第十五話 円卓の間の攻防戦
前回、続きが気になる感じで終わったにも関わらず、今回はその続きから始まらないという焦らしプレイを導入してみました。←夜のサービスみたいに言わない
ウルド帝国三魔将、ヴァサーゴがバルフレア王宮に現れる1時間ほど前ーー
ウルド帝国ドグラウス城砦のとある一室に3人の将軍が集まっていた。豪奢な調度品が並ぶ客室のようなこの部屋には革張りの大きなソファが置かれており、3人はそれぞれ腰掛けて他愛のない話をしていた。
「眠ぃ…ディアマンテの野朗はまだかよ」
「ねぇ、ヴァっさ〜ん。イイ男紹介してよ〜」
「イイ男?お前ブッ殺すぞ。目の前にいるじゃねぇか」
ソファの手前に腰を掛けてだらしない姿勢で寝る気満々のヴァサーゴと、露出の多い格好でプラチナブロンドの長い髪をポニーテールにした紅い吊り目の女が話をしている。
「いや、あたし坊主とかムリだし」
「……ヴァサーゴ、ルナ。少し静かにしてくれないか」
筋肉質で大柄、焦茶色の髪は毛を逆立てたハリネズミのようにツンツンとした毛先が四方八方にはねている強面の男が目を閉じながら注意する。
「おい、バル…俺は関係ねぇだろ。うるせぇのはルナだけだ」
「バルちゃん、ご機嫌ナナメ?はいはい、黙ってまーす」
ルナと呼ばれた女が口を尖らせて拗ねていると、部屋の扉が開き、宰相のディアマンテが入ってきた。相変わらずまとまりのない3人の様子にため息を漏らしてから話を始めた。
「待たせたな。呼んだのは他でもない…もう耳にしているだろうが、バルバトスのところの騎竜兵団を率いて国境に向かわせたアスタロトが大きな傷を負わされて撤退してきた」
「ほう?なんだそれ、面白そうな話じゃねぇか」
「マジぃ?タロっち負けるとかヤバヤバじゃん」
「………」
ディアマンテの話に他の2人は興味津々の様子であったが、バルバトスだけは眉間にシワを寄せるのみであった。その姿を横目に見ていたヴァサーゴは葉巻を取り出し、指先から出した火を点け紫煙を燻らせ始める。部屋中に甘い香りが漂う中、しばしの沈黙の後にバルバトスが重い口を開こうとすると、先にヴァサーゴが声を上げた。
「よし!俺が今から挨拶がてら様子を見てきてやるよ。あわよくば王宮ごとぶっ潰してきちまうかもだが。ハハハッ!」
「…待て。今回は自分の部下の不始末。ここは自分が……」
「いいっていいって。細かいこと気にすんなよ、バルバトス。ちょうど暇してたんだ。サクッと行ってアスタロトに傷をつけたヤツがどんなのだったか、教えてやるから。なっ?」
ヴァサーゴの押しの強さにバルバトスは再び黙り込む。バルバトスの返答を待たずにヴァサーゴが立ち上がろうとすると、ディアマンテが不快そうな顔で口を挟んだ。
「ヴァサーゴ、座れ。まだ話は終わっていない」
「んだよ。偉そうに。それならさっさと終わらせてくれ」
太々しい態度でヴァサーゴが腰を下ろす姿を、ルナは口元に手を当て笑いを堪えている。
「アスタロトに傷を負わせたのは、魔導学院の学生だ。しかも、魔剣を手にしていたという。余談だが、マルバスを覚えているか?ヤツはこの学生によって既に消されている」
ディアマンテの言葉に3人の目つきが鋭くなる。
悪魔は基本的に徒党を組まない。しかし、このウルド帝国には珍しいことに悪魔が数名身を置いている。3人の将軍が三魔将と呼ばれるのもそれが所以である。徒党を組まないとはいえ、ソロモンからやって来た悪魔72柱の皆が見知った同胞であることには変わりない。その同胞の1人が殺されたというのだ。穏やかであるはずがなかった。
「マルちゃん死んだんだ?ま、アイツ息クサかったしどーでもいーけど」
「んな可哀想なこと言ってやんなよ。ま、息が臭かったのは否定しねぇが」
「だから単なる余談だと言っている。しかし、いくら魔剣を手にしていたとはいえ、ただの学生がマルバスを倒したり、あのアスタロトに深傷を負わせられると思うか?」
「アスタロトの野朗が油断してたんじゃねぇのかよ?」
「それもあるかもしれんがな。だが、話によれば、魔剣から放たれた魔力が異質だったという…我らがよく知る"神"のそれと似ていた…とな」
