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魔女の逸話とサイドストーリー

作者: 柳上晶
掲載日:2024/05/27

魔女の弟子が、行方不明の魔女を探す話。

 永遠に続く青空は、無いと思ってる

 いつも曇り空の天気が私の世界


 ある時、白縹色の魔女がぽつりとつぶやいた。その時は星が煌めく夜だった。

 遠くの知らない空を見つめている横顔からは、何も思っていない、何も感じていないかのような雰囲気を醸し出しているように思う。

 静かな魔女は、こちらを向いて少し微笑んだ。流れる髪はまるで星のように煌めき、空の星空の一部のようだった。

「ね、君はさ、恋とかそういうの、わかる?」

 唐突にかけられた質問は、彼女がいつも疑問に思っていることだ。彼女はそう言ったことに疎い。理解ができないというのだろう。

 私には答えられない問は、元から答えを期待されておらず、なんでもないかのように別の話題に切り替わる。

「もうそろそろ、かなぁ。眠いなぁ」

 眠そうに眼を閉じた彼女は、ずっと静かに物事を並べ立てる、そういう生き物のようで、生きている人間らしさがまったくと言っていいほどない。それでもかすかに動き、こちらを気にかける様子を見るだけで、この人は生きているんだなと思うことができる。

「もう、ねよっか」

 次の日、朝起きたら彼女はいなくなっていた。

 雨音がうるさいほど響いていた日だった。







「ありがとね。助かったよ」

「いえ、これぐらいなんてことないですから」

 馬車が通り、魔物がはびこる世界の片隅にある村で、その姿はあった。

 薄桜の髪を腰あたりまで伸ばし、まるで魔女のような大きな帽子とローブを身にまとった少女。彼女はツィーと言った。

 ツィーは老婆の荷物を見た目にそぐわない腕力で運び、通り過ぎていく人々を驚かせた。村で様々な手伝いを終わらせ、村長のもとに行く姿に、村人たちは感謝と畏怖の目を向けた。

 それらの視線を何とも思わず、気にすることなくツィーは優雅な足取りでその場から立ち去って行った。

 

 村長の家は、そのほかの家と変わらないつくりをしており、一目見る程度ではそれが村長の家だとわかる人はいないほどだった。そうなった要因は、いくつか理由がある。そのいくつかの理由の一つに用事があり、ツィーはここに来たのだ。

 古くなって軋むような音を出すドアを開けた先に村長が座っていた。

「お疲れ様です。もう終わったんですか?」

「はい」

 帽子を脱ぎ、礼儀をもって接する。そんな態度に気にかけず、村長は一冊の本を取り出してまるで押し付けるかのようにツィーに渡した。古ぼけた本の表紙には『魔女の逸話』と書いていた。

「お礼の品です……本当にそれでいいんですか?」

 不審がるような目つきでこちらをうかがってくる。こんなものを欲しがるような奴は、服装も相まって、どうあがいても信用できないのだろう。

 ただ、そのようなことに気を取られるツィーではなかった。

 そっと表紙を撫で手に収めた後、そのまま振り返り、ドアノブに手をかける。

「私は」

 喉を震わせる。ツィー自身、言葉が出ているかわからないぐらいのもの。それでもよかった。もともと、聞かせても無駄だと考えていたから。

「人を探しているんです。そのために、必要なものです」

 それを聞いた人はまるで理解ができないというように不可解な顔をして、それ以上は聞いてこなかった。

 それでいい、と心の中でつぶやいたツィーは、さっさとドアをくぐり抜けた。

 ドアの外は、相も変わらず敵意を向けてくる視線がほとんどだ。そもそもの話、魔女のような見た目というだけでこの世は無慈悲になる。理由は簡単、不吉だからだ。その存在も、何もかも。

