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第一話 騙された死神

タイトル的にコメディーっぽいですが、いちおう学園もの+冒険ものかな〜と自分では思ってます。

もちろんコメディ要素もなくはないと思うのですが、主人公のキャラがキャラなので、、、


そんな感じで、これからよろしくお願いします!

「見て、あの方。見かけたことのないお顔だけど、どなたかしら…とても美しいわ」


「貴女、知らないの?!最近、魔導科の特級クラスに編入してきたセシル君よ。トロワ辺境伯のところのご子息で、容姿端麗、頭脳明晰ってウワサの!」


 校門から学舎へ続く道を行く女生徒たちが足を止めて熱い視線を送ってきている。セシルは視線を合わさないよう俯きながら伏目がちでそそくさと学舎に向かって歩いていく。


「落ち着かない…」


 今まで死人にしか姿を見られていなかったせいか、セシルは多対一に慣れていなかった。それが女子となれば、なおさらのことだ。


「それもこれも、全てはあの日の出来事のせいだ…」





 遥か昔ーー神話の時代。ティタノマキアと呼ばれる10年にも及ぶ神々と巨神族との大きな戦があった。


 巨神族を率いていたのは二代目最高神クロノス。

 クロノスは己が保身のため、身分を脅かすかもしれない自身の子であるハデス、ポセイドンなどを次々と飲み込んでいった。そして、末子である幼かったゼウスにまでその魔の手は迫ったが、妻であるレイアの機転によって、ゼウスだけはその危機を回避することが出来た。


 やがて成長したゼウスは兄弟を救うため策略を練り、祖母から受け取った嘔吐薬を飲ませることで兄弟たちを救うことに成功する。

 そして、救い出した兄弟たちと共にゼウス率いるオリュンポスの神々は、クロノス率いるティターン神族を打倒し、戦を起こした。

 長き月日を経て、キュクロプスやヘカトンケイルという巨人たちを味方につけたゼウスは戦に勝利し、三代目の最高神となる。

 ゼウスは不死であるクロノスら巨神族を地下の世界、冥界"メガリス"のさらに下層、奈落と呼ばれる地"タルタロス"に封印した。

 その後、ゼウスは天界を治め、大海を兄のポセイドン、冥界を長兄であるハデスが治めることとなり、しばしの平穏な日々が訪れたのであったーー


 

 ここは光が届かない果てしなき底にある闇の世界、タルタロス。

 絶えず霧が立ち込め、暴風が吹き荒れているこの場所は青銅の壁に覆われており、出入口も青銅の門しか存在しない。故にこの地は牢獄として扱われることが多いが、そんな場所に館を構え、ひっそりと暮らしている若き双子の神がいた。


 兄の名はタナトス。死を司り、寿命を迎えた人間の魂を刈り取って冥界へと運び、冥王ハデスに献上する役目を担っている。タナトスは人間がいかに運命に抗おうとも"死は皆に等しく訪れる"という信念が強く、一切の慈悲を与えることがなかった。

 青銅の心、鉄の心臓と呼ばれ無慈悲な神として、人間から崇め奉られることもなく天上の神々からも忌むべき存在として疎まれている。


 弟の名はヒュプノス。眠りの力を自在に操り、天命を全うした人間の最期の眠り(死)は彼の誘いによってもたらされる。

 普段は母である夜の神、ニュクスが地上に夜の帷を下ろす際、それに付き従って人々を癒すため眠りに誘っているが、ヒュプノスの力は神々でさえも眠らせることが出来るほど強大だった。そのためか、神々の不貞や謀略に利用されることもあったが、彼自身はタナトスと違い穏和で優しい青年だったため、私欲のためにその力を悪用することはまずなかった。



「兄さん、最近とても忙しそうだね」


「うん」


「……地上で人間たちが戦争しているせいだね」


「うん」


「……早く終わるといいね、戦争」


「うん」


 決して仲が悪い訳ではない。タナトスは口数が少なく、コミュニケーションが下手なだけなのだ。それでも、弟のヒュプノスは兄を慕い、いつも何気なく些細な話題を振ってくる。タナトスもそれを理解はしていた。しかし、上手く言葉が出てこない。

 それを少しばかり申し訳なく思いながら、タナトスは今日もまた魂を刈りに出掛けていった。


 人間が暮らす地上の世界、オルテシア。そこには2つの大国が存在し、2国は国境付近で頻繁に戦争をしていた。

 国境の西側にあるのは国土の中央に広大な平原がひろがり、その周囲には緑豊かな森や湖を擁するラグナス王国。

その反対側、東に位置するのは砂漠など枯れた不毛の大地が国土の半分を占めるウルド帝国。帝国は豊かな大地を得るべく、ラグナス王国領へと侵攻を繰り返している。

 その大国の境目、国境にあるのが大陸を縦断する巨大な関所、ザイオン砦であり、ラグナス王国はこの砦でウルド帝国の侵攻を防いでいた。


 タルタロスを出て、地上オルテシアの戦場を訪れたタナトスは周囲を見回す。強固な砦なのか、死傷者は帝国軍の方が断然多い。タナトスの姿はその日寿命を迎えた者にしか見えない。全身に矢が刺さって息も絶え絶えの帝国軍兵士がまず最初にタナトスの存在に気付いた。兵士の目にはタナトスの姿が、大鎌を携えた黒い外套を纏った骸骨の姿に見えている。

