7 ˇ ドッペルゲンガーとかではないようだから
「今似海が……弟が入ってくるのだから、あなたはどこかで身を隠して! 早く!」
「えっ? なんで? この子って私自身だよ」
「わからないけど、もし本当にそうだとしたら自分自身と会ってどうする? 本当に大丈夫だと思うのか?」
もし彼女の話が事実だとしたら、彼女も似海本人だ。つまり同じ人物は遭遇することになってしまう。どういう結末が待っているかわからないけど、なんか嫌な予感だ。
「そうね。もしかして会ったらお互い消えてしまうとか? あはは。なんか面白いかも」
彼女はニヤニヤ笑いながら平然としてそんな冗談を言った。まさか彼女の代わりに真面目になっているあたしは馬鹿だったの?
「いや、そこまではないかもしれないけど。でも念のために……」
ドッペルゲンガーとかではあるまいし。でもパラドックスとかあるかもしれないわよ? それとも共鳴して何か起きる? そんな可能性も随分考えられるよね?
「お姉ちゃん、あれ? お客さん? 失礼しました」
もう似海が入ってきちゃったし! やっぱり手遅れか? そしてお互い目が合った。でもまだ触っては……。
「可愛い! このショタっ子は私なの? なんか不思議」
今触れちゃったし! こいつもう勝手に盛り上がってすぐ似海に抱きついたよ! もし2人本当に消えたりしたらどうするのよ? こいつなんでこんなに呑気なの?
でも結局何もないようだ。どうやら触っても何も起きないようだ。突然消えたり、フュージョンしたりするわけではない……。
「あの、お姉さんは一体誰なんですか?」
似海もいきなり知らないお姉さんに抱かれて困惑しているようだね。
「それはね、実は私は……、未来の……」
「ちょっと待って!」
なんか面倒くさそうなことになりそうだけど、とりあえず今すぐあたしはこの2人を止めないといけない気がする。
「「お姉ちゃん?」」
2人揃って唖然とした顔であたしを見つめて「お姉ちゃん」って天然っぽい声で言った。本当にそっくりだ。さすが同じ人物。なんか怖じ気ついたぞ。
「あのね、今あたしと彼女の話の途中だ。ごめんね、似海」
「あ、そうか。僕は入って邪魔してしまってごめん」
お客さんがいるから似海は遠慮してくれたようでよかった。
「なんでだよ? 私はこの子と話したいよ」
「お姉さんは僕と話したい?」
「駄目だ! まだ駄目! とにかく、今お前たちが話し合ったらきっととんでもなくややこしくなるからお願いよ!」
似海は一人でももう手いっぱいなのに、2人同時に相手になるのはさすがに無理だ。
「え? よくわからないけど、わかったよ。お姉ちゃん」
「わかってくれてありがとうね。似海」
やっと似海……男の方のだ……が部屋から出ていった。素直に出ていってよかった。問題は女の似海の方ね。
「ふー。よかった」
「なんで私自身と話したら駄目なの?」
話の邪魔をされて、今彼女はなんか不満そうだ。
「お前はまだあたしとの話の途中だろう」
「3人で話してもいいのに」
「よくないわよ!」
「そうね。実はお兄ちゃんも一緒に4人でもいいかも?」
「なんでそうなる!? あたしならともかく、弟たちまで巻き込むな」
このまま2人に合わせたら更にややこしくなりそう。こんな目に遭ったのはあたしだけで十分よ。絶対弟たちを守る! たとえ自分が全て背負ってしまうことになっても。
「でも私もお姉ちゃんの妹だよ」
「それは、そうかもしれないけど……。いや、本当にそうだと決まったわけじゃないし」
「お姉ちゃん、やっぱりまだ信じてくれないの?」
「それは……まあ」
今更だから、実はほとんど信じたよ。この2人は実際にすごく似ている。さっきの温泉旅行の写真も合成写真には見えない。なら本当に彼女はあたしの妹だと言ってもいい? ううん、でも確かにちょっと違うよね。たとえあたしが彼女の姉であっても、彼女はあたしの妹だというわけではないよね? なら弟? いやいや、それも違うし。まったくややこしい。
「やっぱり、この温泉旅行の写真一枚だけでまだ足りないかな?」
「そうね。他の証拠は?」
とりあえず、今まだもっといろいろ確認しておきたい。
「じゃ、もっとお姉ちゃんに写真を見せるね」
「まだあるの?」
持っているのなら最初から全部見せてもいいのに? もしかして実はできればまだあまりあたしに見せたくない理由でもあるのか?
「まあ、この8年間の写真もあるよ。でも今のお姉ちゃんにとって、これは『未来の写真』になるけど」
「未来か」
彼女はなんかさっきと違って、結構真剣な顔になった。何か不安なの? なんか雰囲気はちょっと重くなってきた。
「うん、これから2021年11月までの写真。本当にこれを見たい? お姉ちゃん」
なるほど、『未来の写真』っていう神秘的な存在は確かにあまり見るべきものじゃないかもね。あたしもそんなものを見るのはなんか怖いかも。だって見たら本来知るはずのないことを知ってしまうのだから。でも……。
「わかったわ。あたしに写真を見せて」
やっぱり見てみたい。なんか嫌な予感だけど、今更だからもうどうでもいいか。毒を食らわば皿までだね。