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第十話 凶報

セシルと麻生の修行がようやく開始。

そんな矢先に、、、


 格闘訓練を個別で受けることになった麻生を残してセシルが連れてこられたのは、打込台が並ぶ新米兵士たちの訓練スペースであった。


「じゃあ、セシル君はここで剣を持って薙ぎ払いの素振り500回ね」


「……え、ご…ひゃく…」


「薙ぎ払いは敵と距離を取るために有効な技だから、マスターしておかないと。型をしっかりと身体に覚え込ませて、剣筋がブレないようにしっかりと振り切りなさい。それが終わったら、私と模擬戦よ」


 ーー拷問か。


 とはいえ自ら志願した手前、拒否することも出来ない。セシルはタルに何本も入っている木剣を抜きとり打込台に向けて素振りを始めることにした。


「セシル君、木剣じゃなくて貴方の持っている魔剣で素振りしなきゃダメよ。貴方は達人じゃないから、実戦の時に握った感覚、剣の重さが変わるだけで型が崩れる可能性があるの。だから、最初は自分が使う得物で身体に覚えさないと」


 ーー地獄か。


 セシルは木剣をタルに戻して、魔剣の柄に手をかけた。


 ーー待てよ。この剣、振ったら剣閃みたいなのが出てスパスパ斬れちゃうんじゃ…ま、いいか。


 半ばヤケクソ気味に魔剣を鞘から抜き、打込台に向けて薙ぎ払った。打撃のような痕こそ付いたが打込台は悪魔マルバスのように真っ二つにはならなかった。


「リエリカ、この打込台って何の素材を使ってるの?」


「……?丸太に藁を巻きつけてあるだけだけど…どうかしたの?」


「この剣、一振りで光みたいなのが出て悪魔を裂いたんだけど、今は斬れなかったから」


「なるほど、そういうこと。たぶんだけど…貴方の意思に呼応するんじゃないかしら?敵を斬るという意思に。今は訓練ってわかっているから、剣が反応しなかったのかもしれないわね。魔剣だし」


 魔剣という理由で最後にざっくりとまとめられたような気がしたセシルであったが、考えてもわからないので再び訓練に励むことにした。


 すっかり陽が落ち、訓練場の至る所に松明が灯され始めたが、それでもセシルは無心に魔剣を振り続けている。席を外していたリエリカが戻ってくると、セシルは手を止めた。


「リエリカ、もう無理。339回。腕が壊れる」


「あら、思っていたより多く出来たわね。初日にしてはよくやったほうじゃない?」


「い、いいの?あと161回残ってるけど…」


「ええ、初日から出来るとは思ってなかったから問題ないわよ」


 ーー鬼か。


「模擬戦もしたかったのだけど、もう遅いわね。今日のところは終わりにしましょうか。お友達も連れて帰ってあげて」


 ーー連れて帰る?


 言い方に少しひっかかりながらも、セシルは麻生のところへと赴いた。人が地べたで倒れている。近寄ってみると、そこには顔をパンパンに腫らした麻生が気絶していた。


「よお!少年!すまんが、やりすぎた!しかし、なかなか根性があってイイぞ、こいつは!明日も来るように言っておいてくれ!」


 右腕と腰がすでに悲鳴を上げているこの状態で、この汗臭いガチムチを背負って帰れと言う騎士団の恐ろしさを、セシルは改めて思い知ることとなった。




 翌日ーー


「セシル…今日もバルフレア宮殿…行くのか…?なんかよ…身体が拒否反応を示してるっつーか…ダン団長のことを思い浮かべると胃がムカムカしてさ…このままじゃ俺、ストレスでハゲちまう気がすんだよな…」


「いいじゃん。ハゲたほうがベテラン武闘家みたいだよ」


「いや、それを言うならハゲじゃなくて弁髪だろ」


「ベンパツ…ってなに?」


「……なんでもない。はあ…今日もタコ殴りにされんのか…口の中切れてメシもろくに食えねぇんだぜ…やってらんねぇよ」


「僕もジンのところとそう変わらないけどね…剣を振りすぎて握力が赤ちゃん並になってる。フォークを持つことすらままならない」


 食堂のランチを前に置いたまま2人は大きくため息を漏らした。ワッツは話に入ることができず苦笑いを浮かべているが、少しでも2人のにやる気を起こしてもらおうと声をかけた。


「でも、2人とも王国騎士団で修行なんて、すごいことだよ!将来が約束されたようなものじゃないか!」


 目を輝かせて励ますワッツのほうを見てから、セシルと麻生は2人で顔を見合わせて再びため息をついた。どうやら、ワッツの言葉は響かなかったらしい。さすがのワッツも少し額に血管を浮き立たせ、激励の仕方を変えた。

 こちらから押し掛け、無理を言って訓練のお願いをしておきながら、たった1日で逃げるのは男としてーーいや、人として如何なものか、という辛辣なツッコミが穏やかな顔をしたワッツの口から出たことにより、2人は人としての尊厳を守るため今日もバルフレア宮殿へ向かうことを宣誓した。そして目の前のランチを貪り食い始めたーー腹は減っていたらしい。



 その日の放課後、2人は重い足取りで宮殿へ向かうと、宮殿前に何台もの馬車が停まっており、兵士たちが慌ただしく武器や食糧を積み込んでいた。


「何かゴタついてるな…とりあえず聞いてみるか」


 麻生は駆け回る兵士の1人を呼び止めて、何が起きているのか尋ねると、ウルド帝国がザイオン砦に攻め込んできたとのことだった。これまでも防衛に成功してきたラグナス王国だが、今回はどうやらかなりの苦戦を強いられているらしい。