神ーーそれは悪魔にとっては並々ならぬ因縁のある存在。その学生が神のような魔力を持っている。それだけで彼らを奮起させるには十分であった。
ヴァサーゴは勢いよく立ち上がって部屋を出ようとする。ルナとバルバトスもそれに続いて立ち上がる。
「茶化しに行くのは結構だが、最後に1つ言っておく。その神はおそらく死神…タナトスだ」
そして現在ーー
「死神のチカラってのはこんなもんなのか、タナトスさんよ?」
「誰がザコだ!コノヤロウ!死神?何言ってんすかね、あいつ」
「い、いや、わからん…」
ヴァサーゴの言葉に麻生とダンは疑問符を頭の上に浮かべる。しかし、セシルの反応は違った。
「しに…がみ?僕が…どういう…うっ、頭が……」
セシルの頭の中に濁流のように様々な映像が流れ込んでくる。ある所では暴風が吹き荒れ、ある所には霧が立ち込める鬱屈とした暗闇の世界。自分とよく似た幼き少年の姿。大事にしていたようなランタンが割れる瞬間。部屋から出ることの出来ない憂鬱な日々。そして、白いローブを纏い白い立派な髭の老人が錫杖を掲げる姿。
「おいおい、どうしたどうした?何か気に障ることでも言ったか?隙だらけじゃねぇか」
頭を抱えて屈み込むセシルに容赦なくヴァサーゴが襲いかかる。見かねた麻生は飛び出してヴァサーゴの上段から振り下ろされた踵落としを両腕でガードする。ダンはセシルの側に駆けつけて声をかけた。
「おい!セシル!!どうした?!どこかやられたのか?」
「ぼ、僕は…」
ダンの声はセシルには届いていないようだった。仕方なく、担ぎ上げて後退すると同時に麻生がヴァサーゴに反撃の拳を繰り出した。
「ザコに用はねぇって言ってんだろ!」
迫る麻生の正拳突きを掌で包むように掴むと、70kg以上ある麻生の身体を片手でそのまま力任せに上へと放り投げた。最上階であるこの部屋の天井を突き破り、宙に浮かぶなどと生優しいものではなく、軽く100フィート以上の上空まで飛ばされ限界の高さまで上がると、風を切り猛烈な速さで落下し始めた。
「や、やべぇ!マジでやべぇ!!これどうすりゃいいんだ!?屋根に激突する!死ぬ…死ぬのか、俺!?」
姿を消した麻生に気付いたダンはセシルを部屋の外の廊下に座らせるとすぐに部屋に戻って天井の穴に気がついた。
「お前にも用はねぇ!!消えろ!!」
しかし、部屋に入ってすぐのダンをヴァサーゴの中段蹴りが襲い、ダンは部屋の外の壁に叩きつけられた。麻生のように突き破りこそしなかったものの、壁は大きく減り込み、ダンの全身の骨にダメージを与えた。
「おい〜タナトスぅ。せっかく来たんだ、もう少し楽しませてくれよ」
部屋の中から外を覗き込むようにヴァサーゴがセシルを見下ろす。セシルは未だに震えながら頭を抱えている。しかし、次の瞬間、ヴァサーゴの背中に重い一撃が命中した。
「はあ?なんだお前。まだ生きてたのか?」
振り返るとそこには、無傷の麻生が切羽詰まった表情で腕を前に構えていた。
ーーっぶねぇ…落下して屋根に直撃する瞬間に時間止めて衝撃を緩和させてなきゃマジで死んでた…
「やかましい!お前の相手は俺だ、コンチクショウ!!」
「目障りだな。ちゃんと殺しとくか」
ヴァサーゴの人を人とも思わない冷たい視線に麻生は戦慄する。負傷に負傷を重ねたダンはもう動けそうにない。セシルも戦意を喪失している。もはや絶体絶命かに思われたその時、麻生とセシルがその場から姿を消した。
「なんだ?!どこ行った?!あ!タナトスもいねぇじゃねぇか!どうなってんだ、クソが。チッ、興醒めだ…帰るか」
突如姿を消したセシルたちに、面倒になったのか追跡を諦めたヴァサーゴは入ってきた壁の穴から外へ飛び出てそのまま葉巻に火をつけ歩いて王宮の敷地から出て行くのであった。
これまで登場する悪魔の名前は伝記?聖書?に出てくるソロモン72柱の悪魔からつけていたんですが、女の子の悪魔も参戦させたい!
だって女の子がたくさん出てきたほうが盛り上がりますもんね!←なんの偏見
という訳で、三魔将にルナ・ディアスというサキュバスを加えてみました!←本編ではまだルナとしか呼ばれてませんが、、、




