#8 『レベル上げは簡単な強化である』
RPGゲームで行き詰まったとき、または敵に勝てなくなったとき、手っ取り早く強くなる方法として、レベル上げがある。
装備を整える、武器を強くするなどもあるが、限界がある。
そこにはそのゲーム内での「お金」が必要になる。
現実と同じで、お金を使い買い物をするのにも限界がある。
いくら装備や武器が強くても、本体が弱ければ話にもならない。
やはり、レベル上げが強くなるための一番手っ取り早い方法である。
ただし、レベル上げにも限度があるではないか。
レベルマックスになればそれ以上は上がらない。
そうなれば、プレイヤーはそこからは経験を積むことに焦点を当てるようになる。
それはこの世界でも有効だ。
経験を積めば積むほど強くなれる。
ただし、そこに意志がないとき。
相手が最適行動を常に取り続けるとき、相手の経験の量を上回らなければ勝つことは出来ない。
カエデは神社に向かいながら考える。
――夢を破るにはどうすればいい⋯?ただ単にニゲラを倒しても、また同じことの繰り返し⋯
カエデがニゲラ討伐を果たすために必要なステップは三つ。
一つ目に、夢の突破がある。
夢を突破しなければ、一生ニゲラを倒したという事実は生まれない。
夢に囚われ、永遠に終わらない戦いに身を投じることになる。
二つ目に、自分自身が強くなること。
夢の中では誰もがなんでも出来てしまう。
故に、カエデはおそらく前回のようにはいかない。
自分の都合の良いように物事が進むため、その補正が無くなる分、ニゲラ討伐の難易度は上がる。
最後に、夢を突破した時おそらく使うであろう権能の対処法を考えること。
この夢の空間をニゲラが展開しているなら、この夢を創り出す能力が権能の可能性もある。
だが、対処法を考えておくことは無駄では無い。
カエデは神社にたどり着く。
この間もカエデは顔の辺りに手を当て、色々なことを考えている。
――これまでの経験を思い出せ⋯ 夢の中とはいえあいつに相対してしっかり感じたはずだ⋯夢の突破に必要なことは⋯
そんなことを考えているとカエデの前方から声が聞こえてきた。
「随分悩んで考え込んでいるようですね?カエデくん。」
声をかけてきたのは、見覚えのある半妖のような容姿の巫女。
「⋯確か、『創造者』さん⋯だったっけ。あぁ、もう境内に着いたのか。」
「どうしたのですか?そんなに難しい顔をして。」
「あーー、そっか、一応カラクリはわかんねぇけど戻ってはいるんだもんな、初めまして、か。」
「? そうですね。ところで私の質問には答えてくれないのですか?」
『創造者』は真っ直ぐな瞳でカエデを見つめている。
「⋯いやぁ、なんでもないんだ。それより、えっと⋯初対面?で申し訳ないんだが剣をくれないか。身体能力がめちゃめちゃ上がるやつ。」
カエデはこの世界では初対面なのに厚かましいと思いつつも手を差し出した。
しかし、『創造者』は逆にカエデのように難しい顔をし真っ直ぐにカエデを見つめる。
そして唐突に、しかし、絞り出すように言葉を発する。
「――少々、早かったですね⋯考えていたより。」
そして凛々しい顔つきになり言葉を続ける。
「古来より私は、あのお方の全ての想いの行く末を見届けるために、この地で世界を守っているっ!その容姿で私に近づこうとも、一切の温情をあなたに与えることは無いっ!」
その言葉にカエデは驚く。
それはもう、罠にかかった動物のように。
「⋯は?いや、何を言ってんだよ?だってあんたは前にはちゃんと⋯⋯っ!」
カエデから疑問の言葉が口に出るその時、世界が暗く止まった。
――これは!?知ってる、この感覚は⋯
『異常な発言内容を確認しました。世界との接続を停止します。』
目の前が暗くなり、辺りからは色が失われていく。
意識だけが残り、身体は失われていく。