「いつもはリザーディっていう大型のトカゲに騎乗してる奴らが今回はどういう訳か、ドラゴンに騎乗してる奴がいるらしくてな。団長も副団長も出て行っちまって…長期戦に備えて食糧も運搬してくれって指示があったんだ」


 事態はかなり切迫しているようで、これ以上話を聞くのは邪魔になるだろうと麻生はセシルのところに戻った。


「修行、今日は無理かもな。団長たち国境に向かったらしいぜ?」


「そうなんだ。じゃあ、帰ろうか」


「待てって!ドラゴンがいるらしいぜ?俺たちも修行の成果が出てるか確かめるのに行ってみねぇか?」


「修行の成果って、1日しかしてないじゃん。それに僕たちが行っても邪魔になるだけだろ」


 ドラゴンという存在に麻生は浮かれ気味であったが、セシルの冷静な判断に少し口を尖らせた。


「んだよ、薄情なやつだな。俺は行くぜ!世話になった騎士団が困ってるんだ。少しでも出来ることはあるはずだからな!じゃあな!」


 麻生は走って再び兵士に連れて行ってもらえるよう交渉しに走っていった。しかし、その麻生の後ろ姿を見送っていたセシルの頭にヴィジョンが流れ込んできた。


 瓦礫が散らばった荒原に飛散した血痕と原型を留めていない大勢の兵士の無惨な亡骸の中で何者かに胸を貫かれ生き絶えていく麻生の姿。ドラゴンは宙を舞い、騎乗する男がこちらを見ながらほくそ笑んでいる。


 ーーっ!?


「ジン!!待って!!僕も行く」


 青ざめた顔でセシルは麻生を呼び止めた。


「なんだよ、1人で帰るのが寂しいのか?この寂しがり屋めぇ〜」


 麻生のウザい絡みを無視してセシルは兵士に協力を申し出て馬車にのりこんだ。麻生も頬を叩いて気合いを入れると馬車に乗り込み、一向はザイオン砦に向けて出発した。さきほど頭に流れたヴィジョンが鮮烈すぎた為か、セシルは馬車に乗り込んでからも終始険しい表情で黙り込んでいた。


「な、なあ、セシル。お前、大丈夫か?顔色悪いぞ…元からだけど」


「大丈夫。気にしないで」


 声をかけても素っ気ない反応しか返ってこない上、気分が悪そうなセシルを気遣ってか、麻生も次第に無言になる。


 ーーリエリカやダンもいる状況で、ジンや兵士たちがあれだけ凄惨なことになるなんて、余程のことがないと起きえない。到着したらすぐにファントム・メナスで悪魔の有無を確認しよう。



 その頃、ザイオン砦ではーー


「カタパルト隊!!撃てぇーーぃ!!」


 砦の外壁上に十数台並んだ投石機からウルド帝国側に向けて一斉に鉄球が放たれた。蒼穹を舞うドラゴンは飛来する鉄球を避けながら、ブレスを放つが砦にいるラグナス王国の魔導士部隊によって常時、展開されている魔法障壁がブレスの直撃を防ぐ。それでも障壁内にまでブレスの熱だけは伝わってくる。蒸し風呂のような熱気の中で投石機に次弾が装填されていく。

 また、地上では突入してきたリザーディの騎竜兵団を、副団長であるリエリカの指揮でラグナスの騎馬隊が応戦し、侵攻を食い止めていた。

 地・空ともに戦力は拮抗しているように見えるが、ドラゴンに騎乗しているアスタロトは不敵な笑みを浮かべていた。


「さて…こういった血湧き肉躍る戦争は久々なもので、やや名残惜しい気もするが…あまり時間をかけすぎるとディアマンテの奴が煩いからのう。そろそろと終わらせるか」


 アスタロトはドラゴンと共に天高く昇り詰めていき、雲を突き抜けた場所で手にしていた戦斧を掲げ、戦斧の先に魔力を集約し始めた。


「異界より顕現せし黒曜の宿怨、生ある者を殲滅すべく漆黒の驟雨となりて討ち滅ぼせ…」


 ウルド帝国の騎竜兵団を相手にしながら、リエリカは肌を刺すような張り詰めた空気に異様な気配を感じ空を見上げた。帳が下りたように蒼天の空が次第に黒く染まっていく。


「なん…だ…あれは…。全員!!退避ぃーーっ!!」


 リエリカの号令によって騎馬隊は一気に後退していく。それに乗じようとウルド帝国側の兵士たちは更に追い詰めるため突き進んでくる。


「ダメだ!!お前たち!!死にたいのか!!退け!!退くんだ!!」


 アスタロトの戦斧の先にドラゴンと同等の大きさまで膨れ上がった魔力の球体が一気に弾けた。


「ラグナレク・エンディミオン」


 アスタロトの詠唱とともに、弾けた魔力球から数千の漆黒の槍のようなものが一斉に地上に降り注いだそれは敵味方、関係なく無差別に次々と兵士たちを貫いて地面まで抉り取った。その攻撃は人だけでなくザイオン砦にも降り注ぎ、外壁がまるで陶器のように簡単に砕け散っていく。もはやこの地が更地になるまで攻撃が止むことはないのかと思えるような、長いようで刹那の出来事だった。黒き雨が止む頃には辺り一帯に土煙が漂うだけとなった。


「…呆気ないものだ。やはり大技は味気なくて好かん」


異世界ものなどのラノベやアニメだと、魔法の詠唱シーンってよく見かけると思うんですが、詠唱文ってあんまり意識して読んだり聞いたりしてこなかったんですよね。

でも、いざ自分で考えてみると、なんでしょうね、、、圧倒的な中二病力が必要になると言いますか、、、いやまぁ中二病力ってなんやねんって話なんですが。

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