 白髪の吟遊詩人が歌う。風に流れる声が耳に届く。それは、かつて生きていた魔女の話だった。



 大昔、というほど昔ではないが、かつて魔女という存在がいた。魔女は人の常識から離れた力を扱うことができた。魔女は人々のためにその力を使い、望みにこたえ、共存しているかのように見えた。しかし、ある事態が起き、状況は一変する。一人の魔女が人を手にかけた。それからはもう止まることもなく事態は動き続けた。元から力を恐れていた人々はこれ幸いにと魔女狩りを行った。一人残らず消し去ろうとしたのだ。ただ、それはうまくいかなかった。一人、また一人と減っていく同族を見て、残った数人の魔女は姿をくらませ、二度と人の世とかかわることの無いよう眠りについた。

こうして人々は恐怖におびえて暮らす生活から解放され、幸せな生活に戻った。

───一人残った魔女の話はまた今度。



「えーっ終わりなの?もっとお話し聞かせてー!!」

「また今度って言ってるでしょ!すみませんうちの子が」

「いえ、大丈夫ですよ。興味を持ってもらえたのなら何よりです」

 家族と吟遊詩人の会話が聞こえる。家族の幸せそうな声が胸を刺し、複雑な気分になる。

 そんな人らを横目に、ツィーは手に持った本を大切に開ける。初めに目に入ったのは魔女たちについての注意喚起。

『魔女は実在し、今もまだ生きていますます。決して、探そうとしないでください。それでも魔女に会いたいなら覚悟をしてください。彼女らは常識が通じないものと考えて行動をしてください』

 随分な言い草だと、思わず鼻で笑う。随分と嫌われたものだ。そんなものもお構いなしに読み進める。目次に書かれているのは、魔女について、魔女の危険性、魔女の過去、そして、魔女の居場所。

 さらりと目を通し、魔女の居場所というページにつく。見開きで書かれた地図にはそれぞれの魔女が活動していたと考えられる場所が示されていた。そこから、今いる場所と照らし合わせて一番近い魔女の位置を調べる。そこには、地形は少し変わっているがちょうど今いる村あたりだと知る。

 さてどうするかとあたりを見渡すと小さな子供たちが楽しそうに遊んでいるのが見えた。その子供たちは森の近くで度胸試しだのなんだのと話している。

 これは運がいいかもと思いながらツィーは子供たちに近づく。

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」

「あ!魔女だ!」

「魔女だ!逃げろー!」

 さすが子供というべきか、キャッキャと騒いで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 追いかけようとしたが、あまりの元気さに体力が足りないと悟り、ただ一人逃げなかった女の子に話しかける。

「あの、度胸試しとか言ってたけど、森に何かあるの?」

「え、えっと……」

 もじもじとして一考に話そうとしない少女の目線に合わせてしゃがむ。

 知らない人と話さないようにしっかり言い聞かせられているのかと、うんうんとうなずき、手のひらを目の前でひらひらと動かす。

 この動きは危険がないということを示そうとしているのではない。手のひらに何もないことを見せているのだ。次の瞬間、ツィーの手のひらに満開の花が咲いた。

「わぁ…!」

 ようやっと笑顔を見せた少女に、ツィーはもう一度問いかける。

「もう一回聞くけど、森に何かあるの?」

「あ、えっとね、この森に魔女のお墓があるって噂があって、それで……」

 そこまで聞いて、確信をした。

 ここに、魔女の手掛かりがあることを。

「ありがとう。これはあなたにあげる」

 先ほど出した花を少女の髪に飾る。少女は少し頬を赤らめながらありがとうと笑った。

 そうして子供たちを見送ると、ツィーは森の中に足を踏み入れた。







 森の中は特に変わったところはなく、たまに小さな動物たちがうごめく音が聞こえるだけだった。

 道とも言えない森の中を歩く音が一人寂しく鳴り響く。少しだけ空が暗くなっていくのを眺め、歩みを進める。すると、視界が少し開けるとともに、見覚えのある景色が広がり始める。

(なるほど)

