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理想を望む世界のReStart  作者: 甘夢 柊
第一章 生誕村での凶厄
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#7 『そして希望は芽生える』

 男の変装が解かれる。

 神社に続く階段の前、白髪に蒼い瞳の男がいた。

 彼はつい先程まで変装をしていた。


「そろそろ頃合いだし、もう変装は必要ないよね。」


 彼は階段に背を向けたまま、今か今かと何かを待っている。

 遠くを眺めてみたり、不意に左右を確認したり。

 しかし、それに飽きたのか、彼は目を閉じ、風を感じ取りながらリラックスをし始めた。

 彼はとある景色を思い浮かべ始めた。

 まるで殺意と悪意の塊のような激しい戦いに身を投じる、自身の姿を。

 場面が最高潮に移っていく刹那、彼は気配を感じとった。


「なんだろう、この感じ?獣が向かってくるような⋯」


 彼が不意に背後に目をやる。

 彼の瞳に自分に向かってくる一つの塊が映った。

 彼は咄嗟に手を出す。

 だがそれは視界から突如として消え去る。

 直後、彼の背中に斬り傷が浮かび上がった。


「ぐぅっ!!誰⋯だ!?」


 彼が背後に目をやると、そこには覚悟の籠った目を持つ男がいた。



 ―――――――――――――――――――――――


 ――この剣のチートがなけりゃ、奇襲が失敗してた!ともあれ、奇襲は成功したぞ⋯


 カエデの奇襲は、ニゲラ・ガルミアの背中に無視出来ないダメージを与えることに成功した。

 カエデはすかさず、ニゲラに斬り掛かる。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」


 左下から右上に大振りで放った剣撃は、ニゲラの右腕に傷を付ける。

 ニゲラはたじろぎ、カエデの方に向くよう姿勢を変えつつ、後ろに三歩後退する。


「君は⋯、カエデくんだね?なんでこんなことを?」


 ニゲラがカエデに向かって質問を投げかける。

 カエデは答える気がなかった。

 カエデはもう一度、剣を強く握り締め、ニゲラに斬り掛かる。

 ニゲラはその攻撃を身をかわし避ける。


「質問に答えて欲しいなぁ。難しい質問じゃないと思うんだけど。」


「お前と話すことなんてねぇよ!」


 カエデは連続で二回、三回と剣を振る。

 しかしニゲラは身をかわし避け続ける。


「敵意があるって思っていいのかな?それなら僕も、容赦なく行かせてもらうよ?」


 ニゲラは自分の腰に手を当てる。そこにあるはずの剣を抜くために。

 しかし、そこには剣は存在していなかった。


「あれ?」


 ニゲラは剣を背中に隠していた。

 しかし、チート剣の微量の調整で、背中に隠してある剣を避けるように斬撃を浴びせたため、ニゲラは背中には、斬撃から身を守れる剣はなく、腰に差しているだろうと錯覚していた。

