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「お待たせ」


「何をしていたんだ?」


 凜が怪訝そうな顔で訊く。


「ちょっとねー」

 と、愛稀は詳しくは応えない。彼も何かを察したのか、それ以上は訊かなかった。再び愛稀が腕を絡めたのが、出発の合図である。


「でも、ちょっと走ってきてまた暑くなっちゃった」

 と言いながら坂道を下っていくと、路の脇に飲み物の自動販売機が見えてきた。


「あっ」

 愛稀は声をあげた。

「ジュースを買いたいとか言うんじゃないだろうな。お腹壊すぞ」

 凜が呆れたように言う。

「うーん……」

 と言いながら、愛稀はさっき来た道を振り返る。すでに鳥居は山の木々に囲まれて見えなくなっていた。


「ま、いいか」

 と、愛稀は独り言ちた。ここを去る前に、一つお供えをしていこうかな、という気になったが、引き返してまでやることじゃないや――と思い直したのだ。本来、この地に根付く神々に供物を差し出すのは、この町に住む人たちの仕事だろう。自分が出しゃばってまですることではない気がした。頭を切り替える。


「向こうに着いたらどうするの?」

 と、凜に尋ねた。旅行のプランはすっかり彼に任せていた。


「着いたら、まずはホテルにチェックイン。夜になったら街に出て食事をする。次の日は観光をするつもりだが、何があるのかは僕もよく知らないから、観光案内所でガイドブックをもらおうと思う」


 かなりざっくりしたプランニングである。彼は自分が興味がある特定の事柄以外のことには無頓着であり、そんな彼の性格を考えれば、仕方のないことであった。しかし、それは愛稀にとっても好ましいことでもある。彼女は彼女で、その場の気分で行動しがちなところがあるので、綿密に予定を組まれるより、ある程度の余裕があった方が動きやすいのだ。


 まったく違う個性(ある意味、癖と呼ぶべきものかもしれない)のある二人だが、実際の場面でその歯車がなぜか絶妙に噛み合っていることが多く、それが二人の関係性を支えているともいえた。


「そうだ、行きたいところがあれば予定に組み込むから、君も事前にスマホとかで調べといてくれないか」


「りょうかーい!」


 愛稀は快活に答えた。


 八百万の神によって守られているという我が国。各地に数多の人たちがいるように、それぞれの神もそこに存在している。そんな人や神と出会うことができる――それが旅行の魅力の一つだと愛稀は思っていた。

 さて、次はどんな出会いが待っているのだろう――そんな期待を胸に、愛稀は凜と次の場所へと向かってゆくのだった。


「さようなら、いつか、また会いましょうね」


 そんな思いを、この地に残しながら。

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