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理想を望む世界のReStart  作者: 甘夢 柊
第一章 生誕村での凶厄
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#12 『国威剣聖 ブレイブ・リバーツ』

「国威剣聖⋯?傍付き護衛⋯?『創造者』の言ってた助っ人ってこいつのことか?」


 圧倒的な存在感。空間のただ一点だけから放たれる怪物のような威圧感。

 余裕を持つその凜々しいとも言える笑みを浮かべた表情に、相対する者は萎縮し光を淡くしてゆく。

 ニゲラ・ガルミアの圧倒的な存在感は、その男の現着と共に一瞬にして塵となった。


狂想なき楓メイプルノーノーションの幹部クラスの方とお会いするのは初めてです。僕はどうやらあなた達から避けられているようですので、あなた達の方から僕の所へ来てくれたことには感謝しないといけませんね。」


「僕の方は出来れば君には会いたくなかったかな⋯。『国威剣聖』⋯」


「今の立場は『傍付き護衛』なのですが、言っても仕方ありませんね。」


「どっちも同じことだろう?君にかかる名声の大きさは⋯」


 ニゲラの表情が徐々に余裕のない表情に変わってゆく。

 実力の差とは、見ただけでは分からないもの。

 しかし、この瞬間にはその考えも無に帰す。

 カエデの見る二人は、まるでニゲラが狼とすれば、助っ人、もといブレイブ・リバーツは想像上でしか表せない龍のよう。

 戦いの始まりは一言、


「『改変(モディフィケイション)全能解放アーネストネスエグゼキューション!!」


 空気が揺らぎ、世界から爆ぜ、消えて戻り、その収束点はニゲラの中心へ。

 光り、輝き、膨れ上がり。

 大地は震え、世界は息を忘れるほどに揺れ動く。


「なるほど、全力⋯」


「君に切れる手札を温存するほどの戦い方じゃ、刹那にも持たないだろうからね⋯」


 ニゲラはたったこの瞬間、存在感のみで見ればブレイブと肩を並べるほどまでに膨れ上がった。

 しかし、青年は臆する表情一つせず、ただただその様子を見守る。

 腰にかけられた剣には触れずにじっと、相手の攻撃を待つかのように。


「君はそんな無防備で大丈夫なのかい?」


「ええ、気にせず向かってきてください。」


 余裕綽々にして受け身な返答。

 カエデはただその様子を、一連の流れを見守ることしか出来なかった。


「火流剣術 『業火焼』!!」


 今までの戦いで見せたことの無い剣技。

 炎を纏うかのような幻を魅せる一太刀は、ブレイブの腹のド真ん中を両断するように、


「なるほど火流⋯、権能頼りではなく流派を持っているのは素晴らしいことだ。ですが、少し速さが足りないようにも思える。」


 いたって冷静に、相手の攻撃を判断し、見抜き、返しの一太刀をブレイブは流れるように振り抜く。


「空流剣術 『風凪』」


 流麗な動きで、向かってくる瞬激をいとも容易く捌いてみせた。

 一切の無駄のない動きに、カエデは目を離せずにいた。


「火流は先手必勝、速戦即決の剣技。そこに十分な速度が乗らないとあれば、それは相手には届かない。」


 そう発しながらブレイブは剣を鞘にしまう。

「カチッ」と完全に鞘にしまわれると同時に、ニゲラの剣が「パキッ」と音を立て、折れた。


「あなたは僕を剣聖と呼ぶ。ならばと剣でお相手をしましたが、あなたの剣が折れてしまったならそこまでです。」


「これでも師匠に鍛えてもらった剣技なんだけどね⋯、やはり君は噂に違わぬ化け物だ⋯。」


「僕はまだまだですよ。『剣聖』にしかなれない。」


「謙遜だね。それは凡人からしたら嫌味にしか聞こえない⋯、僕はそういうのが嫌いなんだ、よッ!!」


 ニゲラは地を蹴り、ブレイブに飛びかかり、拳を握る。

 しかし、ブレイブは握られた拳を背を向けながら掌で受け止める。


「次は、体術での戦闘ですか?」


 首だけを少し後ろにまわし、そう告げると、受け止めた拳を支点に空を舞う。

 空中で一回転、回し蹴りをニゲラに浴びせ、優雅に着地する。

 蹴りはお粗末になっていた左肩に命中し、ニゲラの体勢が崩れる。

 ニゲラは背後に回ったブレイブの方へ向き直り、一打、二打と殴り掛かる。

 ブレイブは勢いのある拳を全て受け流して、ニゲラの両腕を掴む。

 拳が開かれ互いに掴み合うようにして、押し合いを始める。


「体術は僕もお粗末なのですが、思う存分お付き合いしましょう。」


「それが謙遜だって言ってるんだけどなぁ!君はなんでも出来る、そうだろ?」


「僕はいつでも強くありたいと願っている。僕の父はもっと偉大な人物だった。僕はやはりまだまだですよ。」


「君がまだまだなら僕はゴミ以下か?君は自然のうちに僕たちを馬鹿にしている!それとも皮肉な遠回しの言い方なのかなぁ?」


「自分を常に強者と思わないこと、僕たち騎士とは常に自分と向き合うものだ。僕は、僕自身の強さを本物の強者のそれとは認められない。他人の評価など、聞くに絶えないものだろう。己が強さは己で測れ、と教育されていますので。」


