#6 『神使と討伐』
「――君の――には極―――出さ――と誓――」
「これ――達にとっ―――ンウィンの―――築くため――1歩に――。」
「いや、―――じるさ。それ――道がない――ね。まだ――。」
「――――――、―――――――。」
―――――――――――――――――――――
――なんだこれ?俺は今誰と⋯
「――ぃ、ぉい、おい!」
その呼び掛けにカエデは覚醒する。
「おい!そろそろ起きろ!もう暗くなってきたぞ!ったく、見張りは俺に任せて自分は居眠りかよ。」
怒りながらもカエデを起こすガルドラを横にカエデはまだ寝ぼけた様子で今の状況を思い出している。
――えっと⋯⋯そうだった⋯
昼間にニゲラを奇襲するのは得策でないと踏んだカエデは、辺りが暗闇に包まれるまで少し休息を取っていた。
暗くなるまでに作戦を立てるつもりだったが、疲労が溜まっていたのかカエデは休息を取り始めてからすぐ倒れるように眠りについた。
「そうだっ!作戦っ!」
「お前アホかっ!なんも考えてないのかよ!」
「仕方ねぇだろ⋯疲れてたんだよ!」
「言い出しっぺはお前だぞ、つーか作戦って具体的に何すんだよ?」
「何って⋯奇襲?」
「はぁー⋯⋯どうやって?」
「後ろからドーンって、なんか⋯勢いよく。」
「それは作戦じゃなくてアホのやることだ。そもそも奇襲する必要ないだろ。普通にあいつに見つからないように神社に行ってみたら良くねぇか?」
カエデは「確かに」と思ったが父さんが神社にいる保証は無い。
「父さんがどこにいるかわかんないから、あいつに聞くしかねぇよ。」
「お前やっぱアホだな。変装してんだろ?そんなヤバいやつが変装元を自分の近くに置かねぇわけねぇだろ。そもそもあいつは、ずっとあそこから動いてねぇんだよ。神社にいるって考えるのが妥当だ。」
「⋯⋯確かに⋯」
――やつに接触してもなんの成果も無いかもしれない⋯か⋯
「⋯⋯⋯直接、神社に行こう。」
―――――――――――――――――――――
カエデとガルドラはニゲラに見つからないように気配を消して神社に続く階段を駆けていった。
こうして2人は無事に神社にたどり着いた。
「気をつけろよガルドラ、まだ仲間がいるかもしれねぇ。」
「あぁ、分かって⋯る⋯」
ガルドラの言葉が詰まった。
ガルドラは自身の前方を向き目を見開いていた。
その視線の先にあったのは人影。女の影だった。
「待っていましたよ、君たち。」
女の影がこちらに向かってきながら声を発した。
近づいてくるにつれてその容姿が見えてくる
巫女装束に身を包んだ淑やかな姿。
そして腰の当たりから生えているしっぽのようなものが9本。
その姿はまさに巫女妖狐。人では無いのは確かだった。
「しっぽ⋯⋯?なんなんだお前?」
「自己紹介がまだでしたね、私はクリア・アリドラ。少々頼みづらいことなのですが、あなたにお願いしたいことがありまして。ニゲラ・ガルミアという男を討伐して欲しいのです。」
驚いた。この半妖からニゲラの名前が出て来るとは思っていなかったからだ。
「⋯⋯ニゲラ・ガルミアを知ってるのか?じゃあ俺の父さんのことも⋯。」
「ええ知っていますよ。あなたのお父様はこちらで保護しています。私の留守中にここに軟禁されたみたいですね。私がここにいるとも知らずに。」
「父さんがここにいるのか!?どこにいるんだ!?」
「ええ、こちらに。」
半妖の女に導かれるまま社の中に入った。
ガルドラは外で待っていると言って着いては来なかった。遠慮してくれたのだろう。
社の中には気を失っているであろう父さんの姿があった。
「父さんっ!」
「まだ、起きていないようですね。もうかれこれ2時間程でしょうか。恐らく何者かの権能が関わっていますね。」
「⋯権能?なんだよそれ?2時間?なんで父さんは起きねぇんだよ?気絶させられてるだけじゃないのか?」
次々と疑問が浮かんでくる。カエデはその全てを半妖の女にぶつけた。
半妖の女は静かに口を開いた。
「少し落ち着いてください。今から話します。恐らくですがあなたのお父様は何者かの権能によって目覚めないようになっています。この状態は権能の使用者を討伐すればすぐに治るでしょう。」
「⋯だから、その権能ってなんなんだよ?」
「知らないのですか?すみません、知っているものと。権能というのは生まれたときから既に所有している能力のことです。この力は所有しているものもいれば、所有していないものもいます。大半は所有していないものです。ここまでは大丈夫ですか?」
「⋯⋯続けてくれ。」
「あなたもその権能を所有しているのでてっきり知っているものと思っていました。」
「⋯俺が?俺にはそんな特殊な能力なんかねぇぞ?」
「ええ、恐らくまだ権能が発現していないのでしょう。権能はその身に発現しないと使用できません。この発現がとても厄介でして、権能を所有して生まれてきても、死ぬまでに発現しないこともあります。」
「つまり、俺はまだ使えないってことか?じゃあなんでニゲラ討伐なんて話が出るんだよ?」
この時点でカエデは権能の発現が起こっていない。
それはつまりカエデが前の世界で見たニゲラの権能であろう能力に対抗できる手段がないということだ。
その事をカエデはよく分かっていた。
