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11 ˇ 新型ウイルスの所為で医者も大変

 「水澄(みずみ)は……? そんな……。なんで?」


 さっき似海(にうみ)から『あたしが死んでいる』と言われて随分ショックを受けたが、今回『水澄も死んでいる』って。また衝撃的だった。いきなりそんなこと言われてもね……。


 「あの新型(しんがた)ウイルスの所為(せい)だよ」

 「ウイルス?」


 疫病(えきびょう)所為(せい)? 確かにさっき2020年に新型ウイルスが現れたって話をしてたね。まさか……。


 「さっき、水澄は医者になってると言ったよね?」

 「まあ、そうね。医者だからだよ。お姉ちゃんは、いろいろ頑張って無理してたよ」

 「そんな……」


 あたし、今まで考えたこともなかった。医者になるってことはある意味(いのち)()けかもしれないっていう事実は。特にこんなパンデミックが起きてしまった時だ。あたしはただ医者になったら困った人を助けたいとか思っていただけ。自分の成績もきっとなれると思っていたし。


 「お兄ちゃんはね……」

 「もう言わなくてもいい!」


 詳しい事情はどうでもいいよ。むしろ聞きたくない。これが現実だったら知ってもどうしようもないのだから。


 「そうね。そんなことは今のお姉ちゃんには関係ないはずだからね」

 「あたしに関係ないって……」


 確かにそうかもしれないけど、そんな言い方はなんか傷ついちゃうよ。


 「ごめん。でもこれはあっちの話だよ。こっちではお姉ちゃんも、お兄ちゃんも、ちゃんと生きている。そうだろう?」

 「それはわかっているけど」

 「お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと心配だよね?」

 「うん、そんなの当たり前だよ」


 たとえあれは別の世界のことだとしても、やっぱり水澄があたしの弟で、大切な人であるという事実は変わらないよ。


 「とにかく、こういうことだから、私は帰る気なんてないの」

 「そうか。わかった。ここにいて大丈夫よ」


 家族みんな失った世界に戻りたくないというのは当たり前だよね。あたしは知らずにそんなこと言ってしまった。


 「ありがとう。お姉ちゃん。やっぱりここに来てまたお姉ちゃんとお兄ちゃんと再開できて、これは私の救いだよ」


 最初は彼女がただ呑気(のんき)で何も考えない天然(てんねん)だと思っていた。でもそれは全然違う。どうやら実はいろいろ抱え込んで苦しんでいたみたい。とんでもなく辛い人生だ。だからここにいたいと思ってるのね。


 いきなり似海が2人に増えて、あたしはちょっと困るかもしれないけど、別に嫌じゃないよ。家族が増えてむしろ嬉しいかも。


 だったらそれでいいかもね? そうだよね?


 「部屋はやっぱりあたしと一緒にこの部屋でいいか? ちょっと狭くなるかもしれないけど」


 彼女のことはあたしの責任だ。それに女同士だし。さすがに弟たちに任せるわけにはいかないよね。


 「やった! これでお姉ちゃんと一緒だね」


 どうやらとても喜んでくれたようだ。恐らくこれからいろいろ大変なことになるかもしれないけど、やっぱりこれでいい。


 「でも、私の元の部屋も懐かしいかもね」

 「今の似海の部屋のこと? でも現在こっちの似海がいるよ」

 「そうね。あ、でもどっちも私だし。私が私と一緒にってのはどう? いいかも」

 「いやいや、一応性別は違うし! 駄目でしょう」


 同じ人物だと言ってもいいのか? まだ微妙だけどね。とにかく性別が違うというのも事実だから。


 「異性になった自分と一緒に……、なんかいい響きかもね。いいことがあるかも」


 どこがいい響きだよ。姉弟ではない異性の2人が一緒に寝るなんて、悪いことしか……。でもこの2人は姉弟ではないけど、姉弟以上? なんか複雑だ。とにかく駄目だと思う。


 「なんで楽しそうなの? 大体同じ2人は一緒にいて本当に大丈夫なの?」

 「さっきあの子と抱き締めたよ。全然大丈夫みたい」

 「確かにそうだけど。でもやっぱりあたしは……」

 「お姉ちゃん?」

 「あたしは似海と一緒にいたい」


 2人の似海を一緒にいさせたらやばいかもしれないって不安も理由だけど、実はあたしはこの似海と一緒にいたいってのも本音だよ。


 最初は彼女のことを疑って随分警戒していたけど、彼女の事情を聞いたらやっぱり今もう……。むしろ彼女のことをもっと知りたい。一緒にいたい。


 「え? お姉ちゃん、今私のことを名前で呼んだの? 初めてだね」

 「あ、そうか」


 そう言われたらそうね。今あたしは本当に彼女が似海だと認めてしまったからかな。


 「ごめん。でも最初はそう呼ぶことに躊躇(ちゅうちょ)していた」

 「そうか。そうだよね。お姉ちゃんにとって『似海』は私じゃなかったから……。でも今はもういいの?」

 「それともやっぱり他の名前がいい? このままさすがにややこしいから」


 どっちも同じ名前だと呼びづらいよね。


 「ううん、できれば名前を変えたくないよ」

 「そうか」


 自分の名前なのに他に変えなければならないなんて、それはまるで自分の存在が否定されているみたいだね。彼女はそう思っているだろう。だから別に新しい名前を押し付けるわけにはいかない。でも……。


 「とはいっても、完全に同じ呼び方だと不便だよね」

 「まあ、そうだよね。区別が必要ね」

 「そう。だからもう決めた。これからお前は『大きい似海』と呼ぶわよ」

 「え? はい?」


 これで決定だ。これからよろしくね。大きい似海~。


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