか、女王様のおわす隠れ里までご案内いただけないでしょうか?」


 ーーこいつ!いつもと喋り方違うじゃねーか!?つーか、やっぱ道に迷ってたのかよ。それに俺もセシルも修行させてもらってるだけで騎士団員じゃねーし!どんだけホラ吹いてんだ…本当に神サマかどうか怪しいもんだぜ。


 ヘルメスの普段とは違う弁えた態度に呆れつつ、麻生も空気を読んで軽く会釈をした。エルフの女はさっきと変わらず冷たい目でこちらを見ているが、今すぐに追い出されそうな状況は回避できたようだ。


「ラグナス王国の…。それはわかりましたが、女王様にはどういったご用件で?」


「このアソージンとセシル。2人の修練窟での魔導修練。それと、我々と共に戦って頂けるエルフ族の戦士をお引き合わせ頂きたく…」


 ーーシューレン靴?何の靴だ?エルフに凄腕の靴職人でもいるのか。


「戦う?何と……いえ、まぁいいでしょう。ご案内致します。詳しくは女王様と話してください。申し遅れましたが、私はグレイス・ドゥロワ。この森の守り人をしています。さぁ、行きましょう」


 修練窟という謎に包まれた場所で血の滲むような厳しい修行をさせられるとも知らずに、スニーカー好きの麻生は"シューレン靴"という未知の靴に思いを馳せながらグレイスの後をついていくのであった。

新キャラ、エルフのグレイスさん。

生真面目な学級長タイプの彼女がアホな麻生くんとアンニュイな神、ヘルメスの2人とどういう絡みを展開するのか、、、カオスの予感!!←どういうテンション

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