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「……あぁ、落ち着かなければ。」
ゆっくりと息を吐き出し、心を宥めていく。
感情は強い原動力になるが、判断を誤らせる原因に成りうる。今の私は、『私』だけではないのだ。先ほど考えたように、全てにおいて優先すべきは妹の生存であり、成長である。ならば邪魔な感情などは一旦蓋をし、冷静に物事を考えなければならない。
そう、生き残るのだ。
「だが、どうする?」
頭の上、と言っていいのか解らないが、まるく丸まった自身の上に妹を乗せ、泣き疲れたのであろう彼女を寝かせながらそんなことを口にする。
やはりこんな時こそ、初めから思考を整えることが必要だろう。妹を殺されかけ、母を殺され、自身も生存の為に走り回ったのだ。いくら冷静になろうと努めたとしても、真に成せるかは怪しい。ならば無理にでも整えられるよう、一つ一つ時間をかけて思い返していく必要がある。
「まず、何故私たちは襲われたのか、だが……。やはり私のせいだろう。」
母の胎内にいたころは自身のような異物も存在しうる世界なのかと考えていたが、母を取り囲んだ者たちの行動を考えると、決して受け入れることのできない存在が、私なのだろう。それを考えれば自身が生まれてきてしまったことに強い罪悪感を覚えるが……。今はあまり強く考えないようにする。
あの襲撃者たちがどうやって胎に私がいたことを察知したのかは不明だが、おそらく私がいることに確信をもって襲ったと考えられる。そして害になるであろう私を産まれる前に殺すことで、安寧を得ようとしたのだ。
「この体だ、理解できないわけではない。だが納得など出来るはずがない。」
その後、母の元から逃げ出した私たちは、森の奥深くまで逃げ延びている。
おそらくだが、この粘体の身体には磁力に対する感覚が備わっているのだろう。コンパスの様に何処にすぐに方角が解るわけではないが、方角への一定の『理解』が備わっている。意識を集中させねば解らないが、今いる森から大きく迷うことはないだろう。
無論、このおかげであの襲撃者たちがどの方角から追いかけて来たのか、と言うのも把握済みだ。『報復』の際や、あの者たちが再度私達姉妹を殺しに来た時の対処はしやすいと言える。
「だが逃げる際に、両足を酸で消し飛ばしてやった者もいた。再度私を追う際は、装備を整えてくることだろう。」
故に、この情報はすぐに使う必要はなさそうだ。
ほんの少ししか言葉を交わすことができなかったが、今にも死に絶えそうであった母の言葉には私と妹への確かな愛を感じることが出来た。周囲に望まれなくても、母は望んでくれた。父がどのような存在なのかは不明故に一旦置いておくが、確かな愛を感じたのだ。ならば私はそれを返さなければならない。
私のせいで、という罪悪感を感じるのは筋違いなのだろう。こんなもの感じる暇があるのならば、妹の為に動かねばならない。未だ心に残るものがないとは言えないが、姉として任された妹を育て上げること。これが私の出来る唯一の贖罪だ。
無論『復讐』もそれに入るのかもしれないが……、常人であれば未だ赤子相当な私や妹に人殺しなどさせないだろう。この世界の価値観や母の考えは解らないが、私が母ならば望まない。
つまりこれは私自身の『納得』の為の行為だ。
……思考が逸れてしまった、本題に戻ることにする。
「だが、どう育てればよいのか。このままでは生存すら……。」
自身の大目標は、妹の生存である。
母の胎から飛び出し、ここまで逃げ延びたのは良い。だがこの先の展望が思い至らないのだ。
まず現在地だが、何とか追手から逃れ安全を確保したこの場所は、高い崖の上。見渡す限りすべてに広がった大きな森の中でひときわ目立つ崖を駆け登り、何とか到達した地点になる。
昨夜は多くの人間が森に入り込んだため獣の気配は感じ取れなかったが、少し見渡せばそれらしき痕跡は見受けられる。つまり生存における重要な要素である、食を補えそうな気配はあるのだ。けれどそれは、妹がもっと大きくなった後の話である。
