10 ˇ お姉ちゃんとお兄ちゃんともう一人の私がいるここ
「帰る方法がわからないって? マジかよ?」
「うん、私はどうやって来たのかな? それすらわからないよ」
似海のその阿呆っぷりを見て、あたしはすごく呆れている。
「じゃ、これからどうするの?」
「あ、そういえば……そうね。どうすれば……」
あたしの質問を受けて、彼女は考え込んで煮え切らないような顔をして……。
「おい、お前まさか……」
「ごめん。実は全然何も考えていないの。えへへ」
テヘペロみたいな顔になった。
「……そう言うだろうと思った」
やっぱり、この人は余程馬鹿だ。本当に似海だな。さすがあの天然な弟と同じ人物。性別と年齢が違うだけで、性質はあれだね。
「なら住む場所が必要だよね? 帰れるまで」
「そうね。いつ帰れるかまだ全然わからないけどね。あはは」
「なんでお前はこんなに平然といられるのよ!?」
いきなり一人で過去にタイムスリップしてきたのよ。そして元の時代に帰れないかもしれないのに。
「だって、私はお姉ちゃんを救うことができたんだから、これで十分じゃないか」
「そんなこと……。自分のこれからの人生は?」
「あ、考えてみると、確かになんかヤバいかもね。そうだよね……。私、これからどうしたらいい?」
「あたしに聞かれても……」
まさかここに来てあたしを助けることしか考えていなかったの?
「そうだ。なら私はここに住んでもいい?」
「はい?」
やっぱりそう来るか。まあ、予想はしていたけどね。
「私はお姉ちゃんの妹だし。ここは私の家でもあるよね」
「確かに……」
今までの話が本当だとしたら、彼女は本当に似海だ。まあ、今更もうほとんど確定だけどね。つまり彼女はあたしの妹? いや、そもそも似海は弟だよ?
「でもここにはすでに似海がいるよ。寝室は3人分だけだし」
「あ、そうだよね。私が突然ここに来たから、やっぱり迷惑だよね」
「いや、そんなことはない。そもそもお前が来なければ、あたしが死んでいるはずだ」
やっぱり放っておくわけにはいかない。彼女はあたしの命の恩人だ。彼女がここに来てしまったのも多分あたしの所為。
「でも、帰る方法を探してみないの?」
まだ探さないのに、最初から諦めるなんて駄目だよね。できるだけ足掻いてみないと。
「そうね。確かに私が帰ったらお姉ちゃんに迷惑かけないよね」
「そこまでは言ってないわよ」
そんな言い方だと、まるであたしがもう命が救われたから、彼女はもうこれで要済みだとか言っているみたいじゃないか。
「もしお前は本当にここにいたいのなら、別にいいと思う」
「じゃ、私はここにいてもいいよね? 時々お姉ちゃんに迷惑かけるかもしれないけど」
自分が迷惑だという自覚あるようだな。ならもっとまともにして欲しい。でもまあ、たとえ迷惑かけられても、やっぱりあたしは彼女をほっぽり出すことなんてできないよ。
「うん、もちろんよ」
「ありがとう」
「でもね……」
彼女がここに住むようになることはもうほとんど決定だな。でもあたしはまだ一つ彼女に訊かなければならないことがある。
「お姉ちゃん?」
「お前、もしかして実は帰りたくないのか?」
今彼女の態度はまるで最初から帰る気はないみたい。まさか本気でこれからずっとあたしとここに住むつもりなのか?
「そうね。考えてみると、今更私はあっちへ帰る理由なんてもうないかもね」
「は? なんで? まさか、あたしがここにいるから?」
確かにたとえこのあたしが生きていても、ただここでの話に過ぎないかも。もし彼女が未来へ帰ってしまったらあそこにはあたしはもういないはずだよね。そうなったら彼女はあたしとはここでお別れだ。
「うん、そうだよ。ここがいい。お姉ちゃんとお兄ちゃんがいて、しかももう一人の私もいて」
「そんな……。あたしのことならともかく、あっちでは水澄がお前を待っているはずだよね。未来の水澄は」
いきなり妹がいなくなったら、水澄は心配するに決まってるよ。たとえ今はもう一緒に住んでいるわけではなくてもだ。
だから帰らないときっとあっちの水澄は寂しいよ。あたしはあっちの水澄のこと知らないけど、やっぱりこっちの水澄と同じ人物であるはずだ。だったらあたしの弟であることに変わりはない。辛い思いさせるわけにはいかない。
「あっちには……、いないよ。お兄ちゃんは。だって、もう……」
「え?」
「もう私一人だよ」
「どういうこと? 水澄は?」
まだ何かあるの? 今の彼女の様子を見れば、なんかまた嫌な予感が……。
「お兄ちゃんももう……」
「水澄は? まさか……。いや、でもさっき写真には……」
あたしと違って、水澄は8年後の世界も生きているはずだ。そうでなければさっきの写真は何なの?
「もちろん、あれは本物よ。だってお兄ちゃん8年後まで生きていた」
未来のことを述べているのに過去形だなんて、日本語おかしいとツッコミしたいけど、今はそんな場合じゃないね。
「え? それって」
「昨日までね」
ここまで言って、彼女の目からまた涙がぽろぽろ零れ落ちてきた。
その時あたしは、彼女がなぜ過去に戻ってきたのか……、なんで8年経って今更なのか……、何となく感づいてしまった気がする。