 タナトスが近くへ歩み寄ると兵士の身体から青白いモヤのようなものが溢れ出てくる。兵士は何が起きているのか悟り、必死に懇願する。


「君は死ぬんだ。今から冥界に連れて行くよ」


「う、嘘だ…イヤだ!死にたくない!娘が!娘が故郷で待ってるんだ!!」


 兵士の願いも虚しく、身体から完全に抜け出た青白いモヤはタナトスの持っているガラス製のランタンに吸い込まれた。そんな工程を次から次へとこなしていき、この戦場で死を迎えた者の魂30人分の回収を10分程度で済ませると、タナトスは転移魔法陣のようなものを開き、ゲートを潜ってその場から立ち去るのだった。


 冥界メガリスーー冥王ハデスが治める死者の国。山の至る所で噴火しており、年中山からマグマが流れ出ている。その影響で空は赤黒く見える。この冥界メガリスの入口となる場所、冥府まで魂を運ぶのがタナトスの役目となる。冥府で引き渡された魂は形を変え、亡者として冥界を彷徨い続ける。

 しかし、死者の魂すべてをタナトスが運ぶ訳ではない。生前に善行を貫き、清く生きていた者や英雄と呼ばれる者たちはタナトスではなく、ゼウスの遣いである流転の神ヘルメスが冥府に連れてくる。そして、その魂は冥界ではなくアルカディアと呼ばれる、のどかな丘陵地帯へと運ばれるのである。


 冥府で魂の引き渡しを終えたタナトスはタルタロスへ戻ろうと踵を返すと冥府の番人に呼び止められた。


「タナトス様。ハデス様がメイザース城でお待ちのようです。足を運んで頂けますか?」


「ハデス?…わかった」


 タナトスは冥府を抜け、その先にあるハデスの居城メイザース城を訪れた。漆黒の尖塔が四隅に建ち、それらを繋ぐように城壁が張り巡らされている。城壁の正面中央に巨大な鋼鉄製の門があり、その門の高さはタナトスの身長の5倍近くあった。上をずっと見上げていくと、天頂部にドラゴンの頭部のような意匠が見える。

 門に近づくと地響きのような音を立ててゆっくりと開いていく。門を抜けると薄暗い通路沿いに並ぶ蝋燭に灯った青い炎が揺らいでいた。よく見ると御影石のタイルが敷かれた床に、通路となる部分にはベルベット製の深紅のカーペットが敷かれている。亡者の国とはいえ城の内装は豪華な様子が窺えるが、深紅と蒼炎という相反する色が織りなす不安感、不快感は言葉では形容し難いものがあった。

 それでもタナトスは顔色1つ変えず無表情のまま奥へと進んでいく。王室の前に着くと、扉の前に一つ目の巨人"キュクロプス"が扉を挟んで2体立っていた。


「タナトス様、お待ちしておりました。奥で王がお待ちです」


 城門と同様、"巨人サイズ"に合わせられた大きな扉が開くと、等間隔に壁に掛けられた燭台に青い炎。視界から入ってくる情報が青のみの部屋、その突き当たりに玉座に掛けた男がアームレストに肘をついて顔を傾けながらこちらを見ていた。


「すまんな、タナトス。お前に少し面倒な仕事を頼みたくてな」


 玉座にいる男は身長2mほどでキトンを身に纏っている。布の上からでもわかるほど筋骨隆々な体つき。褐色の肌に真っ白な髪、そして瞳の色はカーペットと同じ深紅だった。この男こそ、冥界の王にして最高神ゼウスの兄でもあるハデスその人だ。


「うん。何の仕事?」


「地上にあるコリントスという街にシシュフォスという人間がおる。そいつがなかなかの腐れ外道でな。神々を謀って好き放題やっておるのだ。それでゼウスのやつが腹を立てておっての。早いところ命を刈り取ってこいと煩いのだ。頼めるか?」


「わかった」


「相変わらずお前は愛想がないのう。そんなんじゃモテんぞ、ハッハッハッ!では、魂を刈り取ったら、また冥府に連れてきてくれ。頼んだぞ」


 ハデスの言葉に反応することもなく頷くと、タナトスは王室を後にした。振り返る時にハデスのほくそ笑んでいるような顔が一瞬、視界に入ったが特に気に留めることもなく城を出た。

 城の外で上下左右、全方位を見回す。転移魔法を使用するにも漠然と出来る訳ではない。目的地に流れる霊脈の方角を感じ取ることで、はじめて転移魔法が作動する。タナトスは目的地であるコリントスの位置を探っていたのだ。


 ウルド帝国領、北西部コリントスーー高台の上に築かれたこの街はターゲットであるシシュフォスの一族が興した街で、街の中央に大きな屋敷がある。その屋敷を囲むように泉が湧いており、石橋が架かっている。その泉の周りには比較的、裕福な家が並び、さらにその外周に貧民街となる荒廃したエリアが同心円状に広がって街が形成されていた。