色が失われた世界に霞がかかり、カエデの体を覆っていく。
――なんだよこれ!前の時とは違う!?前よりももっと⋯
霞はどんどん濃くなり、カエデの体を締め付けていく。
苦しいという感覚がどんどん刻まれていく。
――いつになったら⋯終わるん⋯⋯
カエデの意識が途切れた時、霞が消えていき、世界に時間が戻る。
カエデは『創造者』の前に倒れ込んでしまった。
―――――――――――――――――――――
硬く、とても人が寝転がるようなものでは無い材質の床の上、カエデは目を閉じ横たわっていた。
気持ちよく寝ているというより、気絶していると言った方が正しい。
その近くに寄ってくるひとつの影があった。
その者はカエデの頭の先の方に立つと、顔を近づけるようにしゃがみこむ。
その直後、タイミングを合わせたかのようにカエデの意識が戻り、目が開く。
「ううぅん⋯⋯んーーー⋯⋯?」
目と目が合い、意識が戻り掛けでまだ呆けているカエデは真っ直ぐにその者の目を見つめる。
しかし、堪えきれなくなったのか静寂を割く言葉が発せられる。
「えっーと⋯⋯、あの、どういう状況⋯?」
「そうですね、あなたが不躾な要求をしてきた後、不躾に私の前に倒れ込み、不躾に私にここまで運ばせて、今、不躾に目を覚ましました。」
「あー、そのまま話すのか⋯。俺、気絶して倒れたのか?」
「えぇ、『不躾』に。」
「えっと⋯ありがとう?いや、申し訳ない、か?」
「どっちでもいいですが、起きたのならあなたにお話したいことがあるのでそのままで聞いてください。」
「えっと⋯はい⋯?」
カエデが在り来りな返事をすると、その者、もとい『創造者』は部屋の奥の方に歩いていった。
そして、鍔がついている何か剣のようなものを持って戻ってきた。
カエデに近づいてくるにつれ、その剣の容姿が明らかになっていった。
「⋯っ!それって⋯!?」
「えぇ、おそらくあなたが想像しているものでしょう。あなたが私に渡せと言った剣です。」
「マジかよ⋯、でもあん時は渡さないって⋯」
「はぁ、そうですね、あの時はあなたが不躾な不審者に見えたので。ですがこの剣の経験を見てみると、長いこと変わりなかった経験に新しい経験が蓄積されてたので、それを少し覗いて見たらあなたと姿がとても似ていましたので。」
「お、おぅ⋯?経験?覗く?分かりやすく説明してくれねぇか?」
カエデにとっては全くもって聞き覚えのない単語の羅列。
カエデは一瞬にしておバカになった後、簡略化を求めた。
すると『創造者』は小声で何か呟く。
「ふむ⋯、知っているものと思いましたが、この軸の私は説明しなかったのでしょうか⋯。」
「なんて?」
「いえ、なんでも。そうですね、この剣には経験が貯まるのです。例えば、戦った相手との戦闘経験などですね。そこに新しい経験が追加されていて、使用者としてのあなたの姿が投影されていたので。戦っている相手はニゲラ・ガルミアですね。概ね状況は理解しています。変な言い方になりますが、またあなたに依頼しなければなりませんね。」
「経験⋯⋯、変なこと聞くけどさ、それがあれば勝てると思うか?今の俺でもさ。分かるだろ?その、経験ってやつで⋯。」
カエデが全てを喋り終わる前に『創造者』はこの質問に対し、悩むことも考えることも無くキッパリと答えた。
「いいえ、無理です。この経験の中のニゲラ・ガルミアは実力を半分以上は余らせてあなたに負けているでしょう。」
その言葉にカエデの言葉が詰まる。
不意打ちで勝利したとはいえ、ニゲラ・ガルミアはカエデに対して本気で戦っていた訳ではなかったのだ。
――俺はどうすれば⋯
時間というクリアまでの猶予も残されていない中での『創造者』からの敗北宣言。
焦りがいっそう増し、カエデはまるで微動だにしなくなっていった。
実力を十分に発揮していなかったという事実のおかげでカエデのニゲラ討伐の三つのステップがよりいっそう高難度なものになってしまった。
