8 ˇ なぜ2021年みんなはマスクを?
「これは水澄か?」
未来の似海から渡されたスマホを弄って、あたしは一枚ずつその『未来の写真』を見ていく。どうやらこのスマホの使い方は今2013年のスマホとはほとんど変わらないようだね。
「うん、お兄ちゃんだよ。どう?」
彼女のスマホの中にある写真は、ある男と女の写真が何枚もある。女の方が彼女自身だね。そして男の方は多分、水澄……と言いたいところだけど、やっぱり少し違う。なんか今より大人に見える。背も今より少し高い。彼女より高いようだ。多分170センチ以上だろうね。確かにこれが8年後の水澄だと言われたらすぐ納得いけるね。
「どうやらお兄ちゃんと自分の写真をスマホに保存しておいてよかったね」
「あっちの水澄はどんな仕事なの?」
「お兄ちゃんは医者だよ」
「そうか」
確かに医者っぽい服を着ている写真もあるね。水澄も医者だなんて、これってあたしと同じ? そもそも水澄は医者になりたいとか言ったことはないよ。あたしの真似?
それならあっちのあたしも医者になるのかな? 気になるけど、こんなことを考えるとなんか怖くなってきた。
「お姉ちゃん、これで私のことを信じてくれた?」
「まあ、確かにそこまで見せられると、あたしは最早信じるしかないかもね」
合成写真には見えない。全部本物のようだから。
「でもちょっと質問だ。なんでみんなマスクなんか付けてるの?」
この写真の中に写っている写真はほとんどみんなは顔に、風邪を引く人やお医者さんがいつも使うようなマスクを付けている。もちろん、この2人もだ。だからはっきりと顔が見えないものが多い。
「実は去年……つまり2020年から、新型ウイルスが世界中突然現れて、大きなパンデミックになったの」
「ウイルス、パンデミック!? こんな大変なことに!?」
「うん、あの新型ウイルスはすごく狡猾でうつりやすいんだよ。数ヶ月で全世界に広がって大混乱だよ。それで結局みんな『いつもマスクを付ける』ことが日常になっちゃって……」
なんか怖い話だ。サイバーパンクのアニメや映画とかで見たような場面と似ているかも。2020年って7年後のことだよね? こんな近い未来に起きるとは。これは本当に真実なのか? やっぱり未来って知るものではなかった。
「まさか世界はもうすぐ終わりに向かうってことなの?」
「いや、確かに大災害になったけど、もうあのウイルスに対するワクチンもできたから、状況はどんどんよくなってきたよ。このパンデミックもようやく終わりに向かうはずよ。ちなみに私もワクチンを接種はしたから心配しないでね」
「そうか。ならよかった」
そう聞いて一安心した。どうやらパンデミックが起きてあっちのみんなが大変になりそうだけど、結局世界の終わりというほど深刻な災害なんかじゃないのね。それはまだよかったけど、本当に7年後こんなとんでもない大事件が起きるとはね。
その未来を知ってしまったあたしは何とかできるのかな? 正義のヒーローみたいに世界を救ったりするような大それたことなどするつもりはないけど、一応あたしだって医者の卵……になるつもりなんだから。
でもそんな話はさておいて、あたしが気になることはまだもう一つある。むしろマスクのことより気になることだ。
「ね、もう一つの質問だけど……」
「何? お姉ちゃん」
実はあまり訊きたくない。答えが怖いから。でも今更だよね。気になって仕方がない。むしろ今すぐ訊かないと悩んで仕方なくなってしまう。
「なんで、あたしの写真はない?」
そうだ。未来のあたしはどうなっているか気になっているのに、あたしの写真は一枚もない。さっきの温泉旅行の写真みたいな『過去』の写真ならあるけど、『未来』っぽい写真はあたしの写っているものは全然……。どういうこと? 彼女はわざと隠して私に見せないとか? 自分と水澄の写真はいっぱい見せたのに? なぜだ?
「やっぱり、写真を見てお姉ちゃんも気づいてしまったんだね」
「何のこと?」
「今更だけど、これもお姉ちゃんに言っておかないといけないようだね」
「え? あたしに何か起きると言うの?」
彼女はなんか真剣な顔になった。さっきまでの余裕はどこに行ってしまったの?
「お姉ちゃんは……」
まさか……もしかして、あたしは……もう。
「ね、まさか、あたしは……?」
「とても言いにくいけど。実はお姉ちゃんはね……」
言葉がまだ繰り返した。今回は彼女の目から涙がこぼれてきた。早く言ってよ! そんなに言いにくいことなの?
その時これ以上聞かなくても、すでにあたしはその答えを察してしまった。最早確信だ。
「もう死んだの。お姉ちゃんは……。今日……」
悲しくて泣きながら彼女はそう言った。予想通りの答えだ。
参ったな。やっぱり未来なんて、知るべきものではなかったな。