表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

3 ˇ うちの弟がこんな美人のお姉さんになるわけがない

 「そんな……。あなたは似海(にうみ)だと?」

 「そうだよ。私は似海、雪未(ゆきみ)お姉ちゃんの妹だよ」


 突然現れた年上(・・)のお姉さんは、あたしの()だと名乗っている。


 「いや、いきなりそう言われてもね」

 「あ、そうだよね。本来なら今2013年の時点で私が13歳だったよね。でも本当に私は似海だよ。妹だよ。もう21歳になったけど」

 「……」


 彼女はさっきからべらべら(しゃべ)って勝手に話を進めているけど。


 「えーと、あなたは本当に似海?」

 「そうだよ」

 「まだ中学生で小さかった似海が?」

 「うん、間違いないよ。8年経ったから私はもう大学生だよ。ちょっと成長しすぎたかもしれないけど」

 「そうか」

 「やっと信じてくれた?」

 「いや、信じるわけがないでしょう! こんな巫山戯(ふざけ)たことは!」


 確かにもしタイムスリップのことは事実だとしたら、8年後ってことは、13歳は21歳になるのよね。それは合理的かもしれない……と、つい納得してしまいそうになっただけど、やっぱりなんか違う。


 「そ、そんな……」

 「これは一体何の冗談ですか? お姉さん(・・・・)!」

 「え!? ()めて! そんな呼び方、私の方が妹なのに」


 あたしにそう呼ばれたら彼女はすごく恥ずかしそうに身悶(みもだ)えた。なんか大袈裟(おおげさ)な反応だな。


 「年上の妹(・・・・)なんて頭おかしいわよ!」

 「だって私は未来から来たんだから、仕方ないでしょう。体はそのままで、13歳に戻ってないもん」

 「タイムスリップとか、そんな突拍子(とっぴょうし)もない話は信じられないわよ」

 「私だって、最初はあり得ないと思っていたよ。どうして自分がいきなりこの時代にタイムスリップしてきたかわからないの。でも間違いなくここは2013年だよね? だから8年前だ」


 8年後……つまり彼女は2021年からやってきたって言うの? そんな設定はなんか……。ならあたしが25歳なの? あの時あたしが何をしているのかな? 自分の望んだ通り医者(・・)になれている? いや、そんな今とは関係ないし。そもそも未来から来たことはどうせ出鱈目(だたらめ)だよ。


 「嘘下手(へた)ですね。何を企んでいるんですか?」

 「違うよ。嘘じゃないよ。私は本当に8年後の似海(にうみ)だよ」

 「たとえ8年経っても、あの子はこんな美人(・・)になるはずがありません」


 この女はなんか頭おかしそうだけど、見た目だけ見れば美人のお姉さんだ。悔しいけど、あたしより大人っぽくて魅力的かも。なのになんか『残念』って感じね。


 「何? その言い方。お姉ちゃん(ひど)いよ!」

 「今は褒めているつもりですけど!?」


 この人、なんで『美人』だと言われて(かえ)って不満なの? やっぱり変な人だよ。


 「それってつまり13歳の私が可愛くないの!? (みにく)()って言うの?」


 気になるのはそっちか。


 「いや、それは……確かに可愛いよ。うちの()はね……」


 そうだよ。あたしの下の()、似海は可愛い男の子(・・・)だ。自慢の()だ。


 「だったら……、あれ? 今『()』って言った?」

 「そうですよ。うちには似海という13歳の子がいるけど、男の子(・・・)です」

 「へぇ!? そんなの嘘よ」


 彼女はあたしのこの返事を聞いてなぜか随分ショックを受けたようだ。


 「私は女だよ?」

 「そんなの見ればわかるわよ。でもうちの似海は男の子だ」


 こんな綺麗なお姉さんは男であるわけがないでしょう。


 「なんでここの私は男の子なの?」

 「知るか! そもそもあたしには妹なんていないわよ。家族は弟しかいない」

 「私、本当にお姉ちゃんの妹だよ」

 「あたしはあなたのことなんか全然知らない。年上の妹なんて困るわよ!」


 それに年齢の問題よりも、まず性別の問題だよ。そもそも男の子の似海はたとえ8年経っても女になるわけがないよね。性別が違う時点でもう話にならない。


 「そ、そんなはずが……。なんで? どうしてこうなるの?」


 あたしにそう言われて、彼女は今すごく困惑しているようだ。あたしが言いすぎたかも。


 「ごめん。その……、とりあえず落ち着きなさい。……落ち着いてください」


 いつの間にかついタメ口になっているけど、やっぱり敬語に戻った方がいいよね。


 「別に私に敬語を使わなくても」

 「でも、あなたは年上なんだから」


 さっき彼女自身も言ったね。自分が21歳だって。見た目通りだ。ならあたしより4つ上だ。


 「でも私はお姉ちゃんの妹よ……」

 「またそんなこと……」


 このお姉さん、こんなにあたしの妹になりたいの? 年上だから、()だったらともかく……いや、こんな頭おかしい姉は要らないわね。


 「やっぱり、どうしても信じてくれないの? ……痛っ!」

 「え?」


 話の途中でいきなり彼女は震えるような声で痛そうに悲鳴をあげた。


 「その手は……」


 彼女の手首は……。まさかさっきあたしを助けた時に何かとぶつかったの? さっきまで気づかなかったけど、彼女のこの手首はなんか痛そうだ。骨折や出血はないようだけど、やっぱり早く手当しないとね。


 「とりあえず、あたしの家に行ってください。手当しますよ」


 怪しいやつを家に連れていくのはなんか危険かもしれないけど、彼女は悪い人には見えない。ちょっと頭おかしいだけだ。それに彼女が怪我(けが)をしたのはあたしの所為(せい)だから。一応あたしの命を救った恩人だ。どんな人であろうと、見捨てるわけにはいかないよね。


 「ありがとう。お姉ちゃん」


 また『お姉ちゃん』か。もうツッコミなんかはしないぞ。あたしは疲れたから。


 「……とにかくこっちです」

 「そうね。まあ、もちろん知ってるよ。自分の昔住んでいた家だから」

 「え?」

 「今お姉ちゃんが住んでいるアパートなら、私が中学卒業まで住んでいたよ」


 そういえば彼女が本当に似海だったら、もちろん家のことは知っていてもおかしくない。あたしと弟たち(・・・)今まで3人で一緒にあの小さなアパートに住んでいた。両親が亡くなった時からね……。


 「そんなことより、行きましょう。この怪我はやっぱり放っておけません」

 「うん、さすがお姉ちゃん、あの時から本当に医者(・・)って感じね」

 「まあ、え? なんでそんなこと……?」

 「お姉ちゃんのことだから当然私も知ってるよ。正義感が強くて、人を助けるために医者になりたいって言ったね? 私まだちゃんと覚えてるよ。そんなお姉ちゃん大好き」

 「……」


 あたしが医者になりたいという話はもちろん似海なら知っている。やっぱり彼女は本当に似海なの? まだあまり信じたくないけれど。でもこれだけではまだそこまで信じるほどの根拠にはならないよね。


 今わからないこと多すぎる。とりあえず、まだもっともっと話す必要があるみたいね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