2 ˇ 別れが突然であれば、出会いも
「ごめんね。見未ちゃん、やっぱり俺の好きな人は彼女だ。だから……」
「な、何それ!?」
「本当にすまない。許してくれ。まだ友達で……」
「許すわけないでしょう! この裏切り者。消え去れ!」
2013年11月のある日。彼氏と別れた。
あたし、箱夜見雪未はただどこにでもいるような普通の女子高校2年生で、今17歳、身長161センチ、体重は秘密。好きな食べ物はメロンパン。埼玉県生まれ、群馬県育ち。両親は亡くなったので、今弟2人と一緒に3人で暮らしている。
弟たちのお世話をしていながら、アルバイトもしている。こういう学校生活は結構大変だけど、あたしは自分なりに頑張って青春らしく過ごしてきたよ。そして今年、恋もして彼氏ができてラブラブだった。……今日まではね。
彼は高校1年の時からのクラスメートで、かっこよくて優しい人だ……と思っていた。なのにいきなり浮気されちゃった。いや、これは浮気とはちょっと違うかもね。ただ『もっと好きな人ができた。別れよう』と、馬鹿正直に言われただけだ。確かにこっそり二股されることよりまだましかもしれないけど、どっちも最悪だ。そんなこと堂々と言っても許せるわけないわよ。
確かにあたしがいつも忙しくて一緒にいる時間があまりできない所為でもあるかもしれないけど、本当の恋ならこれくらいわかってくれるはずだよね? だからこんなやつはもういい!
あいつの名前は? そんなの、もうすでに忘れたわ。ただ『元彼のOくん』だ。いや、ただクラスメート……ううん、それ以下だ。よし、ただ『モブのOくん』と呼ぼう。
やっぱり高校で恋愛なんてアニメや漫画の世界だけだよ。人生はそう上手く行かないはずよね。
今は放課後で、あたしは学校から家に帰る途中だ。でもさっきまでずっと考え事ばかりしてあまり道に集中できない。
駄目だよ。あの馬鹿のことなんてもうさっさと忘れて……。
あれ? 視界がぼかして……。あたしいつの間にか涙を流した? そんな……。
「あ!」
あたし、今道路の真ん中に? いつの間に? さっきぼーっとしていたから、気づかないうちに……。
そしてこっちにトラックが走ってきた。逃げたくてもどうやらもう遅い。
そんな……、あたしこのまま異世界に行くの? こんなあっさりと? それはいいかもしれないね。あっちで冒険していい出会いができるかもしれない。剣と魔法の世界だったらいいかもね。魔法とかも使いたい。いや、魔法よりも錬金術の方が興味深いかも。
水澄、似海、ごめんね。お姉ちゃんはここまでだ。これから2人で頑張ってね……。いきなり弟たちの名前が頭に浮かんできた。
トラックとぶつかるまでただ一瞬の時間であるはずなのに、あたしはこんなに長く物事を語ったり回想したりする余裕があるの? これはアニメや映画でよくある『走馬灯』みたいなものだね。なぜか時間の流れはやけに遅く感じる。いつ終わるの?
いやいや、そんなことあるわけないでしょう! やっぱりあたしはここでやりたいことが残っている。このまま終わりだなんて……。
「お姉ちゃん! 私、助けに来たよ!」
えっ!? 今のは女の声だ。その声が聞こえた同時にあたしは誰かの柔らかい体とぶつかって、地面に倒れた。なんか痛いけどそれだけで済んだみたい。トラックは、どんどん去っていく。どうやらあたしが救われたようだ。
「よかった。お姉ちゃん無事? 本当に私がお姉ちゃんを救えたね!」
「あの……」
女の人があたしを抱き締めて泣いている。彼女はさっきあたしに声をかけてきた人だ。そしてあたしをトラックから救ったのも彼女だった。
てか『お姉ちゃん』ってあたしのこと? でもあたしを抱いている女性はどう見てもあたしより年上だ。身長もあたしより高いし、スタイルもいいし。体の曲線やあるところの膨らみも……。全然子供ではない。多分大学生くらいかな? だからそう呼ばれるとなんか変だ。
「あの……。助けてくださって、本当にありがとうございます」
確かに変な人だ。何者かまだわからないけど、とりあえず彼女はあたしの命の恩人だ。少なくともちゃんとお礼をしないとね。
「ううん、お姉ちゃんが無事でいてくれてよかった。ありがとう」
「あの……『お姉ちゃん』って、あたしのことですか?」
やっぱり気の所為でも聞き間違いでもない。さっきから彼女は本当にずっとあたしのことを『お姉ちゃん』って呼んでいる。何か人違いだろう。
「そうだよ。お姉ちゃん。私の大事なお姉ちゃん」
「いや、大変申し訳ありませんが、きっと人違いですよ」
「間違いないよ。お姉ちゃん……箱夜見雪未だよね? 17歳で高校2年生。メロンパン大好き」
「……はい。その通りですが」
あたしの名前だ。年齢も好きなものも合っている。どうやら人違いってわけではないみたい。でもあたしはこの人のことなんて全然見覚えがない。彼女に『お姉ちゃん』と呼ばれる筋合いもないはずだと思うけど。
「やっぱりお姉ちゃんだ。そんなの当たり前だよね。たとえ8年経ってもお姉ちゃんのこと私は間違えるはずがないの」
「8年?」
どういうこと? 彼女はさっきから全然わけわからないことばかり……。
「あ、いきなりわからないよね? ごめん、説明しないとね。私だよ。似海だ。実は私がお姉ちゃんを救うために8年後の未来からタイムスリップしてこの時代にやってきた、お姉ちゃんの妹だよ」
「へぇ!?」
これはなんか突然の出会いだった。まだ頭は追いついていないけれど、どうやらいきなりあたしに年上の妹が舞い降りてきたようだ。
そしてこれは全ての始まりとなった。