沈む
君は死んだ。
僕が殺した。
*
君が嫌いだったわけじゃない。
殺したかったわけでもない。
ただ、とても辛そうな顔をしていた。
だから殺したんだと思う。
*
どうして、そんな顔をするんだ?
──それはね、とても悲しいからだよ
どうして、そんなに悲しいんだ?
──辛いことがあったから
なにが、そんなに辛かった?
──それはね、君が──
ここから先は覚えていない。
思い出そうにも、君は死んだ。
死んでしまったなら、もういいか。
思い出す必要はない。
*
今日は肌寒い。
少しは腐りにくいだろうか。
僕の身体も冷え切っている。
だけど、温もりに包まれている。
ああ、君の身体か。
*
君の声が聞こえる。
幻聴なのはわかっている。
死者は喋らない。
だけど、返事を返してみる。
君には聞こえてないようだ。
*
君の身体は血に濡れている。
僕の身体も血に濡れている。
君の手には血濡れのナイフ。
ナイフ?
なぜ?
僕の手にはナイフが無かった。
僕の意識はそこで消えた。
*
──それはね、君が死んだからだよ