私一人、前世のような大人の肉体であればその獣を狩り血肉とすることで生き延び、住みかとしては木の上でスペースを作ることが出来ただろう。無論今の体でも、可能なはずだ。何せ人ではないのだ。術はいくらでも思い浮かぶ。しかし……。
「この子、妹に何を食べさせるべきなのか。母乳などこの身から出せるわけもない。」
そもそも。運の悪いことに、自身には育児の経験がない。
母が生きていればその指示を受けサポートすることは出来ただろうが、単独でそれを為すことは不可能だ。何より、食事を。母乳を用意することができない。
前世の記憶からなんとなく離乳食のタイミングや内容に関しては少し知識はあるのだが、それ以前の食事。母乳の代わりになる様なものに全く心当たりがない。いや正確に言えば、粉ミルクなどが一切ないこの環境で、確保すべき赤子への栄養になるものが解らないのだ。
「物と情報に溢れていたあの世界が酷く恋しいな。他の大人がいればまだ何とかなったのかもしれないが……。」
私はまだいい。産まれたタイミングは妹とほぼ同じ赤子だが、この身は化け物だ。
しかも生存のみを考えるのならば食事の必要はないということがなんとなく解る。けれどこの子はただの人間で、まだ眠るか泣くかのどちらかしか出来ない。もし必要な食事を理解していたとしても、私に伝える術は持たないだろう。
本来、このような環境で親の補助を受けることができないのであれば、それ以外の大人を頼るべきなのだろうが……。そんなものいるわけがない。自身の知るこの世界で出会った人間は、母と妹を除けば我らを襲ったあの集団のみ。
「……おそらく母は、あの人間たちの集団と共に暮らしていたのだろう。確実ではないが、服などから保有する文化が強く似通っていた。同じ共同体に所属していれば何かしらのサポートを受けれたのであろうが、な。」
闇夜を照らすためにたいまつを使用し、武器は剣や槍や投石、そして母や私たちの討伐を指揮していたような神の存在を訴えていた男の服装などを考えると、文明レベルは中世ほどだと言うことが推察できる。古代というには武装や服が発展していたし、近代であるならば火器を使用されていてもおかしくは無かった。つまり中世レベルで考えて問題はないだろう。
そんな文明レベルを考えれば、子育ては共同体を上げて行うものと推察する。
彼らがどこに住んでいるのかは知らないが、妊婦の足では長距離の移動が難しいことを考えると、母が倒れた地点からそう遠くない場所に居住区があるはずだ。そしてその居住区の近くに今いる深い森があるのであれば、所謂『田舎の閉じた村』なのだろう。
厳しい環境下にあるのであれば、皆が手を取り合って生活するのが基本。共同体から仲間外れにされないように動き、同時に未来の労働力を確保するために子供の世話はその母親に何かあったとしても、最低限の補助はされたはずだ。
「まぁ私がこのような体である以上、考えても意味のない話か。」
そう愚痴を言ってみるが、それで何か変わるわけでもない。
妹を生存させるためには、ある程度成長するまで母乳が必要となる。この粘体になってしまった体にそんなもの生成できない以上、外部から調達するしかないのだが、そんな伝手などない。
「今から移動し、あの者たちが住む村以外を見つけることも手の一つだろうが……。」
自身は周辺の地理を欠片も理解できていない。この森がどこまで続くのか、村と村の距離がどれほど離れているのか、全く知識がないのだ。妹が食事なしにどれだけ生き残れるか解らない以上、闇雲に村を探して動き回るのは愚策だろう。
そして何より、運よく母を襲った者たち以外が住む共同体を見つけたとしても、保護してもらえる可能性は酷く低い。今の妹は、胸に大きな傷を負っている。自身によってそれは塞がれ本来と同様の機能を果たしているが、私が彼女から離れれば即座に死に至る危機的状況であることは変わりない。
