王妃が切望したものは
メンタル崩壊後の王妃目線。
後味悪目なのでご容赦下さい。
私は一番が好き頂点でなければならない。
両親からお前が一番と育てられてきた思い込みも今思えばあったのかもしれない。
政略結婚で愛はないかもしれないが国母として望まれる事には応えてきたつもりだった。
だから…なかなか子に恵まれず側妃を迎える話が出たあの時期は本当に辛かったわ。
皮肉にも側妃を迎えた数ヶ月後に私に懐妊の兆候が現れ男児を授かり約一年後に側妃にも懐妊…あちらにも男児が産まれたのよ恨んだわ運命を。
学ぶ事より身体を動かす事が好きな第一王子は常に立ち回りの上手い第二王子と比較された。
必死だった、私が産んだ子が王に成らなければならないと想っていたがあの子は応えてくれなかったの。
服のポケットや引き出しにダンゴムシを入れて放置するから侍女も教師係も根性ないのか長続きしなかったわね。
あの子を少しでも良く見せたくて開いたお披露目のお茶会は散々だった。
最初のうちは顔合わせする相手を拒絶する暴言を口にするあの子を諌めたけれどあの子はひたすら首を横にふっていたの、望む相手はあの場に居なかったという事だったのかしら。
挙げ句の果て、あの呪いあの子が王配から遠ざかったと思うと気がおかしくなりそうだった。
でもね、うふふ…
可愛いかったあの頃のあの子をもう一度抱けるとは思わなかったわ。
私があの子を信じなければいけないと思ったの。
何があってもあの子が玉座に座る未来を私が守らないといけないの。
隣国に嫁いだ妹に手紙を通して泣いて縋ったわ。
あの子の未来を閉ざしたくないと…
妹は何も知らないの伯爵家の娘を通して私にチャンスをくれたの…愛し子や第二王子さえ居なくなればあの子にチャンスはまだあると思ったのよ。
味方につけたと思っていた毒見役掌返すように強請られてこのままではあの子の未来が奪われると思ったわ。
今は使われていない裏の井戸に呼び出されて…
無我夢中だったわ…あの子を守りたい一心で。
気づいたら毒見役は井戸の底にいたわ…揉み合っているうちに着けていた簪がなくなっていたのは失敗だった私が関わっていると気づかれなければいいけれど。
…コホン。
さっきから喉の奥に違和感がある。
なんだか息苦しいの…息が上手く吸込め無い。
…ゲホッ…ガッ…ゴホッ。
ぼとりと口から赤いものが溢れ落ちた。
血かと思った、血ではなかった。
赤い………赤い…唾液に塗れた赤い薔薇を塊をみて何が起きているか理解できなかった…理解したくなかった。
息をしたくて喉の奥から湧き出てくる薔薇の花を吐き出すなんだか水の中にいるみたい…ちゃんと呼吸ができないの。
私だけ…何故私だけがこんな思いをしなければならないの…そう思うと椿の離宮にいる側妃が嗤う声の幻聴がした。
ここで終われない、終わる訳にはいかないの何としてもあの子に王配を…
息を吸いたいのに口からポロポロ溢れ落ちる赤い花弁を恨めしく眺めながら遠くから馬が嘶くのが聞こえる気がした…
苦しくて喉を掻きむしる。
まだ成し得ていないの、何一つ…そう何一つ。
意識を手放す直前に名前を呼ばれた気がしたの。
あの人の声でもう呼んで貰えないと思った愛称のほうで…
ハハノヒ モウジキ デスネ。
…そんな気持ちもちょっと含めた歪んだ母の愛です。