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「そういえば、朱雨のピッキング安定してきたな!」
「ん? ああ、そうだな。あいつも随分練習して来たみたいだよな」
よーし、路線変更完了。このまま続けよう。
「アップダウンがかなり揃ってきたし、あれならソロとかリフなんかも密度上げられるんじゃねぇ?」
「ああ。あの調子なら、音数増えても着いてこられるようになるんじゃないかな」
「ソロのクオリティ上げたいしな。もっとたくさん音楽聴かせて、引き出し増やさねぇと」
「なるほど。あいつ、好きなバンドしか聴かないから」
だから、フレーズのストックが少なくてどれも同じに聴こえるんだな。やっぱインプットは大事だよ。
昨日、朱雨にも長崎さんに師事出来るって話をしたら腰抜かしてた。いいリアクションだ。そこから、あいつのプレイはより気合いの入ったものになった。長崎さんに習うからには、それに相応しい努力をしないとな。
長崎さんは多分、本物の天才だ。一緒にプレイしていてもそれは感じる。直感が凄い。決まりきったフレーズだけじゃなくて、観客の反応を見ながら、その場でプレイをどんどん変えていく。感情をそのままギターに乗せられる人だ。お決まりのフレーズには全く縛られない。かと言って他のパートを置き去りにすることはなくて、バンドとして成立するラインはきっちり守る。あんなことが出来る人は滅多にいない。
そんな天才なんだけど、ものすごく練習が好きだ。恐らく俺以上に。練習が好きっていうか、ギターが人生そのものなんだろう。触らない日は殆どないって言う。
天才が練習してんだから、礼華や朱雨含めて、俺ら凡人が練習しないって選択肢はない。いい刺激になる。
長崎さんのレッスンは、間違いなくうちのツインギターのレベルをハイスピードで引き上げるに違いない。
「長崎さんのレッスンが始まるのが楽しみだな。基礎力も上がるだろうし、長崎さんはめちゃくちゃ音楽知ってっから、勉強になる音源も教えてくれるだろうし」
「ほんとに、長崎さんには頭が上がらないな」
「繋いだ俺には?」
「夕にも頭上がらない」
宵闇の笑い声。楽しそうだ。こいつが楽しそうにしてると、ちょっとほっとする。オンの緊張感ばっかりじゃ、息が詰まっちまうだろうからな。
ちょっとでも素が出せる相手がいた方が、こいつも潰れずに済むだろ。俺も、こいつといるの楽しくなって来たし。
いろんなことが、上手く調和してってる。俺は俺で、やりたいことをベルノワールに持ち込むことが出来てるし、好きなサポートやスタジオの仕事も続けられる。
そして、この先ベルノワールは確実にヴィジュアル系に嵐を起こすに違いない。
こんな面白いことはねぇよ。
俺がニヤニヤしてると、宵闇がカーナビの画面を覗き込む。
「あ、もうあと30分ちょっとだな」
「うん?」
「0時まで」
「ああ…あ、そうか」
そうだ、うっかりしてた。
「ベルノワールキャストの更新か」
「そう」
ベルノワールキャスト、ってのがウェブラジオのタイトルだ。毎月20日の0時に更新される。
今から更新される回が、一昨日録った俺の初出演回だ。