化け物が引っ付いた赤子を受け入れてくれるようなものがいるか、という話だが……。母が殺され私が追われたことを考えると、受け入られる可能性はないと言い切ってしまってもいいかもしれない。
「いっそ私から何か、栄養のようなものを送り込めれば……。出来るのか?」
一瞬口から漏れ出た言葉を、再度頭で分解していく。
自身のこの粘体の身体は、どういった原理で動いているのか一切理解が出来ない存在だ。なぜ妹の臓器の代わりが出来ているのか、何故体内で酸を生成しモノを溶かすことが出来たのか、肉体全てが脳や眼や耳や口の代わりが出来ているのか。
その全てが不明だが、まるであらかじめ体に説明書が付いているかのように、出来ることは何となく『出来る』と解ってしまう。残念ながら私自身が母乳を用意することは『不可能』のようだが、心臓を通して繋がっている妹に私から栄養を送るというのは『出来る』かもしれない。……ともかく、この身を通して何かしらの要素を送り込めることは確定していた。
「……まずは私が何か補食してみるか。」
そう口にしながら、近くに落ちていた人でも食べられそうな木の実を拾い、自身の体に取り込んでみる。すると即座に実が溶かされていき……、ほんの少しだけではあるが、自身を構成する何かが増加したように思える。何度か同じように吸収、いや補食を繰り返してみれば、同様に増えていく。
「体積が……、いや体積も増えているけれど、それ以外のものが増えている感じか? そしておそらく、この『それ以外』を妹に送ることが出来る。」
一瞬そのまま増加分を送ろうかと思ったが、思い直し中止する。
おそらく双子という性質から妹と私の相性は良いはずだ。けれどこの不明な『何か』をただの人間である彼女に送り込んだ時の反応が想像できない。もし人体にとって有害なものであれば、赤子という弱いこの子はすぐにその命を閉じてしまうだろう。
送るのは切羽詰まった時か、もしくは何かで実験してからだ。
「とりあえずは、この『何か』を集めながら体積を増すべきか。」
何となくだが、この木の実以外。それこそ周囲に落ちている落ち葉や木々でさえも私からすれば補食対象かのように思える。流石にそれを食べて『何か』を吸収出来たとしても、妹に渡す気は起らないが……、単に自身の力を増強させる、という点で考えれば何の問題もない。
「母を守り切れなかったのも、私の肉体の大きさが足りなかったから。妹を守り切るのにどれだけ必要かは解らないが、多くて困ることもないだろう。そしてこの『何か』も……、私にとっては好ましいものであることも間違いない。集めて損はないだろうな。」
考えを口にし、纏めながら行動を開始する。
周囲を整地するように、どんどんと周囲にあるものを取り込んでいく。
何かを捕食すればするほどに、自身の身体は大きくなって行くのだ。あの人間たちはもちろん、この森奥深くという環境は獣が出てきてもおかしくはない。妹を守り抜くために有用であるならば、片っ端から吸収するに限る。
それに、私という化け物が存在していることから、同様の化け物がいてもおかしくはない。むしろこの世界がよくあるゲームなどと同様ならば、このスライムのような私よりも強い存在は数多くいるだろう。守る力に直結する肉体の大きさは、あればあるほどいい筈だ。
「……だが体積が増えたとしても、この『何か』を集めたとしても妹の母乳問題が解決したわけではない。」
私の体、粘体は酸を生み出すことが出来るのだが、その酸を体内に纏めて保管しておくことが出来るようだった。事実自衛用に、先ほどから生成と貯蓄を続けている。そして今体積の増加と共に集めている『何か』も吸収したもの別に貯蓄することが出来るようだった。
……食料もそうだが、この『何か』の有害性を確かめるためにはやはり『人間』がいる。
少し、前世の倫理が邪魔をするが。
「幸いなことに、心が痛まぬ相手もいる。危険ではあるがこのまま野垂れ死させるよりは、な。」
