14 ˇ お前ら、よくもこんな自己紹介で納得?
「大きい似海、ご飯はどう?」
あたしが大きい似海のいる台所に入ってきた。なんかいい香りだ。今できたのはどうやら本当に問題なく普通に食べられる料理だ。見た目も普通。味の方はまだ確認していないけど。
「うん、ちょうど終わったよ。でもお姉ちゃん、本当にその『大きい』って呼び方採用てるね」
「冗談だと思うの?」
「いや、ただの冗談だったらいいなとは思っている。でもなんかお姉ちゃんらしい」
大きい似海はまだちょっとこの呼び方が不満のようだ。まあ、すぐ慣れるわよ。
「さあ、みんな食堂で待ってるよ。あたしも手伝うわ」
「うん」
「おまたせ。お兄ちゃん。もう一人の私」
「「はい?」」
食堂に入って水澄と小さい似海を見かけたら、大きい似海はテンション上がって2人を呼んだ。この馬鹿! まだ秘密にしておくと言ったのに、そんな呼び方は。
「やっぱり、俺のこと『お兄ちゃん』と呼んでるね」
「あの、『もう一人の僕』って? どういうこと?」
やっぱり、すぐ怪しまれる!
「あのね、2人!」
「お姉ちゃん?」
あたしが慌てて2人に近づいて、小さい声で……
「さっきあたしの言った通り、彼女は頭がおかしいのよ」
「なるほど」
「だからその呼び方はちょっと違和感あるかもしれないけど、気にしないで我慢してて」
「よくわからないけど、姉貴がそう言うのなら」
わかってくれて助かったよ。上の弟よ。
「頭おかしいって? このお姉さんは? 僕はそうとは見えないけど」
「おい!」
下の弟よ。大きい声出したら彼女は聞こえてしまう。なんで今回だけあまり甘くないのよ? まさか直感的に彼女はもう一人の自分だと認識して、認めたら自分も馬鹿だということになるって思っているとか?
「誰が頭おかしいと言った? お姉ちゃん、酷い」
「いや、それはね……」
年上の妹さんよ。なんか笑っているようだけど、目が笑っていないね。あたしがそう言ったのはお前のためだよ。せっかくこんな便利な言い訳を考えてあげたのに……。
「そういえば、まだ自己紹介してないね。私の名前は似海だよ」
大きい似海はあたしを無視して勝手に自己紹介を始めた。
「え? これ、僕の名前ですよ?」
「うん、私たち名前同じだね」
「本当? なんか偶然ですね。だから『もう一人の僕』なの?」
「そう。その通りよ。私は『もう一人の君』だ」
「なるほど、同じ名前なんか嬉しいです」
小さい似海よ。これで納得していいの? まあ、この子はこういう単純な性格だ。この2人は本当に同じ人物だから、すぐ気が合うのもおかしくないよね。
「そうね。あ、敬語使わなくていいよ。似海くん」
「わかった。似海姉」
お互いの呼び方まですでに設定したし! こうやってすぐお互いのことを認めて仲良くなれたのはいいことだけど。
「あの、俺はまだ話に追いついていないけど」
「水澄よ。とりあえず深く考えなくてもいい。この人も似海という名前だから、もう一人の似海だ。わかった?」
あたしは水澄の肩に手を置きながらそう言った。
「えーと、じゃ俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶのもその理由?」
「あ、それは……」
「うん、そうだよ。私も似海だからお兄ちゃんの妹だよ」
あたしの代わりに大きい似海は水澄の質問に答えた。
「いや、でも似海は妹ではなく、弟……。それにお姉さんは女ですし、しかも年上……」
やっぱり、簡単に納得いかないよね。水澄は呑気な似海とは違って、大人らしくちゃんと人を疑う心を持っている。
「年上の妹は嫌なの? お兄ちゃん?」
愛嬌のある声で彼女はそう訊いた。
「い、嫌じゃない。まあ、それも悪くないかも。あはは」
前言撤回。思えもちょろい!
「よかった。お兄ちゃん~」
「水澄、お前なんか顔赤いぞ……」
結局こうなるのよね。まあ、こいつも所詮男だ。いきなり美人のお姉さんに甘えられたら、すぐ警戒心を失って思い通りになるよね。やっぱり我が妹は恐ろしいわね。そして我が弟、お前今なんかちょっとキモいわよ。
「えーと、姉貴にこんな目で見られるのはなんか……」
「え? あたし今どんな顔してるの?」
「いや、何でもない」
つい顔に出たか? まさか『ゴミを見るような目』とか? そこまではないと思うよ? 大切な弟をこんな風に思ってしまったら姉失格ね、あたし。
とりあえず、そのおかげでしばらくこのまま誤魔化せそうだから、これでいいか。
「さあみんな、自己紹介も済んだから、もう晩ご飯食べようよ」
「「「はーい!」」」
なんかへんてこな自己紹介だったけど、ひとまず終わったようだ。2人はもう何も訊いてこないし。
こうやって、この家に面倒なやつがもう一人増えた。やっぱりこの家でまともなのはあたししかいないよね。こいつらにあたしが一緒についていないと絶対駄目だ。




