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17 ˇ せっかく取り戻した笑顔だから守っていきたい

 「またお姉ちゃんと2人きりね」

 「そうね」


 買い物のためにあたしと大きい似海(にうみ)2人で出かけている。今は店に歩く途中だ。


 「お前、あの2人とも随分仲良くなってきたね」

 「もちろん、お兄ちゃんともう一人の私だから」

 「あっさりと受け入れられるね。『もう一人の自分』って」


 彼女にとって水澄(みずみ)やあたしは元から家族だからすぐ馴染むのは当然だけど、小さい似海は恐らく別の話だろう。


 大きい似海にとって、そもそもあの子は今まだまったく知らなかった存在だ。そして何より、自分の代わりに、自分のいるはずの場所に立っている。もし悪い方向に考えれば、仲良くなるというより、ライバル認識してしまう可能性もあるだろう。


 「あの子も私だよ。自分自身だから、仲良くならないとどうするの?」

 「本当にそう考えられるのなら助かったけど」


 どうやらこいつは天然(てんねん)であまり深く考えていないようでよかったかも。


 「それに、もう一人の自分と会えるなんて、滅多(めった)にない経験だよね。しかも性別違うなんて尚更(なおさら)だ」

 「確かにそうかもね」


 普通の人ならこんなに楽観的に考えられるだろうか? でもさすが似海かもね。


 似海は姉弟の中で末っ子だから、あまり何も考えずに気楽で生きてきた。何もかもいつもあたしと水澄はちゃんとお世話しているから。それに両親はこの子が物心つく前から亡くなっているから、誰か失ったという辛い思い出なんてない。だから笑っていられる。


 「私、やっぱりあの子の笑顔を守れて本当によかった」

 「え?」

 「だってお姉ちゃんを失った後、私はもうその笑顔を失ってしまったから」

 「失ったって? お前が? 全然そうは見えないわよ。今お前もすごく元気に見えるのではないか? 今日のお前の笑顔も、その……とても素敵だよ」

 「そうなの? 今の私は本当にそう見えるのか?」


 あたしにそう言われて、彼女はちょっと嬉しそうにはにかんだ。


 「そうだよ。自覚ないのか?」

 「よかった。ということは、少なくとも私はあの時の笑顔を取り戻せたね」

 「取り戻せたって?」


 いつもなら今とは違うって言うの?


 「今日私は久しぶりにこんなに元気で笑って、こんなに幸せに過ごせた。お姉ちゃんのおかげだよ」

 「あたしのおかげ?」

 「ここでお姉ちゃんと再会できて、あの事故から救えたことで、私は元の自分を取り戻したよ」

 「それって……」

 「今の私は、まるで8年前の私に戻ったみたいな感じだよ」


 つまりあっちの世界であたしが死んだ後、似海の人生は一変したっていうことか。それはそうだろう。似海はこうやって前向きで呑気(のんき)な性格でいられるのは、『まだ辛い思い出がない』というのは大事な要因だと考えられる。


 この8年間の似海はどう過ごしていたのか? あまり想像しがたい。やっぱりいっぱい辛い想いさせてしまったね。あたしの所為(せい)で。


 「でも、あの時『失った』という思い出は消えているわけじゃないだろう?」

 「そうだよね。仕方ないよ。それでも今ここでお姉ちゃんとお兄ちゃんと再会できたのは私の救いだよ」

 「そうか」


 彼女はあたしのことをこんなに大切に思っているのね。


 「だからこそ私は絶対帰らない。お姉ちゃんもお兄ちゃんもいない世界なんて……」

 「似海……」


 確かに今彼女はあたしと会えて幸せになっている。でも今このまま未来へ帰ったらまた幸せを失うということになるだろうね。


 「それに、やっぱりもう一人の私を見守っていきたい」

 「小さい似海を?」

 「うん、『私じゃない私』、まだ笑顔を失っていない私は、これからの人生どうなるのか気になるよね。このまま笑顔でいて幸せになって欲しい」

 「お前、そこまで……」


 彼女はいつも呑気(のんき)で何も考えていないと思っていた。でも全然違う。自分だけでなく、もう一人の自分のことまで心配してくれた。


 「でも、やっぱり……」


 そこまで言って彼女の目は(うるお)んできて、歩いている足は止まった。


 「似海……」

 「すごく(うらや)ましいよ。なんであの子ばっかりなの? 私だって……」


 もう目から涙が(あふ)れ出てきた。彼女は今(たたず)んで泣いている。本当は羨ましくて仕方ないよね。


 同じ自分なのに、自分じゃない自分が自分より幸せになるのは、なんか不公平を感じただろう。


 あたし、今どうしたらいい? 今のあたしは彼女に何かしてあげられる?


 やっぱりこのままでは、まだ彼女の本当の救いにはなっていない。これからももっと何かしてあげないといけないみたいね。


 これから彼女の心を救うのは、彼女に命を救われたあたしの役目だ。そんな気がする。


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