 コリントスに到着したタナトスは中央の屋敷に入り、シシュフォスを探した。2階のほうから男の怒鳴り声が聞こえる。


「なんだこの低い税収は!!もっと貧民街から徴収しろと言っただろ!!」


「し、しかし、これ以上の重い税を課せば貧民街の住民は死に絶えてしまいます…」


「知ったことか!!貧民などウジのようにいくらでも湧くだろ!!構わん!!取り立てろ!!」


 書斎で執事に怒鳴り散らすこの男がシシュフォスだ。醜く肥え太った身体にスクエアウィッグと呼ばれる細く巻かれたロール状のカツラを被った、いかにも悪徳貴族のような見た目をしている。タナトスは廊下から書斎の扉をすり抜けて中の様子を確認した。


「な、なんだ!!お前!!どこから入ってきた!!」


 シシュフォスの突然の狼狽に執事は後ろを振り返ったが、誰もいない。どうやらタナトスの姿はシシュフォスにしか見えていないようだ。


「僕が見えるんだ?どうでもいいけど、冥界に連れて来いって言われてるんだ。行こうか」


「…っ!?待て待て!連れてってワシをか?ワシのことを言っておるのか!?」


「そうだよ」


 慌てふためくシシュフォスの様子に執事は目を丸くして固まっている。しかし、そんなことは今は気にしていられない。命がかかっているのだから。

 シシュフォスはデスクから立ち上がり、下卑た笑みを浮かべながら媚びへつらうようにタナトスにすり寄ってきた。しかし、タナトスは躊躇なく腰にぶら下げていたランタンをかざし、シシュフォスの身体が青白いモヤに覆われ始めた。


「死神さま死神さま!そのランタン、ヒビが入っておいでですよ?腕の良いガラス職人がおります故、ぜひ、わたくしめに修理をお任せ頂けないでしょうか?!」


 シシュフォスの言葉にようやく耳を傾けたタナトスはランタンを顔に近づけて見回す。ヒビというほどではないが、たしかに傷のようなものが側面についていた。


「これ、ただのランタンじゃないけど?」


「ええ、もちろんですとも!鍛冶神、名工ヘパイストス様にも匹敵する腕前ですよ!お任せ下さい!」


「わかった」


 シシュフォスの魂が身体から抜け出る直前でタナトスはランタンを下ろして、シシュフォスに手渡した。シシュフォスは戴冠式のように片膝をついて両手でランタンを受け取ると、そのまますぐに手を離した。シシュフォスの手をすり抜けたランタンは床に落ち、粉々に砕け散った。


「お前…何してるんだよ」


「ああ!すみませんすみません!すぐに!すぐに新しく作り直させますので!こちらのお部屋でお待ちくださいませ!ささっ!」


 シシュフォスに連れられて書斎を出て、2部屋隣にある客間へとタナトスを通した。


「では、少しばかりお待ち下さい!」


 慌てて部屋を出たシシュフォスは執事を呼び、屋敷お抱えの魔導士をすぐに連れてくるよう命令すると、やってきた魔導士にこの部屋に強力な結界を張るよう指示を出した。


「あの…シシュフォス様、この部屋に悪魔でもいるのですか?」


「悪魔どころの騒ぎではない!ワシの命を刈り取りに来た死神がおるのだ!早ようせい!」


 魔導士は言われるがまま、部屋の扉に魔法陣を描き詠唱を始めた。

 部屋の外が何やら騒がしい。魔力の流れを感じたタナトスは一度部屋から出ようと壁に近づいた。すると壁に触れた瞬間、強めの静電気が走ったような衝撃を受け後退りした。


「……これは…」


 この部屋に何が起きているのか、目には見えない魔力を可視化する"神の目"で部屋全体を見ると、この部屋を覆うように魔力の障壁が張られていた。こうなると、部屋の外に魔力を通すことも出来ないため転移魔法も使うことが出来ない。

 タナトスはようやく自分が置かれている状況を理解した。


「閉じ込められた…」


 手の打ちようがなくなったタナトスは諦めて椅子に腰掛け、窓の外の空を眺めながら脱出方法を考え始めた。すると、部屋の外からシシュフォスの声がした。


「おい!死神!!どんな理由でここに来たか知らんが、ワシの命は絶対にやらんからな!!ワシを不老不死にでもしてくれるなら出してやらんでもないが、どうだね?」


「そんな力ない。ここから出せ」


「フンッ!使えん神め。結界が解除されんよう定期的に張り直しておけ」


 部屋の前で結界を張った者に偉そうに命令を出すと、太った人間のものと思われる重い足音は遠退いていった。

 それから数刻、タナトスは部屋にある椅子で壁に叩きつけてみたりもしたが、物理的な衝撃でも障壁を破ることは出来なかった。椅子を壊してしまったので座る場所もなく、とりあえず床に寝そべり天井を仰いだ。


「これからどうしようかな…」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

1話目なので、世界観の説明的な文が多くなってしまいましたが、次から本編へと入る予定です。

とりあえずプロローグということで、懲りずにまた次回を楽しみにしていただけると幸いです。

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