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「……何やら、もめているようじゃのぉ」
神は、こちらに向かって歩いてくるカップルをぼんやりと眺めながら言った。二人が言い争いをしているのが、遠目からでも見て取れた。様子から察するに、ワガママを言って相手を困らせているのは女子の方のようである。いつの世も、男子は女子に振り回されるものじゃな――と、神は遠い目をしつつ思った。自分にだって、同じような経験はある。今となってはいつの頃とも知れない、はるか昔の話だが。
「はて。じゃが、何とはや」
けれども、二人が近づいてくるにつれて、神はあることに気がついた。それは、両者の身体に纏う生のオーラに関することだった。彼は神だけあって、通常の人間には分からないところも、感じ取ることができる。何というか、この二人は神聖な世界に通じるような要素があるようだ。特に、女子の方は顕著であった。男子の方はよくよく見ると分かるくらいのうっすらとしたオーラしかないが、女子の方はそれが漲っている。神は呟いた。
「人は見かけによらぬというが……案外信心深い奴なのかもしれんの」
神はこの二人、特に女子の方に少し興味が湧いた。暇をしていたところである。少しぐらい立ち寄ってくれないか――そんな思いが頭をよぎる。
「おーい、そこの二人。ちょっとこっちへ来んか。こいこいこい……」
神は手をひらひらと、招くようなジェスチャーをする。それに呼応するかのように、女子の方が足を止めた。