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「あっつ~い!!」
愛稀が声をあげた。焼けつくような日差しに、上がり切った午後の熱気に、すっかり音をあげたのだ。
「凜くん、もう車に戻ろうよぉ……!」
「何を言ってるんだ。この辺を散歩したいと言い出したのは、君の方だぞ」
凜と呼ばれた男性は、愛稀をたしなめるように言った。こちらに寄りかかりながら不満を言いつつ、よたよたと歩く彼女。歩きにくくて仕方がない。
そもそも、この辺にやって来たのも、彼女が「たまには二人で遠くに行きたい」と言い出したのがきっかけだった。それで、良さげな地域を探し、ホテルを予約し、高速道路・一般道織り交ぜつつ、車を200キロほど走らせてこの地までやって来たのだ。目的地に向かっている道中、助手席に座る彼女が言った。
「ねえ、この辺りも面白そうじゃない?」
「この辺りって――何もなさそうだぞ」
凜には車の窓から見える光景は、地方の寂れた田舎町のそれにしか映らなかった。しかし、愛稀はちっちっち――と気取ってみせる。
「こういうところにこそ、意外な名所があるものなんだよ」
一度言い出したらきかない彼女のことだ。それに急ぐ旅でもない。ここは従った方が良いだろう――凜はそう考えて、適当な場所に車を停めた。
――のだが。
「だってぇ、こんなに暑いと思わなかったんだもん……」
車を停めさせた張本人はそんなことを言ってくる。そのワガママさ加減に、さすがの凜も良い気分とはいえなかった。だが、その怒りを彼女にぶつけても、まったく意味はない。そのことが分かるくらいの期間は、彼女とは付き合ってきた。
「分かったよ。この辺りで引き返そう」
と、凜は言った。足を止めて、踵を返そうと思う。だが、先に足を止めたのは、愛稀の方だった。