◇◆◇◆◇
「ここ、だな。」
あれから数時間後、私達はおそらく母が住んでいたのであろう村にやってきていた。
私の体内にある『何か』が妹にとって有用化どうか解らない以上、人体での実験が必要になってくる。そして有害であるに関わらず、その実験期間に妹に与える食を確保せねばならない。つまり何らかの手段で母乳を定期的に手に入れる必要があるのだ。
けれど自身は化け物で、妹も私から離れることは出来ない。正当な取引、もしくは相手の善意に期待することは不可能だった。
ならば、ある場所。そして罪悪感が沸かない場所を標的とし、奪えばいい。
(簡易な木の柵で囲われた村。人口は百人程度。おそらく体積を増やし続ければ、簡単に制圧可能。)
物陰に隠れ村らしきそこに目を向けると、その入り口に立つ見慣れた男たち。
一瞬自身の胸の奥に黒い殺意なようなものがよぎったが、蓋をし押しとどめておく。
彼らは母の仇だが、もし自身が同じような立場。あの村人たちのような立場であれば迫害側に回った可能性が高い。何せ自身は化け物なのだ。排斥するのが人の常だろう。決して許せはしないし、いずれ『そうする』だろうが、今行動を起こすべきではない。
勿論殺すのは簡単だ。けれど妹のことを考えると長期間利用せねばならない。人体実験がうまく行けば短期で済むが、この『何か』が人や赤子に害をなすのならば、妹が乳離れするまで利用せねばならない。赤子が母乳を必要としなくなるまでの期間は解らないが……、ともかく生かし続けることが重要だ。
(幸いなことに、赤子を抱きかかえたまま移動している女がいる。肉体の大きさからも、妹とそう大差ない。利用するには最適な対象だ。)
そう考えながら、再度周囲を見渡す。どうやら村の外周部分へ人を配置し巡回させているようだが、隙が多くまた内部での警戒は行っていないようだった。タイミングと視線に気を付ければ、容易に入り込める。本来のサイズではすぐに見つかってしまっただろうが……。
少々周囲の木々を吸収しすぎたせいか、村を発見した直後の私の体積は、かなりのものに成っていた。前世の記憶に近しいものを探せば、一軒家ぐらいの大きさだろうか。幸い、『圧縮』という手段があることをこの身が教えてくれたおかげで見つかる前に隠れることが出来たが、あのままでは即座に発見されていただろう。
現在の私は、ちょうど妹を包み込める程度のサイズ。そして大きな体積を無理矢理圧縮したせいか、自身の粘体の密度がかなり上昇している。この状態であればおそらく外部からの攻撃を弾力で跳ね返せるし、妹が急に泣き出したとしても音が外に漏れ出ることはない。
潜入、そして潜伏にはちょうどいいと言えるだろう。
(……さて、行くか。)
問題に対応可能になったのであれば、すぐ動き出した方が良い。
木々の影や木製の柵の陰に隠れながら、出来るだけ素早く村へと近づいていく。この真っ暗な体は闇夜では面理だが、日中は少し面倒だ。触手を素早く伸ばし、どこかに引っ掛け全力で体を引っ張ることで速度を上げながら、何とか村への侵入を果たす。
誰にも見つからなかったことに一瞬安堵してしまうが、そのままじっとし続けるのは不味い。即座にもう一度触手を伸ばし、近くにあった家の屋根へと上る。
(バレては……、無いか。)
出来る限り体を隠しながら周囲を伺うが、特に騒ぎなどは起きていない。私のサイズは、妹を包み込みそして十全に守るために必要な膜の厚さを維持した大きさが基本になる。産まれたばかりの彼女とは言え、私が包み込めば結構なサイズだ。
故にそれぐらいの真っ黒な物体が高速で動き回っているのを見れば叫び声をあげる者がいてもおかしくはない。それがないと言うことは……、まだ見つかっていないのだろう。
だがそれがずっと続くわけではない。
(あの、赤子を抱いていた者の家。そこに隠れよう。)
母乳を確保するにはそこが一番手っ取り早い。
