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 翌朝の九時。励は朝食を食べようと、ダイニングキッチンにいた。そこには、励の他に羽鳥さんと翔喜、萌ちゃんもいた。健斗はまだ寝ているようだった。

「そういや、励はどういう風にしてここへ連れてこられたんだ?」

 ふと、翔喜が励にそう訊いた。

 励は一昨日のことを思い出して皆に話をする。

「塾の帰りね……」と、翔喜は相槌を打つ。

「翔喜は?」と、今度、励は彼に訊いてみる。

「俺はさ」と、翔喜が話す。「もう七日も前になるかな。放課後、友達と公園でかくれんぼをしていたんだよ。俺は隠れる側だったから公園の近くのゴミ捨て場に隠れていたんだ。誰か来たんで、鬼に見つかったと思った。そしたら、知らない男でさ……」

 なるほどと励は思った。

「鬼じゃなくて、別の奴に見つかっちゃったんだ」と、励は笑う。

「そうなんだよ」と言って翔喜も笑う。

「次に誘拐されたのは?」と、励が訊く。

「わたしです」と、萌ちゃんが言う。

「萌ちゃんはどうして?」

 励が萌ちゃんに訊く。萌ちゃんが口を開く。

「わたしも放課後です。友達の家に遊びに行っていたんです。五時に友達と別れて、帰ろうとしていたんです。帰る途中、道に段ボール箱があって、そこに可愛い猫ちゃんがいたの。その猫ちゃんが可愛くて、わたしはついついその子と遊んじゃったの。そしたらね、あの男が近づいて来て、襲われちゃって……」と、萌ちゃんは話す。五日前の話らしい。

「そうなんだ……」と、励は頷く。

「その次が、健斗だね」と、翔喜が言う。

 四日前の放課後、彼は図書館へ行っていたという。そこで勉強したり、本を読んだりしていた。閉館の五時までそこにいたようで、閉館後、帰ろうとしていたところを待ち伏せしていた男に気付かず襲われた、と彼は後から話してくれた。

「その次が羽鳥さん?」と、励が訊く。

 うん、と彼女が頷く。

「水曜日だからピアノ教室があったの。レッスンが終わったのが六時ね。帰りにお菓子を買おうと、コンビニに寄ったの。お菓子を買ってコンビニを出た後、駐車場に停まってた車から男が出てきて私に近づいてきたの。それからすぐに……」と、羽鳥さんは話した。それが、二日前のことであった。

「なるほど……」と、励は頷く。どうやら皆、放課後にあの男に襲われていたことが励には分かった。「その後、自分でそれから……」


 四人で朝食を食べながら話していると、誰かが降りてくる足音がした。ダイニングキッチンに一人の女の子が入って来た。すぐに羽鳥さんが彼女に気付く。

「あ、穂乃果ちゃん、おはよう」と、羽鳥さんが彼女に声を掛ける。

 穂乃果は目を擦りながら立っている。

「おはよう」と、励も彼女に言う。

「……おはようございます」と、穂乃果がそこにいる全員に挨拶した。

「穂乃果ちゃん、よく眠れた? さ、ここ座って!」

 羽鳥さんが自分の隣の空いている席に彼女を勧めた。穂乃果は言われた通りの席に座る。

「新しい子か?」

 翔喜がそう訊いた。

「そうよ」と、羽鳥さんが頷く。「穂乃果ちゃんっていうの」

「穂乃果ちゃん。……ああ、俺は翔喜」と、翔喜が自己紹介する。

「わたしは、萌」と、萌ちゃんも自己紹介する。

 穂乃果は二人を見て、ペコリとする。

「穂乃果ちゃん、お腹空いたでしょ? ここにあるお菓子食べていいからね!」

 羽鳥さんが笑顔でそう言った。

 穂乃果は頷き、テーブルのクッキーを一枚取った。早速、穂乃果はそのクッキーを食べる。

「おいしい」と、彼女は笑顔で言う。穂乃果はそのクッキーを頬張った。

「あ、ジュースもあるよ。飲む?」

 羽鳥さんがそう訊くと、穂乃果は頷く。

 羽鳥さんはテーブルにあるオレンジジュースを紙コップに注いだ。

「はい、どうぞ」と、羽鳥さんはジュースを差し出す。「ありがとう」と、穂乃果はお礼を言う。

 励はそれを見て、羽鳥さんはまるで母親みたいだなと思った。

 穂乃果は一気にジュースを飲んだ。

「はー、生き返る」と、彼女は息を吐く。

「喉渇いていたんだね」と、萌ちゃんが言って笑う。他の皆も笑う。

 穂乃果は照れ臭そうに笑った。

「そうそう。穂乃果ちゃんは、誘拐される前、何してたの?」

 ふと、翔喜が穂乃果に訊いた。

 穂乃果は黙っていたが、少しして口を開いた。

「放課後、友達と遊んでいたの。で、五時になって友達と別れてお家に帰ったの。その後、シロくんの散歩をしていたの」

「シロくんって?」と、萌ちゃんが訊く。

「ウチの犬」と、穂乃果が答える。

「飼い犬ね……」と、翔喜が言った。

 穂乃果が頷く。彼女は話を続ける。

「散歩の途中だった。車から男の人が出てきて近づいてきた。その後、襲われたの……」

 穂乃果はそう話した後、急に泣き出した。

「穂乃果ちゃん、大丈夫……?」

 羽鳥さんが彼女を見て訊く。

 どうやら穂乃果はその時のことを思い出してしまったようである。

「おい、翔喜……」と、励は呆れるように言った。

「え? 俺……ゴメンって……」

 翔喜は戸惑いながら申し訳なさそうに言った。

「帰りたい……」

 ふと、穂乃果がポツリと言った。

 全員が穂乃果を見る。

「早く帰りたい……ママに会いたい……パパにも……シロにも……」

 穂乃果は呟くように言った。

「俺だって……」

 翔喜が言った。

「わたしも」と、萌ちゃん。

「私もよ」と、羽鳥さんも言った。

 励も頷く。励も母に会いたいと思った。

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