第十四話 三魔将現る
タイトルが昭和くさい。
いや、これはあえての昭和くささです。
レトロブームに乗っかったエモい表現ってやつです←エモいの使い方がギコちないのはご愛嬌ということで。
聖女セレスティアの本性にセシルが度肝を抜かれている頃、麻生はーー近くの物陰に隠れてその様子を覗き見しながら白目をむいていた。(二回目)
「お、俺の天使がセシルに壁ドン…出会ったばかりなのにアプローチ強すぎんだろうがよ……」
幸か不幸か、どうやら話の内容は麻生には聞こえていなかった。ショックのあまり天に昇り始めた魂を身体に引き戻すと、麻生は肩を落としてその場を去って行った。
「えっと…ごめん。ジャマするつもりはなかったんだ」
「もういいわよ!まったく…王都の危機を救った騎士がイケメンだって聞いていたから、私を優しく包んでくれるような大人オーラ全開のイケオジを想像してたのにさ!アンタ、ただのガキじゃん!……ま、まぁ?たしかにイケメンだし?アリかナシで言えば、わりとアリなんだけど…」
「……?」
「…?じゃないわよ!まぁいいわ。と!に!か!く!この後の会議ではだまっ…コホン。セシル様はご友人とお話しされるのがお好きなのですね」
「え…口調が…」
セレスティアは話の途中で王宮の侍女たちが廊下の奥から歩いてくるのが見えた途端に口調を聖女らしく元に戻した。が、セシルが余計なことを言おうとしたので、セレスティアは見えないようにセシルのスネを蹴った。
「いたっ!」
侍女たちは2人の初々しい様子に微笑みながら通り過ぎていく。遠ざかったのを見計らってセレスティアは小声で話を続けた。
「余計なこと言うんじゃないわよ!とりあえず、会議では黙ってなさい。いいわね?それじゃそろそろ戻るわよ!」
セシルに釘を刺すと、セレスティアは澄まし顔で会議の間へと戻っていった。
ーーなんか、吹き荒れて去っていく嵐みたいな人だったな…
セシルは頭を掻きながら会議の間に戻り、再び円卓の席に着くと麻生がすごい形相でこちらを見つめている。歯を食いしばっているのに目は悲しそうだ。どういう感情なのか、さっぱり読み取れない。
「ジン、それ、何の顔…?」
「愛しさと切なさと殺してやりたさだよ!」
「…複雑だね」
麻生のことを笑いながら、ふと視線を感じて視線の先を見ると、セレスティアが死んだ目で笑顔を浮かべている。何かよくわからないが、とりあえず怖いのでセシルは大人しく口を閉じ俯いた。
それから会議が再開し、具体的な国境の守りについての話し合いが始まった。
国境防衛の要であるザイオン砦が崩壊したことで、現在は国境付近のトロワ領を有するユドラ辺境伯の私設軍に防衛が一任されている。両国とも甚大な被害を出した故、すぐに先日のような規模の侵攻は来ないと踏んでの臨時の対応策である。
ーーそうか、それで父さんは来ていないのか。
早急なザイオン砦の建て直しと、騎士団の再編成が急務ということで、砦の復旧資金をここに来ている貴族たちにお願いする形となった。また、イレニア大聖教が独自に有する僧兵部隊をその防衛に加えることが出来ないか、セレスティアに話が及んだ。
「それは難しいですね。現在、我が僧兵部隊は各地に出没する魔獣の討伐を行なっています。その部隊を国境付近に集約してしまうと、防衛力を持たない街や村の守りが手薄となり、罪のない国民に被害が及ぶやもしれません」
それぞれの陣営がギリギリの状態で己が守るべき場所を守護している。ザイオン砦が破壊された今となっては当然、騎士団が守護すべきは王都となる。しかし、先の戦いで敵将が放ったような極大魔法が使用されれば、いくら少し離れた場所で戦闘が起きようとも規模が大きすぎて王都にも甚大な被害が出ることは明白。
そのような解決策の見えない議論を終始黙って聞いていた王が口を開いた。
「敵将を退けたという少年。彼を騎士団に入れよ。そしてこちらから帝国領へ攻め入るのじゃ」
場の空気が一瞬にして凍りついた。無名の学生を騎士団に入れること自体、前代未聞であったが、これまで守りに徹してきた王国の方針を覆す一言。
「お、王よ、お待ち下さい。彼はまだ学生です。騎士団に入れるだけでなく、そんな最前線に赴かせることなどあまりに酷ではないでしょうか…」
「ダンよ。ではお主たち騎士団だけでこの難局を切り抜けることが出来るのか?大きな力を持つ者には、その力を果たす責任がある。彼はそのために遣わしてくださった女神の使者であると儂は思うておる。異論はあるか?」
ーー女神の使者?そんな大袈裟な…僕よりもリエリカの方がずっと強いのに。
虚げな目で王の話を聞いていると、セシルは急に激しい頭痛に襲われた。
ーーくっ、この感覚は……