即座に先ほど見つけた女を探し出し、その者が向かおうとしている家屋を見つけ出す。あとは先ほどまでと同様に触手を伸ばし、屋根の上を飛び回って移動。誰にも発見されぬまま、目的の家に滑り込んだ。
家主が来る前に入り込めたおかげで、中には誰もいない。先ほどこちらに向かって来る女を見ているのでそれほど時間はないが、急いで周囲を見渡し隠れられそうな場所を探し出しておく。
(やはり、文明レベルは低い、か。家の作りも甘い。だがそのおかげか、隠れやすい影や障害物が多い。とりあえずこの屋根の陸梁の部分に隠れるか。)
近づいてくる足音を感じ取りながら、触手を伸ばし天井に接着させた後は梁の部分に乗って周囲を伺う。ここで人であれば態勢を変えたりしないと周囲の状況を把握しにくくなるが、私は全身が目のようなものだ。更に家内の陰に沿う様に肉体を伸ばすことで、この家屋全てに視点を生成しておく。
これでこの家屋にするものたちを監視し、隙を付いて妹の食事を採取することが出来るだろう。無論、『実験』も。
そんなことを考えていると、家の扉がゆっくりと開かれる。
「あなた? 例の悪魔はもう殺せたの?」
「いや、まだだ。森の奥まで追いかけたんだが、逃げられちまった。……今司祭様の指揮で、村の男衆が交替で見張りに立ってる。」
「だ、大丈夫なの?」
……女の方は知らないが、男の顔には見覚えがある。
昨夜、母の身体に向かって剣を振りおろしていた者の一人だ。
思わず体、家内に張り巡らせた触手が動き、その体を突き刺そうとしてしまうが、何とか押しとどめる。今はまだ、その時ではない。
「あぁ、多分な。……絶対村から出るなよ? 出来る限り家の中にいてくれ。」
「解ってる。あの子、悪魔の子を身ごもってたなんて……。優しくしてやったのがバカだった! そっちはもうとっちめてくれたのよね!?」
「もちろんさ。みんなで念入りに殺して、司祭様が神様の火? ってのを手から出して燃やして灰にしてたぞ。その後みんなでお祈りして浄化出来たんだ。安心しろ、すぐに元通りの生活が戻って来る。」
何とか抑え込んだはずの激情が更に暴れ出そうとする。だが、今ここで暴れてこの者たちを殺すよりも、生かしておいて情報と妹の食事を得る方が利になる。無理矢理暴れ狂う精神を切り離し、会話に耳を傾けていく。……だが、私がこの者たちを殺す際は念入りに刺してやろう。
にしても、『手から火を出した』か。
私のような化け物がいる故にそれ程おかしくはないだろうが、この世界には異世界でよく聞く魔法、もしくはそれに近しいものがあるのだろう。常人が素手から火を出すことは不可能、何かしらのトリックがあるのかもしれないが、灰になるまで人体を焼くというのは現代においても手間がかかる行為だ。
復讐の際、そういった攻撃をしてくる可能性もあるかもしれない。こちらも記憶にとどめておくことにする。
……かなり話に集中しているせいか、両者ともに背中ががら空きだな。
(女の方はまだ利用価値があるが、男はどうでもいい。『実験』の対象には最適だろう。)
そう思った瞬間、家内に張り巡らせていた触手を男の背後へと伸ばし、その足首へ。
自身の触手を刺し込み、先ほど得た『何らか』のエネルギーを送り込んでみる。
「っ!」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと足がな。昨日森の中を走り回っていたせいかもしれん。……とにかく、見張りの交代があるんだ。言ってくる、この子を頼むぞ。」
「えぇ、いってらっしゃい。」
今の所、特に問題はなし、か。
経過観察を行う必要もあるだろうが、妹のためにもこのエネルギーが人体に送り込んでも良いものか、それとも有害で毒としてしか使えないものなのかを早く判明させておきたい。もし校舎だった場合最悪死ぬだろうが……。
人体にとって有用でありエネルギーになるのであれば妹の食事事情が改善する。もし有害であっても、母を殺した者が妹の為に死ねるのだ。どちらに転ぼうとも、問題はない。
さて、どうなるのか見ものだな。