6 ˇ 未来の技術なら性転換など簡単なのでは?
「このぬいぐるみ、お姉ちゃんの気に入りだよね? いつも抱いていたし。懐かしい」
似海(を名乗った女)を連れて部屋に入ってきたら、彼女はすごく煩くなってきた。部屋を見回して、あれこれ見たことがあるような態度で語り始めた。
「部屋のものを勝手に触るな」
「あ、ごめん。つい」
「それより、ほら、傷を見せて」
「うん」
まだ話が進んでいないままだけど、今まずは手当だ。あたしを救った所為で彼女の手首に傷ができたから。
「なんか本当に久しぶりだね。お姉ちゃんの手当」
「そう?」
8年後のあたしは、彼女と一緒に住んでいないってこと? 確かにさっき東京に住んでいると言ったね。ならあたしはどこに?
「よし、完了」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「一応ちょっと訊くけど、8年後のあたしはどこに住んでいるの?」
「え? そ、それは……」
あたしのこの質問を聞いてなぜか彼女は戸惑って、言いづらそう。
「いや、今のは無しだ。別にまだ『あなたが未来から来た』っていう話を信じたわけじゃないから」
そうだよね。このような質問は、彼女が本当に未来から来たという前提だ。実際にこれはまだただ彼女の主張しかない。
「どうしたら私の言ったことを信じるの? お姉ちゃん」
「そうね。なら例えば何か証拠とかある?」
「証拠か……、そうね。あ、写真とかどう? 確かに私のスマホの中にあるよ」
そう言って、彼女はスマホを取り出して、何か調べ始めた。このスマホは、なんかあまりあたしの知っている今のスマホとは変わらないよね。もし未来から来たことは本当だとしたら、もっと先端技術なものを持つかと期待していたのに。まあ、未来とはいってもただ8年だから、そんなに変わらないのも当然か。
「ほら、これは2013年の春休みの時、3人で温泉旅行に行った時の写真だよ。懐かしい」
「え? そんな……」
そういえば、今年の春休みあたしたち3人姉弟で県内有名な伊香保温泉に行ってきた。なぜ彼女はあの時の写真を持っているの? いや、それより何かおかしい。この写真の中にあたしと水澄の姿が写っているけど、もう一人は……。
「確かに、これはあたしと水澄だ。でもこの女の子は誰?」
そうだ。小学生や中学生くらいの可愛い女の子が写っている。身長はあたしより低いけど多分150センチ以上ある。知らない顔だ。でもどこかで見たことがあるような……。実は訊くまでもなく、彼女の答えはあたしがすでに察した。
「これは私だよ」
予想通りの答えだな。今あたしはどう反応したらいいかわからない。確かにあの時一緒に行ったのはあたしと弟たちだった。つまり女1人と男2人。でもここに写っているのは、女2人と男1人。
「こんな小さい子が? どう見ても全然違うでしょう」
「あの時はまだ12歳だから当たり前だよ。今の私は169センチ。ちょっと身長伸びすぎちゃったよね」
「……」
やっぱり彼女自身だと主張しているね。この写真の中の女の子は幼くて小さかったけど、今の彼女はあたしと水澄より背が高い。それにいろんなところは意外と成長しているようだし。発育がよすぎないか。
それより、やっぱり今の彼女より写真の中の彼女は更に今の似海と似ている。女の子っぽく髪が長くて愛嬌あるけど、顔とかは大体同じ。身長も同じくらいだ。年齢が同じくらいだったら違うのはただ性別だけになるから、比べやすくなってきた。
「お姉ちゃん、あの温泉旅行。覚えているはずだよね? お姉ちゃんにとってまだ半年前のことだから」
「まあ……」
もちろん、温泉旅行のことは合っている。でもこの女の子のことをあたしが知らない。確かにこれは8年前の彼女だと言ったら納得いけるかもだけど。
「ちょっと待ってね」
あたしは自分のパソコンの中の写真を調べてみている。あの時の写真なら確かにパソコンに保存しているはずだ。
「やっぱり、この写真と似ている」
「ほー、これは私なの? 本当に男の子だね」
今パソコンの画面に写っているのは、彼女の見せたスマホの写真と似ている写真だ。でも一つ違うのは、写っている人物の一人。もちろん、女の子ではなく、男の子だ。最初からそうだったし。あたしのパソコンの写真だから、当然知ってるよ。勝手に女の子になることなんてないはずよ。
「まあ、この子は似海だよ。あたしの弟よ」
「やっぱり同じ写真だよ。なんで私が男の子になっているかわからないけど」
「あたしから見れば『どうして弟の代わりに知らない女の子が写っているのか』疑問だけどね」
「で、これで信じてもらえる?」
「いや、まさかこれは合成写真。似海の代わりに女の子の写真を」
「そんなこと、簡単にできることじゃないはずだよ」
「でも、8年後の技術ならできるかもしれないよね?」
この世界の科学の発達は絶対舐められないものだね。
「そうね。最近のスマホのアプリとかで、確かに人工知能を使って写真の中の人の性別や年齢を変えたりできるようだ。私もこのアプリで自分の写真を男に変えてみたことがあるよ。意外といける」
「人工知能? やっぱり、合成写真だな」
よくわからないけど、どうやら未来の世界では今より合成写真が簡単にできるようになるみたいね。
「でもそれって、つまりお姉ちゃんは『私が未来から来た』ってこと、信じてくれたの?」
「うっ……それは」
自分で言って結局矛盾してしまった。
「なら、なんで性別が違うの? 説明できる?」
これがまだ説明できない限り、簡単に信じることはできないだろう。
「それは、わからないよ。私もびっくりしたよ。なぜこっちの私は男の子? まだ信じられない」
「自分でもわからないのに、あたしに信じろって言うの?」
ご都合主義か? やっぱりどう考えても怪しい。虫がよすぎるよ。
「でも、実際にお姉ちゃんとお兄ちゃんのことは私の知っているのと一致しているよ」
「だけどあたしの知っている似海は……」
思いっきり『別人だ』とは言いたいけど、確かにいろいろ一致している。性別以外はね。
「じゃ、私を私に会わせてよ」
「それは……、でも似海が多分今まだ学校」
「そうだよね。でも大丈夫。もし今は8年前のあの日だったら、今の時間私が学校から戻ってくるところだ、ちょうど今」
彼女は部屋の壁に掲げてある時計を調べながらそう言った。
「は? そこまでわかるの? 信じられない」
たとえ自分のことだとしても、彼女にとってこれはもう8年前のことだよ。正確に時間を覚えるはずがない。こんな些細なことまで知ったら、むしろわざとっぽくて怪しい。
「もちろん、今日は私にとって絶対忘れられない日だったから。たとえ忘れたくてもね」
「どういう意味?」
彼女は今すごく悲しそうな顔をしている。まさか今日何か起きるというの?
「お姉ちゃん!」
その時子供の声が……ううん、言うまでもなく、これはあたしの弟、似海の声だ。そしてこの部屋に向かってきている。
本当に今この時、彼が家に戻ってきた。