表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

4 ˇ 妹が男の子だったら、もしかしてお兄ちゃんは女の子?

 「ね、もしかしてあなたは性転換(・・・)でもしたのですか?」


 アパートに向かう途中、あたしが似海(にうみ)(と名乗っているおかしなお姉さん)にちょっとおかしな質問をしてみた。


 「え!? お姉ちゃんなんでいきなり? そんなわけないだろう!」

 「だってあなたは自分が似海だと主張しようとしていますね。でも実際にうちの似海は間違いなく男の子ですよ」


 似海は弟だから当然男の子だ。あたしには妹なんていない。うちではあたし以外みんな男の子だ。


 「そんなはずがないと思うよ。これは絶対何かの間違いよ」

 「だからもしあなたが未来の似海なら、やっぱり性転換とかしたというとこですね?」

 「そんなことはないよ! 私は生まれた時から女の子だよ」


 どうやらアニメや漫画でよくある『朝起きたら女の子になっちゃった』ってやつではないみたいね。


 「じゃ、似海は今まで男装してあたしを(だま)していたとか?」

 「いや、それも違うし。私は普通の女の子として育ってきたよ。男装なんてしたことないよ」

 「だろうね」


 確かに似海は女の子っぽいところもあるけど、れっきとした正真正銘男の子だ。そしてこの人はどう見ても本物の女にしか見えない。『性転換してきた元男』っていう感じでもない。


 ちなみに、似海の『生まれたままの姿』はもちろんあたしが見たことあるよ。だから似海は男の子だとはっきりとわかっている。あ、一応言っておくけど、別に見たくて見たわけじゃないんだからね。自分の弟だから。


 「あの、それならお兄ちゃんはどうなの?」

 「お兄ちゃんって?」

 「水澄(みずみ)お兄ちゃんだよ」


 水澄って、あたしのもう一人の弟だ。年齢はあたしより一つ下で、今は16歳。だから似海の兄だ。確かに似海は水澄のことを『お兄ちゃん』って呼んでいるね。


 「水澄のことまで調べてたんですか?」

 「違うよ! お兄ちゃんのことだからもちろん私は知ってるよ。妹だから」

 「まあ、こういう設定ですよね」

 「設定じゃないよ! 私は本当にお姉ちゃんとお兄ちゃんの妹だよ。ね、もしかして私と逆に、お兄ちゃんは女の子になってるとか?」

 「は? そんなことあるわけないでしょう! うちの水澄も似海も二人とも男の子です。弟ですよ」

 「よかった。もしかしてお兄ちゃんまで変わってしまったかと思ったら……」

 「勝手にあたしの弟たちを『性転換』にするな! ……しないでください!」


 この人の所為(せい)で、今あの2人の女装姿があたしの頭の中に浮かんでしまった。不覚だ。まだ中学生でショタっ子の似海ならともかく、女装がいけるかも。でも水澄は今もう高校生で、身長があたしより高くなったし。変声期も過ぎて、とっくにショタっ子から卒業したよ。


 「お姉ちゃんったら、やっぱり敬語は無理しているよね?」

 「そ、それは……。だってあなたは……」


 確かにこの人の仕草(しぐさ)は子供っぽすぎて、敬語を使う気がなくなってきた。だからあたしは時々ついタメ口になっている。でも一応年上だし。それに、タメ口にしたらまるで『彼女が本当に妹』だと認めたみたいじゃないか。


 「お姉ちゃん、お願いだから。敬語は()めて。それに『あなた』ではなく、いつもみたいに『お前』って呼んでいいよ」

 「でも……」


 確かにあたしは弟たちに対して『お前』呼ばわりだ。たとえ似海が妹でも、その呼び方は変わらないかも。


 「妹のお願いだから」

 「いや、まだ妹だと認めたわけじゃないからね。でもまあ、わかったわ。あたしも別に敬語を使うの好きじゃないんだから」

 「やった! よかった」


 なんか嬉しそう。彼女の思い通りになったね。ちょっと不本意だけど、もうこの設定でいいか。


 「それに確かに頭おかしい人には、敬語なんか要らないはずだよね」

 「お姉ちゃん、なんか言い方は(ひど)いよ! 私はそんなにおかしく見えるの?」

 「普通の大学生なら年下の高校生に『お姉ちゃん』と呼ばないはずよ」

 「やっぱりまだ私が嘘だと思っているのね。ね、もし私の言ったことが嘘だとしたら、私は何のためにお姉ちゃんの妹のフリをすると言うの?」

 「それは……」


 そういえばそうだよね。あたしみたいな貧乏な高校生の妹だと名乗ってなんのメリットがあるの? 全然理由は思いつかない。


 「わからないけど、絶対何か企んでいるはずよ! とにかくあたしは絶対あなたの思い通りにさせないからね」

 「そこまで否定されると、心外だな。まあ、でもお姉ちゃんらしいね。警戒心が強くて、簡単に納得できないよね。そういえば昔私が悪い大人に(だま)されそうになった時、お姉ちゃんは私を助けてくれたね……」


 またあたしのことをよく知っているような言い方だな。こんな茶番はいつまでも続く気か?


 でも実際に彼女はあたしのこといろいろ知っている。さすがあたしの妹になりすまそうとしている人だ。


 結局のところ、あたしはどんな態度を取るべき? 彼女は一体何者? 本当にあたしの妹なの? 仮にもし本当だとしたらあたしに他人行儀されたら辛いはずだよね。そう考えてしまったら、あたし……。


 まだ信じていないけど、やっぱり冷たい態度は控えた方がいい気がする。今あたしは本当にそう思ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