 一瞬の隙が生まれる。

 カエデの目とチート剣はその隙を見逃さなかった。


「しまっ⋯!」


 カエデはニゲラの右肩から左脇腹にかけてざっくりと斬撃を浴びせた。

 ニゲラの体から赤い液体が吹き出す。

 ニゲラ・ガルミアはその場に倒れ込んだ。


「はぁ⋯はぁ⋯、やった⋯のか?」


 ニゲラは一ミリ足りとも動かない。

 正真正銘、カエデはニゲラ討伐を果たしたのだ。

 一瞬の隙も見逃さず正確に相手を斬るカエデの剣の才能、チート剣の戦闘補助機能、この二つがニゲラ討伐に貢献していた。


 ――この剣じゃなかったら、逆にやられてた⋯


 ニゲラの体が光の塵のようになって消えていく。


 ――塵になって消えた⋯、ゲームだから塵になって消えるのか⋯


 カエデは剣を腰の鞘に差し、地面に寝転がる。


 ――あいつの厄介な能力も使わせなかった⋯これで父さんも元に戻る⋯⋯でもなんで能力で避けずに、単純に避けてたんだろう⋯


「能力を使わなかった」。カエデはこのことが少し頭に引っかかっていた。


 ――あいつのあの能力なら、簡単に俺の背後に回れそうなのに⋯


 しかし、カエデは全力で剣を降って疲れてしまったのか、目を閉じて、寝てしまった。



 ―――――――――――――――――――――



「僕は君の周りには極力手を出さないと誓うよ。」


「これは僕達にとってウィンウィンの関係を築くための第1歩になる。」


「いや、君は信じるさ。それしか道が無いからね。まだ今は。」


「君は僕のため、僕は君のために。」



 ――何だこれ⋯?確か前も同じようなやつを見たような⋯?でも、前よりもハッキリしてるような⋯あの時のは確か⋯


「夢だったよな⋯」


 カエデは目を覚ます。


 ――あぁ、俺疲れて寝ちまってたんだな⋯そうだ、『創造者』にニゲラを倒したことを伝えに行かなきゃ⋯


 カエデはフラフラと立ち上がる。

 しかし、全身に少しづつ痛みが出てきて、カエデは剣を地面に突き立て、それを支えにするようにぐったりする。


 ――久しぶりに急に動いて全身が筋肉痛になったのか⋯でも動けないほどではないか⋯


 カエデは剣を支えにしながら一歩ずつ神社の階段に向かって歩いていく。

 一歩、二歩と歩き、階段を登っていく。


 ――階段無駄に多いんだよ⋯父さんの無事を早く確認したい⋯


 カエデはやっとの思いで階段を登りきった。

 しかし、眼前には社は構えられていなかった。


 ――あれ?神社の階段登ってたよな?思い違いだったかな⋯


 目の前にはいつも見慣れた道があり、そこはカエデの家に繋がる道だった。

 カエデは疑問に思いつつも、疲れすぎて思い違いをしていたのだとあまり気にしていなかった。

 カエデはいつもの道をいつものように歩き続ける。

 日が差して眩しい道をどんどん進んでいく。


 ――そろそろ家に着くな⋯父さんは無事だろうか⋯


 段々と家の概形が見え始めてきた。

 そしてその前に三人の人物が立っている。

 ガルドラ、父さん、母さんだ。

 

 ――!! 父さん、ちゃんと元に戻ったのか!良かった⋯


 カエデは思わず走り出す。


「父さんっ!!」



 ―――――――――――――――――――――


 何故だろうか。

 いつからか体の痛みが無くなった。

 剣も無くなった。

 時間でさえ夜中だったはずなのに日が差した。

 階段を登った。

 しかし、道を歩いていた。


 カエデはまだ気付かない。

 気付けていない。

 気付くことが出来ない。


 場面が急に変わっても、自分の状態が急に変わっても。

 カエデはなんの疑問も持たず目の前の幸福に飛びついた。

 自分に都合が良い方へ進んでいく景色。


 面白いよね⋯

 どんなに才能があろうがなかろうが⋯

 疑問を持つことは出来ない⋯

 どんなに覚悟を持っていても⋯

 疑問を持つことは出来ない⋯

 疑問を持つことを自分自身で放棄する⋯

 とても興味深い状態⋯

 もう逃れられないよ⋯


「勘違いがあったとはいえ、その剣の才能、見事だったよ⋯」

「でも、惜しかったね⋯、それじゃ僕は倒せない」

「君がどれだけ覚悟を決めて、僕に立ち向かおうと⋯」

「僕の命には、届かない。」


 カエデはみんなと楽しそうに話している。

 しかし、急にカエデの首から血が吹き出す。


 ――ぁぁあ!?なんで⋯急⋯に⋯⋯?誰が⋯⋯?


 カエデは咄嗟に首を抑える。

 しかし、段々とカエデの目の前が暗くなっていく。

 自分が今、どのような状態になっているのかも分からない。

 カエデの命の幕が、また閉じられた。



 ―――――――――――――――――――――


 ――ここは⋯最初の場所⋯


 カエデはコンテニュー後の始めの場所に戻っていた。


 ――俺はなんで死んだ⋯?誰が俺を殺した⋯?ニゲラを倒したはずなのに⋯なんで俺はまたここに戻ってきたんだ⋯?


 カエデは周りの景色をキョロキョロ見ながら考え込んでいる。


 ――分からない、分からない、分か⋯らない⋯


 カエデは頭を抱え込んで、俯く。


 ――そもそもなんでだ?俺はなんでまた⋯?⋯⋯、剣が⋯無くなった⋯、そうだ⋯剣が無くなった⋯あのチート剣が⋯⋯なんでだ⋯?なんで無くなった⋯?