 少し立ち止まって考える。魔女が墓を荒らされないようにするためにすることとは。

 もう一度森の奥へと歩み始める。

「……」

 注意して進んでいくと、魔女が魔法を使った痕跡が所々に残っているのが分かる。それらをたどっていくと、だんだんとあたりが暗くなり、星空が輝く綺麗な夜になっていった。

 これが魔女の力。時にはこうやって世界の事象にも影響を及ぼすことができる。

(だから怖がられるんだよ)

 唯一知っている一人の魔女を思い出し、魔女の墓を探す。

 彼女らは死んだことになっているが、実際は違う。わざとそう言った噂を流し、もう自分たちが狙われないようにしているだけだ。つまりは、死んだふりをして墓でただ、自分たちが忘れられるまで待っているだけなのだ。

 月がきれいに見える。月がちょうど頭上当たりに来る場所に墓はあった。思ったよりは簡単に来ることができたことにホッとして、墓に近づく。しかし、きっとここにいるはずだと期待を込めて近付いた墓には何もなく、ただそこにたたずんでいるだけだった。

「あれ……おかしいな…」

 何もなかったことに驚き周囲を見渡すと、突如聞きなれない声がした。

「なにがおかしいんだ」

 急なことに驚き声のある方へと目を向けると、そこには一匹のクジラが浮いていた。それも、ちょうど一メートルぐらいの大きさで、体中に星空を宿し、空中に浮いていた。

「何か用か?娘」

 なんて上から目線なんだと思いつつも、見たことない生き物が空中に浮いて喋っているということで、ツィーの頭はもうパンクして動かなくなってしまった。

 聞きたいことがあったのに、何を話そうとしたかが思い出せず、頭が真っ白になってしまった。

 なんだったっけと思い出していると、しびれを切らしたのか、そのクジラが話し始めた。

「お前、あれだろ。ミソラんとこの弟子だろ」

「え、何で知ってるんですか?」

 何を隠そう、ツィーはミソラという魔女の弟子だったのだ。

 なぜこのクジラがそのことを知っているのか。それを聞く前に、クジラはツィーの周りをくるくると漂いながら言った。

「ミソラから言われたんだよ。これから来るのは私の弟子だから後よろしくねって」

 なんだかすごい投げやりな感じだなと思いながら、師匠らしいとも思った。

 なんだか懐かしい思い出を思い出しそうだ。ただ、クジラの言葉でそれも邪魔される。

「お前さんは、何か用があるんじゃないのか」

 そこで、真っ白だった頭が急に色味を帯び始める。

 ツィーの用事は簡潔に告げられた。

「……魔女ミソラの行方が、知りたいんです。何か、知りませんか」

 いつの日か、朝起きたとき一つの手紙だけを残して行方知らずになった魔女。ツィーの師匠でもある。

 きっと、魔女の誰かは知っているかもしれないという淡い期待に縋ってやってきたのだった。

 しかし、それに対する答えは残酷であり、ツィー自身も予想していたことだった。

「いや、知らん。お前さんのことを頼まれてふらーっとどっか行ったからな」

「そうですか……」

 少し残念に思いながらクジラに背を向け、墓から去ろうとするツィーに慌ててクジラが声をかける。

「待て待て、こっちはお前のことを頼まれてるんだよ」

「でも知らないんでしょう」

「そうだけど、他の魔女への道案内はできるから!」

 無理やり進行方向に割り込み、歩みを阻害され、仕方なく止まる。ただ、情報収集をするという点ではくじの力は必要ではある。

「俺はミラっていうんだが、お前は何て呼べばいいんだ」

「……ツィー」

 そう言うと、ミラはなるほどなるほどとツィーの名前を反芻させて覚えようとしていた。

 そんな姿に、なんだか懐かしいと思いながらミラを呼ぶ。

「じゃあ、早く行こう」

「ああ、はいはい。わかったよツィー」

 こんな調子で、ミソラを見つけるのはどれくらい先のことなのだろうと考えてやめる。

 どうせならこの道のりも楽しい記憶として覚えておこうと、予想外ではあったが増えた同伴者のミラを見てそう思った。

 きっと、師匠もそう言うはずだから。



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