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 励は目を覚ました。外はもう暗くなっていた。今、何時だろうと励は思った。そろそろ夕飯の時間だろうか。

 励が下へ降りようと思い部屋を出ようとした時、廊下が騒がしいことに気付いた。

 ()()()()()がした。その子は喚いている。

 最初、萌ちゃんか羽鳥さんかとも思ったが、二人の声とは違うように励は思えた。となると、一体誰だろう? 女の子には違いない。

 それと、もう一人の声も聴こえた。男の声である。

 励はその声を聞き覚えがあった。その声は励たちを誘拐した男の声であった。

 その声で男が帰ってきたことが励にも分かった。

 その女の子は喚いている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのではないかと励は気付く。

 男のひどい罵声。改めて聞くだけで、励は鳥肌が立ってきた。それから、扉がバタンと閉まる音が響いた。励は再びその音でビクリとした。

 階段を降りる音が聞こえた。おそらく男が降りて行ったのだろう。その音を聞いて、励は一安心する。

 ようやくして、廊下は静かになった。

 励はしばらく部屋に留まることにした。少ししてトイレへ行きたくなり、励は一階へ降りる。すぐに用を足して、二階へ上がった。

 部屋へ戻ろうとして、励は先ほどの女の子のことが気になった。

 励の右隣の部屋。昨日まで空き部屋だった部屋の扉が閉まっていた。おそらく()()はそこにいるのだろう。

 励は声を掛けようかと思ったが、一度留まる。考えて、励は自分の()()()()()の扉をノックした。

「はい」と、奥から羽鳥さんの声がする。

「小木曽だけど、ちょっと話があって……」

 励がそう言うと、ややあって羽鳥さんが扉から顔を出した。

「なあに?」と、彼女が訊く。

「さっき新しい子が来たみたいなんだけど、ちょっとその子に挨拶しようかなと思ってね……」

 励がそう言うと、「ふうん」と、羽鳥さんが言う。

「いいんじゃない?」

「それで……」

「それで?」

「羽鳥さんに一つお願いなんだけど」と励は言って、彼女に用件を伝える。

「え!? 私が? なんで?? 小木曽くんが声掛ければいいじゃない?」と、彼女は言った。

「ゴメン……そこをなんとか」

 励はそう言って、手を合わせ彼女に懇願する。

「ははーん、さては、小木曽くん、女の子と喋るのが苦手だな?」

 羽鳥さんがにやりと笑って言う。

「いや、そういう訳じゃないよ。ただ男子よりむしろ女子の方から行った方がほら……」

 励が困った顔でそう言うと、「うん、分かった分かった」と、羽鳥さんは笑って頷いた。

「ありがとう」と、励は彼女にお礼を言う。

 励は羽鳥さんと一緒に励の右隣の部屋の前まで行く。すぐに羽鳥さんがその扉をノックした。

 ノックをしたが、返事はなかった。その後すぐ羽鳥さんが声を掛けた。

「こんばんは。ねえ、起きてる? 私は羽鳥玖美。あなたとちょっとお話がしたくて」

 しかし、声を掛けても全く反応がなかった。

 一体どうしてだろう。もしかして、寝てるのかもしれないと励は思った。

 が、ややあって、その扉が開いた。

 そこに小さな女の子が立っていた。彼女はショートヘアで背が低く、紺色のシャツを着て、赤色チェックのスカートを履いている。

「…………。」

 彼女は二人を見て、黙っている。

「あ! や、やあ!」と、励は手を上げる。

「こんばんは」

 羽鳥さんが改めて彼女に挨拶する。

「……こんばんは」

 その女の子が二人に挨拶した。

「羽鳥玖美です」と、羽鳥さんが自己紹介する。励もその後に名乗った。

 その女の子が自分の名前を言う。

仲穂乃果(なかほのか)……」

「穂乃果ちゃんね! 何年生?」と、羽鳥さんが訊いた。

「四年」と、穂乃果が答える。

「そっか。私たちは五年生なの」と、羽鳥さんが言った。

 穂乃果は頷く。

「よろしくね」

 羽鳥さんは穂乃果に言った。その後、励もよろしくと彼女に言う。

 彼女は再び頷いた。

 励が口を開く。

「穂乃果ちゃん、あのね、実は僕たちだけじゃないんだ。ここには、穂乃果ちゃん含めて六人の子どもがいるんだよ……」

「六人!?」と、穂乃果は驚いた。

「そう。ヤバいよね! 六人もいるなんて……」

 羽鳥さんがそう言うと、穂乃果は頷く。

「帰りたい……」

 穂乃果がそう言った。

「だよね」と、励は相槌を打つ。

「私もだよ」と、羽鳥さんが言った。

 だからね、と励が話を続ける。

「ここにいる皆で、あの男に見つからずに脱出しようと思っているんだ!」

 励がそう言うと、「ここ、出たい」と、穂乃果は言った。励は頷く。

 しばらくして、穂乃果が欠伸(あくび)をした。それから、「眠い……」と、彼女が言った。

 励は穂乃果の顔を(うかが)う。数時間前にここへ来たばかりだ。疲れているのだろうなと励は思った。

「もう寝る」

 穂乃果がそう言った。

「あ、ゴメンね。穂乃果ちゃん、おやすみ」と、羽鳥さんが彼女に言った。

「おやすみ」と穂乃果が言って、扉を閉めようとする。

「あ、穂乃果ちゃん、待って」

 咄嗟に励が言った。穂乃果は再び扉を開ける。

「朝になったら、一階へ降りてきてほしい」

「一階?」と、穂乃果は首を傾げる。

「うん、一階。一階にダイニングキッチンがあるから、そこへ来てほしい」

 励がそう言うと、「ダイニング? どうして?」と、穂乃果が訊き返す。

「他の子たちにも会わせたいし、あと、朝ご飯もそこで食べられるから」

 励がそう説明すると、「朝ご飯?」と、穂乃果は不思議な顔をした。

 その後、羽鳥さんが頷く。それから、「朝ご飯って言っても、お菓子だけなんだけどね」と言って彼女は笑う。

 すると、穂乃果は嬉しそうな顔をした。「お菓子、好き」と、彼女は言って笑う。

「それなら良かった」と、励は安堵(あんど)する。

 再び穂乃果が欠伸をした。

「おやすみ」と、励は彼女に言う。

「おやすみなさい」と穂乃果は笑顔で言って、扉を閉めた。

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