9 ˇ タイムマシンは一体どこにあるの?
「あたしが……死んじゃうの?」
どうやら今あたしは、『お前はもう死んでいる』と言われたみたいな? なんかすごくショックを受けてしまった。
確かに彼女のさっきからの態度からこんな答えは予想できた。でもいきなり自分が死ぬと言われても簡単に納得できるわけがない。
「ううん、ごめんね。違うの。そうじゃない。お姉ちゃんはもう死なない。多分ね」
「え? どういうこと?」
結局あたしが死ぬか死なないか、どっちなの? 早くはっきり言ってくれよ!
「もう大丈夫だと思う。だって、さっき私が助けたから」
「さっきって? まさかあのトラック!?」
「うん、その通りだよ。実は元々今日お姉ちゃんがトラックに……、そして……」
言葉尻が萎んで聞き取れなかったけど、大体の内容は察した。あまり口に出したくないくらい辛いことだろうね。
「……なるほど」
確かにさっきのトラックで本当に悲劇が起きたら致命的だ。でも彼女はあたしを救ってくれたね。
だからだろうか、あたしを助けた後彼女はすごく喜んでギュッとあたしを抱き締めた。
「本当によかった。これでお姉ちゃんはもう……」
「まさかあたし、助かったの?」
死ぬと言われた時相当ショックだった。でもこの話だと、あたしがもうすでに死亡フラグを回避できたっていうこと? 彼女のおかげで?
「そうだと思う。そもそも本来なら私が家に帰ってきた時、お姉ちゃんに会えなかった。でもさっきお姉ちゃんは私と会った」
そうだ。もしあたしがトラックに轢かれてしまったら、もう今の似海と会うことができなくなってしまうよね。それってつまり今本当に未来がすでに変わったってこと?
「まさか、あたしを救うためにわざわざ来たの?」
「最初から私がそう言っただろう」
「確かに……」
彼女にトラックから救われた後のことだね。確かに『未来からお姉ちゃんを救うために来た』って。あの時あたしはただの冗談だと思っていたが、どうやら本当だったんだ。
でも正直まだあまり信じたくない。あたしって、元々死ぬという運命なの? しかも簡単に運命は変えられるの?
「やっぱり、こんな話は信じてくれないよね? まあ、私もこれがただの夢だったらいいと思っていたよ」
「夢……」
もしかして今あたしが夢を見ているの? ううん、多分違うよ。今は現実だよ。さっき本当に痛かったのだから。
「まあ、どうでもいいかもね。どうせ助かったよ。私はこうやって自分で言って恩着せがましいように見えるかもしれないけど」
「ううん、助けてもらったのは事実だから」
さっきあたしはトラックに轢かれて異世界へ旅立ってしまうかと思っていた。でも彼女が助けてくれたからもう……。
やっぱりこのままあたし一人で異世界に行ってしまったら、弟たちのことは心配だよね。
あれ? でも実際に彼女のいた未来の世界ではあたしが死んでいるよね? やっぱりあたしがいなくても2人は大丈夫のようだね。
「でもあっちでのお姉ちゃんは全然無事ではないよね?」
たとえ今のあたしが救われて命拾いしても、彼女の世界では『お姉ちゃんがすでに死んでいる』という事実は変わらないのでは?
「そうね。あの時お姉ちゃんがいなくなって、私はすごく寂しかったよ」
「でも、2人はちゃんと強く生きてきたよね。あたしがいなくても」
「お姉ちゃんの代わりに、お兄ちゃんがいっぱい頑張ってきたから」
「そうか」
水澄はあたしより一つだけ年下だ。男の子だし。あたしがいないとやっぱりあの子はあたしの代わりになれるだろうね。あたしの代わりに弟を……いや、あっちでは妹か?
「ならあたしを助けるという目的が達成した今、次にお前はどうなるの?」
別にあっちのあたしが生き返られるわけではないよね? だったら彼女が今日あたしを助けて彼女にとって意味あるの?
こういうのアニメや映画でよくあるよね。過去に戻って大切な人を救ったっていう場面は。でも結末はそれぞれ違うよね。なら彼女の場合はどうなるの?
「さあね。どうなるんだろうね」
「はい? 何それ? あっちに戻るとあたしがもう死んでいないということになっているとか、そんな都合のいいことはないだろう」
「え? いや、それは……。実は私もわからない」
「なら、何のためにあたしを救いに来たの?」
「それも……実はよくわからない」
「何もわからないって? どういうことよ?」
彼女でも知らないのなら、誰が知るのよ? 神様か?
「そもそも、私はどうやって過去に戻ってきたのかな?」
「タイムマシンとかじゃないの?」
未来の技術ならタイムマシンは……いや、たった8年後だからそれはまだ難しすぎるかも。
「そんなものはないよ」
「じゃ、お前はどうやって?」
「えーと、私は、お姉ちゃんと過ごしていたこの町に戻ってきて、懐かしく昔のこといろいろ考えながら彷徨いていて、気がついたらいつの間にか8年前の世界にいたの」
なんか漫画みたいな展開だね。こういうのSFでもファンタジーでもあるよね。
「ちょっと待って、ならなんでここが過去だとわかったの?」
「最初は気づかなかったけど、何か変だと感じて周りを見れば大体状況を何となく把握できてきた。店で見かけた新聞の日付とか」
「なるほど」
確かに日付の確認はそんなに難しいことではないかもね。
「でも、さっきお前は『あたしを救うために来た』って言ったよね? なんでそんなことを確信できるの?」
「いや、別に確信したわけじゃないよ。ただ『なぜ私はちょうど今日戻ってきたのか』と思ったら、やっぱり理由はこれしかないんだよね?」
「確かに……」
どんな原理かまだよくわからないし、確信できるような証拠があるわけじゃないようだけど、確かにこの考え方は随分説得力があるね。
ってことは……、別に彼女はあたしを救うためにタイムマシンとか乗ってきたのではなく、『お姉ちゃんを救うために来た』って言ったのも、ただ自分でそう思い込んでいるだけ?
なら彼女をタイムスリップさせたのは神様や何か未知の現象? ちょうどこの時間に来たのも、ただの偶然かもしれないってこと?
「じゃ、もう一つの質問だ」
「何? また真剣な顔だね。お姉ちゃん」
いや、お前の方こそ呑気すぎるだろう。自分のことなのに。
「お前はどうやって未来へ帰るの?」
「えーと、さあね。そういえばまだ全然わからない」
「だよね……」
やっぱりこのまま簡単に終わると思うのは甘すぎるよね。どうやらこれからなんか厄介なことになっていくようだよ。