円卓を囲んでいたはずの王や貴族たちが血塗れで床に転がっている。えづきそうな鉄の臭いが部屋に充満している。何が起きたのかと周囲を見回すと、黒い影が宙に浮いていた。
ーーな、なんだ、あれは……
気がつくと、王の提案にダンが反論している。今のはーーヴィジョンだったのか。今いる場所と変わらない場所のヴィジョンが見えることなど今までになかった。それはつまりーー
「みんな!!ここから避難して!!」
話を遮って突然叫んだセシルに皆は、何を言っているのかよくわからないというような顔で呆然としている。その時だった。窓ガラスが一斉に割れて破片が飛び散っていくと同時に壁が爆散した。爆散した壁に一番近かった席のボルティモア卿は爆風で吹き飛ばされ壁に叩きつけられたーー壁に大きな血痕を残して。
護衛の兵はすぐさま王に覆い被さるように守り、セレスティアの背後で立っていた僧兵と学院理事のラーニャ司祭もすぐに魔法障壁をセレスティアの周りに展開させた。他の貴族たちは我先にと部屋から出て行こうと慌てふためき大混乱の極みである。
セシルは青ざめている。数秒前にヴィジョンで見えた光景へともう、今まさに直結しようとしている。麻生が肩を掴んで揺さぶり逃げるよう催促してきているが、その声は届いていなかった。
すると、砕けた壁の外から声が聞こえてきた。
「あっれ…力加減を間違えたか?今ので誰か死んだな…王だったらマズイぞ…あっけなさすぎてストーリー性がない。どれどれ?」
壁に手をかけ外から入ってきたのは、真紅のロングコートを羽織り、赤髪の坊主頭で側頭部にはトライバルのようなバリアートの入ったアヴァンギャルドな風貌の男だった。爬虫類のようなぎょろりとした目で部屋全体を見ている。まるで獲物が何人いるのかを確かめるかのように。
ダンは護衛の兵にすぐにここから王を避難させるよう指示を出して、男の前に立ちはだかった。
「貴様!何者だ!!」
前に出たダンの姿を男は舐め回すように見て鼻で笑った。
「お前さん、出てきた勇敢さは認めるが満身創痍じゃないか。肋骨、鎖骨、肩甲骨…ふむ、6〜7本は折れてるな。そんな状態で俺に挑むのか?」
「問題ない。何者かと聞いている」
ダンの機転によって王やセレスティア、貴族たちはようやく皆部屋から出て行くことができ部屋に残ったのは、ダンとセシルと麻生の3人だった。
「人に尋ねる時はまず自分からじゃないのか?まぁいいか。俺はウルド帝国、三魔将が1人ヴァサーゴ。今日は挨拶だけしに来たつもりだったんだがな。ところで、そこのガキたちは逃げなくていいのか?」
ダンが振り返ると、俯いたまま考え込むセシルと臨戦態勢をとっている麻生がいたことに驚き、早く出て行くよう怒鳴りつけた。
「んなこと言っても師匠、身体ボロボロじゃねぇか!俺も加勢する!!」
「イキが良いじゃないか。嫌いじゃないぜ。だが、相手の力量も計れないようじゃ、勇敢ではなくただの無謀だ」
「三魔将?聞いたことがないな…挨拶は済んだだろ。そろそろお引き取り願えないか?」
ダンはセシル達を庇うように腕を伸ばしてヴァサーゴを牽制している。そこでセシルは考えがまとまったのか、我に返って魔剣を抜いた。
「ここは僕がやる。ジンは団長を連れて避難して」
「アホか!こないだちょっと敵将を退けたからって調子に乗んなよ!こいつは前の奴より明らかにヤバイ。わかんだろ!?」
セシルと麻生が子供の喧嘩のように言い争い始め、ヴァサーゴはため息を漏らした。
「お前がアスタロトを引かせたっていう魔剣のガキか。アスタロトのヤツ、こんなのに負けちまうなんて…俺だったら恥ずかしくてもう表歩けねぇよ」
ヴァサーゴの言葉にセシルが反応すると、不意打ちのようにいきなり魔力を込めた剣閃を放った。至近距離で放たれた剣閃は確実にヒットするかに思われたが、ヴァサーゴはハエでも叩き落とすかのように掌でその剣閃を叩くと、剣閃はガラスが割れたように砕けそのまま霧散した。
「え…そん…な…」
これまで敵を切り裂いてきた魔剣の威力が、掌ひとつでかき消されたことにセシルは動揺を隠さないでいる。戦意を喪失しかけているセシルを援護しようとダンと麻生は腰を落とし構えた。
「後ろのザコ2人に用はない。やめときな。それにしても、なるほどなぁ。これが魔剣か…油断して食らっちまうとたしかに危ねぇかもだが、死神のチカラってのはこんなもんなのか、タナトスさんよ?」
ヴァサーゴの発言でついに神バレ!?←神バレて
ウルド帝国の軍部には3つの部隊があり、その部隊それぞれに指揮官となる将軍がいます。それが三魔将。
その1人であるヴァサーゴのご紹介。
赤髪の坊主にバリカンアート(ラインとか模様とかのアレ)を入れてる東京リベ⚫︎ジャーズとかに出てきそうなイカついヤツ。
見た目の割に冷静沈着でハスキーボイス(イメージは津田さんあたりです←ダイアンじゃないほう)