「いえ、この世界での戦闘は権能でのものだけではありません。権能と同じように生まれた時から持っているのが能力値です。あなたはこの能力値が高いと思われます。」
「能力値?なんだそりゃ?」
「あなたの能力値で突出しているのは戦闘に関するものです。細かいところまでは分かりませんが。」
「つまり、あんたの言いたいことはその能力値でニゲラを討伐してこいってことか?ふざけんな!俺は戦い方なんて知らねぇし、あいつは武器も持ってる!武器相手に素手で行けなんて無謀すぎる!」
「私は何も無策で戦ってくださいとは言いませんよ。こちらをあなたに渡したいと思いまして。」
そう言ってカエデに渡されたのは新品の剣だった。
何の変哲もないただの剣。
「この剣で戦えってか?結局は無策じゃねぇ⋯」
カエデがその剣を握った瞬間、身体にとてつもない何かが流れ込んできた。
「その剣は私が作りました、能力値を上昇させるものです。少しだけなら戦闘のアシストもしてくれます。具体的には回避や軌道修正などですが。」
「なんだこれ、なんかすげぇ⋯、力が湧いてくる⋯ような?」
剣に対し感嘆していると、前方から物が飛んできた。
「うわぁっ!」
しかし、カエデに当たる寸前で身体が勝手に動いた。
そして、飛んできた物を避けるように身体が動いたのだ。
「どうですか?それがその剣に備えた戦闘補助機能です。少し速めに飛ばしたのですが、さすがの性能ですね。」
「すげぇ!⋯でも、それでもあいつと戦うことには繋がらねぇよ。こんなもんがあるんならお前が戦えば⋯」
これは真っ当な意見だ。わざわざ能力値が高いからといって、ニゲラ討伐をカエデに頼むのは少し腑に落ちないところがある。
「私は戦闘には向いていません。もっと言えば、狙われているのにわざわざ会いに行く方がおかしいでしょう。」
その言葉を聞きカエデは疑問に思った。
「狙われている?ニゲラは確か⋯」
その瞬間に思い出した。ニゲラは初めに会った時に、『創造者』クリア・アリドラに会いに来たと言っていた。
クリア・アリドラという名前は最近、ほぼ直近で聞いた。
「⋯お前、名前はなんて言ってたっけ⋯?」
「? なんですか急に?クリア・アリドラと申しましたよね?」
その言葉は一言一句間違っていなかった。
確かに半妖は言ったのだ。自身の名をクリア・アリドラだと。五大神使の1人、『創造者』と同じ名を。
「お前、もしかして『創造者』か?」
「? ええ、そうとも呼ばれていますね。そんな名前どこから出てきたのか分かりませんが。」
「じゃあまさか、この剣もお前が?」
「はい、私の権能で生み出しましたよ。」
予想外。カエデにとってこれは予想外の事だった。
『創造者』はこんなにも凄いものを造れるのだ。
「じゃあ、この社って⋯」
「私の家のようなものですね。あまり良い場所とは言えませんが。」
ここまでの大物が出てきたとなれば、ニゲラ討伐の依頼も現実味を帯びてきてしまうことになる。
「それで、ニゲラ・ガルミアの討伐についてなのですが⋯引き受けてくださいますか?」
「1つだけ確認させてくれ。それが済んだら返答次第では協力させてもらうよ。ニゲラを倒したら、父さんは無事に戻ってくるんだよな?」
「まだそれは分かりませんが、今から5刻、それまで私の安全が保障されればお父様を元に戻すことは可能です。」
「5刻⋯、つまり5時間。それまでニゲラを野放しにしてたらお前が危険な目に遭うってことでいいんだな?」
「はい。だからこそです。不安要素を取り除くことに協力してくださいませんか。」
「分かった。その任、引き受けるよ。この剣があれば勝てるんだよな?」
「はい、保証します。」
その言葉を聞き、会話を終えた後、カエデとクリア・アリドラは社の外に出た。
そしてカエデは社の外にいたガルドラに話をした。
「ガルドラ、俺の父さんを頼んでもいいか?ちょっとこいつに⋯いや、この人に協力することになって。」
「協力?まぁいいや。お前の父さんは任せといてくれ。」
「頼む。」
こうしてカエデはガルドラに父さんを預けて、ニゲラ・ガルミアの討伐を行うこととなった。
カエデは貰った剣を少し振り感触を試しながら、戦い方を頭の中でシュミレーションしていた。
――背後から一撃バッサリ斬るのが一番いいか⋯⋯あいつ、確か厄介そうなことしてたよな⋯⋯
まず考えていたのは前回起きた出来事の対処法について。
――避けたはずなのに避けられていなかった⋯みたいなやつはどうしようか⋯普通に剣が避けられるかもしれないしなぁ⋯奇襲が成功したら少しは機動力が下がるか⋯?
結局カエデは、初めの奇襲でできるだけ相手の機動力を無くす、という対処法に落ち着いた。
――まぁこれゲームだし、そんな滅多なことは無いか⋯チート武器も貰ったし⋯感触もバッチリだしな⋯
所詮はゲーム、というのがカエデの頭の中によぎる。
だが実際、この世界はゲームで、カエデが貰った武器は誰がどう見てもチート武器である。
カエデは剣を鞘にしまい目を瞑る。
――不安要素は抜けないけど、これで父さんが元に戻るなら⋯
カエデは目を開け、両手で両頬を軽く叩いた。
「よし、行くか。」
カエデは鳥居を潜り登ってきた階段からしたを見下ろす。
ニゲラに対する奇襲及び討伐が始まる。