 カエデは途中で剣が無くなったことを思い出し、その事について深く考え込んだ。

 頭を捻り考えたが、カエデは剣が知らぬ間に手元から無くなった現象を説明できる理由が思いつかなかった。

 ただただ、今までの覚悟も努力も、何もかもの希望が水の泡になってしまったことに深い絶望を覚えた。


 ――また同じようにしても⋯ここにもう一度戻ってくるだけ⋯⋯でもそれ以外じゃあいつを倒せない⋯⋯新しい敵がいたのか⋯?それともニゲラの権能⋯?何かしらの理由で権能を二つ持っているのか⋯?


 嫌な考えが頭に浮かぶ。

 新たな敵、複数所持の権能、遠ざかる父親救出、ニゲラ討伐。


 ――でも⋯なんか⋯


 ――違和感が⋯


 カエデは絶望を覚えながらもどこか違和感を覚えていた。

 カエデは喉につっかえる違和感について考え始める。


 ――いつもと違うような⋯いつもなら⋯


 カエデは前回、前々回のコンテニューの時を思い出す。


 ――コンテニュー画面が⋯あった⋯はず?そうだ!何も無い暗闇にコンテニューするかどうかの選択肢があって⋯確か俺は⋯そこで作戦を考えてた⋯⋯でも今回は無かった?


 前回、前々回までのコンテニューの時にあったはずの選択画面、すなわち暗闇が今回は無かったのだ。

 カエデはその事に気付くとさらに違和感に気付き始める。


 ――そもそも全部がおかしいような気がする⋯記憶が戻って一度目のコンテニューの時⋯暗闇の中で痛みを感じなかった⋯普通、刺されたら頭の中で感覚を引き継いで痛いって思うはずなのに⋯


 カエデは記憶が戻り、一度目のコンテニュー、すなわち、家の前でフードの男に刺された時のことを思い出した。


 ――胴体を真っ二つに斬られた時もそうだ⋯そもそも、展開が都合のいい方に傾きすぎだったような気がする⋯ニゲラに会う直前と会った後から⋯いくらゲームとはいえ⋯⋯そうだ、ゲーム!ゲー厶なら始めにチュートリアルがあるはず⋯でもこの世界ではチュートリアルどころか世界観についての説明も⋯


 カエデはチュートリアルが抜けていることについて疑問を抱き始めた。

 本来、どのようなゲームでもチュートリアルはついているはずだ。

 操作性も世界観も設定も分からなければどのようにゲームを進めれば良いか分からないからだ。

「理想を望む世界」なら尚更、それ相応のチュートリアルがあるべきである。


 ――チュートリアルが無い⋯ってことか⋯?⋯いや、違うな⋯恐らくチュートリアルはもう終えてる⋯何らかの理由でそこの記憶が抜けているんだ⋯つまりこれは簡単に解決出来る最初のチュートリアルクエストみたいなものじゃなくて、マジもんのやつ⋯


 カエデの頭の中からようやく違和感が消える。


 ――つまり今の状況は何らかのギミック⋯以前あった事が今回無くて、自分の思い通りに進むような感覚のもの⋯


 人々なら誰しもが経験するものであり、それはある一定の場合までそれだと気づくことが出来ないものである。

 カエデはこの奇妙な現象の理由を説明するためのピースが揃った。


 ――俺もよく知ってる⋯これは恐らく⋯「夢」だ⋯⋯気付けないわけだ⋯


 ここでカエデにある考えが浮かんだ。

 この現象を突破し、ニゲラ討伐を果たすための考えが。


 ――一箇所だけ⋯夢じゃないとこがある⋯恐らくイベントであろうものが発生した場所⋯


 カエデが覚えている中で始めてチュートリアルらしき説明を受けた場所。


 ――神社の鳥居をくぐったとこから社の中までのエリア⋯あそこは多分、夢じゃない⋯


 カエデの心の中に希望が芽生え始める。

 カエデは頭を上げ、立ち上がる。

 カエデは夢の突破のため、ニゲラ討伐のため、神社を目指し歩き始めた。

 

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