「さて、答え合わせといきましょう。あなたはどうすれば実力十分のニゲラ・ガルミアに勝てると思いますか?」
この絶望の状況の中、『創造者』から放たれた一言。
まるで、『創造者』は勝利のための道を既に知っているような口振りで。
「勝つ⋯方法⋯⋯。経験を増やす事か?」
「ええ、それもあります。ただその剣を手にした瞬間に経験を増やす作業は終わっています。これは除外していいですね。」
「じゃあ、経験から対策しておく⋯とかか?」
「うーん、難しいでしょう。あなたの経験のニゲラ・ガルミアは対策できる程のものを使ってきていません。これも違いますね。」
「なんなんだよ、もう教えてくれ⋯。」
「自分で思いつくのがいちばん良いのですが、仕方ないですね。少々危険が伴いますが、この場所でニゲラ・ガルミアを迎え撃つことが出来れば、勝つ可能性は上がるでしょう。」
「それは当たり⋯前⋯⋯。いや、待て⋯。」
なぜ、『創造者』はここで戦わなければ勝てないのかを知っているのか。
なぜ、神社が安全であると知っているのか。
カエデはなぜ、このことを知っているのかということを疑問に思った。
「なんでここで戦うことで勝つ可能性が上がるんだよ⋯?」
コンテニュー前のことを話す訳にもいかないカエデは、知らんぷりを決め込んで質問する。
「剣の経験の内、あなたの戦闘の経験が妙なタイミングで途切れていました。おそらくニゲラ・ガルミアを倒した後にあなたが剣を手放す行動がなかった。急に剣が手元から無くなったように。その状態を引き起こすのは何らかの権能でしか有り得ません。」
「なるほど⋯それで?それがここで戦わないといけないこととどう繋がるんだ?」
「重要なのは権能の発動条件です。発動条件には、一つ、本人が能力を理解した上での意思による発動。もう一つ、大規模な空間付与を行い、何かしらのタイミングで発動または解除するものの二種類があります。今回の場合はおそらく後者、空間付与でしょう。となればだいたい発動条件は自身の生命活動の停止でしょう。」
「じゃあここも危ないんじゃないのか?」
「答えは否です。ここには空間付与権能のレジスト結界が貼られています。ここで条件を満たしても権能はもちろん発動しません。となればここで迎え撃つのが最善になります。」
「そのレジスト結界とやらが壊される可能性は?」
「有り得ません。私の傍付き護衛が貼った結界にアストルムの盟護が上貼りされています。簡単に言えば、破壊困難の二重結界です。」
「アストルムの盟護?なんだそりゃ?」
「御守りのようなものです。」
『創造者』が言うには、外はニゲラの死がキーになる権能空間が広がっていて、ここはその権能効果をレジストする二重の結界が貼っている、らしい。
つまりは、ここで戦い、倒せば、前回のような不可解な現象も突然の死も起こらないということ。
「来るのか⋯?あいつはここに⋯?」
「ニゲラ・ガルミアが狙っているものはここにあります。必ずと言っていいほど来るでしょう。」
「成功確率は?」
「半分。50%と言ったとこでしょうか。」
「俺が持てる手札は?」
「剣の経験とサポート、それと私のサポートですね。先に言っておきますが私は戦闘はからっきしです。」
――マジかよ⋯
相手は権能を複数持っている可能性もある。加えて『創造者』と父さんを庇いながらの戦闘。
超絶難易度なのに変わりは無い。
だが、カエデには僅かな希望が残されている。
――薄々分かってる⋯多分負ければ次は無い⋯
ここで勝ったという経験を積まねば、次の世界でシナリオが変わってしまう。
どう転ぶか分からない状況で暗闇の方に進む訳にはいかない。
夢も絶望も経験した。
同じ分、現実も希望も経験している。
「ここで厄災を断ち切る!」
二刻後、決着はその時に。