「もういい、やっぱり君とは分かり合えない。いいさ、いいとも、やってみせよう!ここからは僕の挑戦(チャレンジ)だ⋯」


 組まれていた手は離され、お互いは距離を取り、睨み合う。

 両者はお互いにジリジリと横に動きながら攻撃の機会を伺う。

 一歩一歩が重く、威圧感のを放っている。

 両者の間合いの中心に、一粒の雫が落とされた。

 雫が地面に落ち、弾けると同時にニゲラは地面を強く蹴り、ブレイブに拳を振りかざす。

 虚空を割くような一撃は、ブレイブの手により止められる。

 ニゲラは間髪入れず攻撃を続ける。

 足を、拳を使い強烈にかつ、猛烈に。

 速度を上げ、隙となる場所を的確に狙い、猛攻を繰り広げ続ける。

 雨粒が段々と大きな雫になってゆく。

 雨の降る音と、打撃の音が辺りに響き渡る。

 ブレイブはニゲラの猛攻の全てを的確に、受け止め、流し続ける。

 しかし、その猛攻も長くは続かなかった。

 ブレイブは一言、


「失礼⋯。」


 次の瞬間、ニゲラの体は空中に浮いていた。

 ニゲラは思考と感覚にズレを起こし、状況を飲み込めずにいた。

 反撃されたのだ。

 理解よりも早く、感覚が追いつかないほどの速度でニゲラが繰り出していたどんな攻撃よりも強く、重く、圧倒的な一撃で。

 ニゲラに感覚が追いついてゆく。

 鳩尾の辺りに響く強烈な痛み。

 ニゲラはようやく状況を正確に理解する。

 ブレイブの蹴り上げにより、空中へと吹き飛ばされたのだ。


 ――速すぎる⋯!体勢を整えて下にいるアイツにもう一度⋯!


 ニゲラは反撃を考え、ブレイブの方を見る。

 しかし、そこにブレイブの姿はなかった。

 そして、ニゲラの空上から、


「勝負はここまでだ⋯「狂想なき楓メイプルノーノーション」⋯」


 ニゲラがその姿を捕捉することなく、体は地面に叩きつけられた。



 ―――――――――――――――――――――


 くそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっ!

 冗談じゃないっ!速すぎるっ!重すぎるっ!遠すぎるっ!そもそも僕はこんなことをしに来たんじゃないっ!計画⋯そうだ、計画のためにここに来たんだっ!あんな化け物と対峙するためにここに来た訳じゃないっ!目が回る⋯音が聞こえない⋯全身が痛い⋯辛い⋯苦しい⋯!あぁ、でも見つけたんだ⋯そう、計画のために必要なピースを見つけたんだった!あいつじゃない、あいつじゃダメだ、あいつでは到底、僕の望みには相応しくない!でもダメだ⋯、体が動かない⋯!これはまるで⋯


『絶望』ってやつだ⋯



「君は「狂想なき楓メイプルノーノーション」の重要人物だ。これから僕が君を『国軍威風守護騎士団調査監獄』に連行する。君はそこで調査に協力してもらう。」


 ブレイブは地面に叩きつけられ身動きの取れないニゲラに向かいそう言葉を放った。

 その様子を見ていた、カエデはブレイブに向かい言葉を発した。


「終わったのか?てかそいつ生きてんのか?結構な場所から落ちたけど⋯」


「ああ、少し手加減はしているよ。それに本気で落としたとしても生きてはいたんじゃないかな。」


「てか、すげぇ強いんだな⋯。」


「そんなことないよ。僕もまだまだ「強さ」という点じゃ未熟だ。」


「謙遜すんなよ、俺がものすごく弱いみたいじゃん⋯。」


「そうか、それはすまない⋯、でも君も磨けば光るものがあると、僕は思うよ。ところで、「創造者」様はご無事ですか?」


 ブレイブがそう言うと、雨の中、カエデの奥から「創造者」の姿が現れた。


「ええ、これといった損害はないです。よくやってくれましたね、ブレイブ。」


「有難いお言葉です。僕はこれから、この者を騎士団に送り届けなければいけませんので。」


「分かったわ。」


 ブレイブと「創造者」の短いやり取りが終わり、ブレイブはニゲラに近づいていく。


「さて、僕たちもそろそろ行くとしようか。」


 ブレイブがそう言い、ニゲラに手を伸ばそうとしたその時、


「『《改変(モディフィケイション)》』!」


 唱えられた権能、辺りを白い光が包み込み、カエデたちの視界を奪う。


「さよならだ、『剣聖』!僕は絶望をも乗り越えてみせるっ!」


 白い光は神社を覆い尽くし、弾け飛んだ。

 ブレイブは光を剣で断ち、視界を確保したが、


「っ⋯!やられた⋯。」


 その一言と共に映し出されたのは、ニゲラ・ガルミアとカエデの居ない、神社だった。



 ―――――――――――――――――――――


 ――なんだよ⋯?何が起こって⋯


「危ないところだったよ⋯」


「っ!? ニゲラっ!? なんのつもりだっ!」


「そう噛み付くなよ、僕は君と話をしたいだけさ。」


「お前と話すことなんかねぇよ!」


「いや、あるさ。僕にとっても、君にとっても重要なことが⋯」


「―――――」


「君と僕とで、『取引』をしよう⋯。」

 

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