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(一)
部屋に携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「お、ついに来た!」
本革造りのソファから身を乗り出して福永修一はそう言うと、向かいのソファに座る自分の父親の福永修司の方を見た。
「いやこれは携帯の音よ」
修一の隣にいる福永美幸が言った。
「すみません、私のです」
そう言ったのは、美幸の向かい、修司の隣にいる高井戸文彦だった。彼はすぐに背広のポケットから携帯電話を取り出した。
「ほらあ」
美幸が修一に向かってそう言ったとき、高井戸の携帯電話は鳴るのを止めた。
(続く)