15 ˇ べ、別に特に美味しいわけじゃないんだからね
「美味しい! 似海ちゃん最高。ね、似海」
「うん、そうだよね。お兄ちゃん。似海姉の料理は本当に美味しい!」
大きい似海の作ったご飯を口にしたら、2人は絶賛した。
ちなみに、大きい似海への呼び方は水澄からは『似海ちゃん』、小さい似海からは『似海姉』になっているようだ。なんか微妙ね。
「お兄ちゃんも似海くんも、こんなに喜んでくれて私も嬉しい」
確かに彼女の料理を食って2人はこんな大袈裟に褒め称えたけど……。
「いや、別にあたしは普通だと思うけど」
ぶっちゃけこれは普通だよ。普通に問題なく食べられるほどだけど、特に美味しいわけじゃない。大体これはあたしの作った料理とどこが違うの?
もしかして、ただ『美人のお姉さんの作った料理』だから価値が上昇して問答無用で特別に美味しいということになるだけだよね? これだから男は……。
「お姉ちゃん、私の料理、口に合わないの?」
「別に駄目って言わないけど、特に美味しいというわけでもないわ」
そんな可愛らしい声で訊いてきても、あたしの出す評価は変わらないよ。この甘っちょろい弟たちと違って、あたしは人を簡単に褒めたりしない。
「こんなに美味しいのに。お姉ちゃん、厳しい」
「そうだよ。姉貴って相変わらず鬼だ」
「……」
お前たち2人ってまったく……。
「じゃ、どんな味なの? あたしがいつも作った料理とは何が違うのか? 気になるから、2人説明してみて」
「え? いきなり訊かれてもね。えーと、やっぱりわからない」
「僕もよく言葉にできないね。とにかく美味しい。解説なんて不要だ」
「……」
全然はっきり説明できないじゃないか。やっぱり男は美人の料理なら何も考えずに、簡単に美味しいという評価を出すのね。
そういえば、あたしの料理をあの『元彼のOくん』が食べたら彼も絶賛したね。でもどこが美味しいか、って訊いてみたら彼の答えはメチャクチャだ。
あ、今あたしついあいつのこと頭に入ってしまった。あれはただのムブだ。『モブのOくん』だよ。大体あたし今日死にかけたのも元はと言えばあいつの所為だ。たとえ明日また学校で会っても話しかけるつもりはない。あんなやつなんか早く忘れないとね。
「じゃ、これから毎日ご飯は彼女に頼んでみたら?」
「これもいいかも」
「うん、毎日似海姉のご飯か。それはいいね」
「……」
おい、お前ら……。
「私でいいなら喜んで」
「「やった!」」
「じゃ、私はこれからみんなにご飯を作るね」
こいつら、なんかむかつくわね! まあ、本人もこれで喜んでるんだからこれでいいだろう。あたしもこれからもうご飯を作らなくてもいいようになるから助かったかも。
それに、あたしだって何の喜びも感じていないわけではない。せっかく妹が作ってくれた料理だから、嬉しいに決まってる。
ただし味のことは別の話だ。『大切な人の作った料理は別段美味しい』とかよく聞いたけど、あたしは基本的に平等で物事を判断するタイプなんだからね。似海の作った料理は本当に普通だよ。
でもこれだけでいい。そもそも似海が料理を作ることなんて想像したことなかった。やればできるようだね。もしかしたら、あっちの世界であたしがいなくなったからいろいろ自分で作れるようになったかも。
「お姉ちゃん、泣いてる?」
「え? あたしが?」
あたしの目に液体が……。そんな……。いつの間にか涙が溢れ出た。
「なんでもないわ。ただ目にゴミが入ってきただけよ」
「いや、どう見ても姉貴今は……」
「うるさいわよ……」
不本意だけど、あたしまた泣いてしまったね。これで今日二度目だ。でも前回とは違って、これは嬉し涙だ。今あたしは感動している。
今日あたしは元々死ぬかと思っていたよね。いきなりトラックに轢かれそうになった時、もう人生の終わりだと悟ってしまって、覚悟をしておいた。だけど結局彼女は現れて、あたしは助かった。こうやって生き延びることができた。そして今こんな風にみんなと晩ご飯を食べて楽しんでいるあたしがいる。
いきなり現れた年上の妹なんて大変困るんだけど、やっぱり本当は幸せだよ。生きていてこうやってみんなと一緒にここにいて夕飯を食べてよかったね。これから先どうなるかわからなくて考えてみたらまだ不安いっぱいだけど。




