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5 ˇ うちのお兄ちゃんはこんなにちっちゃくなかったはず

 「着いたよ」


 似海(にうみ)(と名乗る怪しい女)とお(しゃべ)りしながらしばらく歩いていたら、やっとあたしの家に着いた。


 「わー、すごく懐かしい」


 家を見た途端、彼女は懐かしそうな顔をして嬉しそうな声で感嘆した。


 「中学卒業した後、私が東京の高校に通うことになって、大学も東京で。もう群馬県にいないからね。このアパートももう他の人のものになっちゃった」

 「そうか」


 大学に通うなら、やっぱり東京が一番だろうね。ずっと群馬県にいるわけにはいかないよね。あたしも実は東京の大学を目指している。


 そういえば8年後のあたしってどうなるのかな? 本当に医者になることができた? ちょっと彼女に訊いてみてもいいかな? いや、別に彼女が未来人って話はまだ真実だとは……。


 それにそんなこと知っててどうする? もし夢が叶わないと言われたら、あたしは(あきら)めたりするの? そんなことはないはずよ。あたしの未来はこれから自分で決めるのだから。


 「ただいま!」


 家の中に入ってきたら、彼女は(はしゃ)いで嬉しそうに『ただいま』を言った。どうやらすでにここが自分の家みたいに振る舞っているね。


 「姉貴(あねき)、帰ってきたか」


 あたしたちが入ってきたら、ある普通の黒髪の男の子が居間に立っている。背はあたしより少し高い。彼はあたしの弟……箱夜見(はこよみ)水澄(みずみ)だ。この子はあたしと同じ高校に通っているけど、今日あたしはいろいろあって遅かったから、彼は先に帰ってきた。


 「うん、ただいま、水澄。今日いろいろあってちょっと遅いけどね」

 「それより、このお姉さんは?」


 彼女を見た途端、水澄は不思議そうな顔をしてすぐあたしに訊いた。これは予想通りの反応だな。


 「この人は、えーと……」

 「お兄ちゃん……」


 どう紹介したらいいか迷っている間に、彼女が先に声を出した。


 「え? オニイチャン?」

 「本当に水澄お兄ちゃんだね? でもなんかちょっとちっちゃくない? もしかして今私の方が背高い?」


 そう言いながら彼女は水澄に接近して背比べをしてみた。


 「あ、本当だ。ちっちゃいお兄ちゃんだ。うふふ。なんか変な感じ」


 確かに水澄より彼女は少し背が高いみたいね。でも水澄はまだ成長の途中だ。最近あたしの身長に追いついたばかり。来年や再来年170センチになってもおかしくない。


 「あの、『ちっちゃい』って? それに『お兄ちゃん』って……」


 水澄は、いきなり知らない年上の女(・・・・)に『お兄ちゃん』と呼ばれたら困惑するよね。気持ちはわかるよ。あたしもさっき同じだったから。


 「私はお兄ちゃんの妹だよ」

 「妹? いや、でも……」

 「信じてくれないの?」


 そう言いながら彼女が水澄に抱きついた。


 「え!? な、何をしてるんですか? お姉さん……」


 この人、女のあたしならともかく、いきなり男の子に抱きつくなんて。確かに兄妹だったらおかしくないけど、いきなり妹だと言ってもね。今の水澄はただいきなり知らないお姉さん(・・・・・・・)に抱かれて動揺しながら幸せ(?)になっている男の子だ。


 「敬語は()めてよ。お兄ちゃん」

 「いや、だからなんで俺が『お兄ちゃん』ですか?」

 「私は未来から来た妹だよ。似海(にうみ)だよ」

 「は? 未来? 似海って? いや、でも……」

 「おい! 勝手に話を進めるな」


 話の順番はなんか目茶苦茶(めちゃくちゃ)だ。今いきなりそう言われてもすぐ飲み込めるわけがないわよ。きっと水澄は何が何だかさっぱり把握(はあく)できなくて戸惑(ともど)っているんだろうね。あたしも事情をよく理解しているわけではないから、今説明なんてできないし。


 「あなたは今まずあたしの部屋に来て。早く手当(てあて)しないとね」

 「え? わかった」


 ちょっと残念そうな顔をしながらもちゃんと言うこと聞いてくれたようだ。


 「彼女は、怪我(けが)をしたの?」

 「うん、この人はあたしをトラックから救ったけど、怪我をしたから家に連れてきて手当するの」

 「『トラック』って? 何か起きたの?」

 「簡単に言うと、彼女はちょっと変人かもだけど、あたしの命の恩人よ。詳しい話は後だ。今あたしは彼女と2人きりで話したい」

 「わかった……けど、このお姉さんは……」


 そういえば、彼女はまだ水澄にくっついているね。さっきからずっとそのままだ。まったく……。


 「さっさと水澄を解放しなさい! 早くあたしの部屋に!」

 「うん、わかった。お姉ちゃん」


 名残惜(なごりお)しそうな声をあげながらも、やっと彼女は水澄から離れた。


 「さっき姉貴のことを『お姉ちゃん』って?」


 彼女のその呼び方を聞いて、水澄はまた疑った。


 「水澄、今はまだ何も訊かないで欲しい。いろいろややこしくなるから」

 「そうか。わかった」


 いろいろ言いたいことがあるけど、今あたしも頭の整理が必要だ。


 「じゃね。ちっちゃいお兄ちゃん」

 「また俺をそんな呼び方……」


この人、全然事情を説明せずにすでに『妹』気取りだ。しかも勝手に『ちっちゃいお兄ちゃん』って呼んでいるし。なんか自分が水澄より大きいっていうことを随分喜んでるんだね。


 「水澄との話はもういいから! あなたは早くこっちに来て!」

 「うん、わかった」


 でも、あたしに会った時になんで『ちっちゃいお姉ちゃん』とか言わなかった? この微妙な扱いの違いはなんか……。ううん、気にしなくてもいいかも。


 もう本当にややこしいわよね。今日は本当にいろいろあって、しかも多分まだ簡単に終わりに向かう気配はない。もしかしてこれはただの何かの始まりかもしれないね。


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