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「江崎さん、フォトシューティングとMVの方は」
「準備は整ってるわ。スタジオは前回と同じ。夕くんは初めてね」
マネージャーはその情報をプリントした紙を配布する。よく考えると、今時いちいち紙で配るって小学校かよ。これ、どうせ後でメール来るんだろ。そういう古い体質の会社ってことか。
「夕は俺が案内する」
宵闇が言う。そいつは助かる。撮影スタジオなんか縁がないから、一つも知らねぇんだよな。
衣裳のデザイン画も、同じく紙に印刷してある。俺の衣裳は…ノースリーブで、開いたフロントにベルトが何本か渡ってる。今回は胸も腹も見えるわけか。その代わり、ボトムのサイドは透けてないから、パンツ履いとけるわ。ノーパンはやっぱり厳しい。
髪型とかメイクは、また宵闇にお任せだな。ってか、ちゃんとしたヘアメイクさんがいるか、こういうのは。
「夕はこういうのは」
「初めてだな。ライブDVDくらいしか撮影したことねぇ」
「そうか。これも俺がディレクションするから心配はいらない」
「ああ、任せた」
さりげなく、レコーディングも宵闇が俺のディレクションしたことにしたな。それでいい。お前が全権掌握してる形にしておけ。俺は、人前では噛みつかねぇから。
これはもう、信頼だ。絶対的リーダーを演じている宵闇がどんなに偉そうなことを言っても、俺の意見は後でちゃんと聞いてくれるし、アテにしてくれる。まだ一緒に仕事を始めていくらも経ってないけど、その関係はがっちり構築された感覚がある。だから、必要もないのに他人の前であいつに食ってかかって、あいつの威厳を損なうのは損でしかない。入ったばかりの俺が全幅の信頼を寄せてるように見せるのが得策だ。
「ミックスは明後日までには上がってくる予定よ。週明けには全員に送信するわ」
明後日か。妙に早いな。ちょっと気になる。
宵闇は頷き、全員の顔を見渡す。
「じゃあ、30分休憩を入れる。休憩が終わったら、ラジオの収録を始める。追加の連絡事項があれば、その後に知らせる。解散」
宵闇が立ち上がると、全員が立ち上がる。それぞれ、冷めたコーヒーを飲みながら喋り始めた。
「江崎さん、喫煙所どこ?」
俺はタバコを手に持って、マネージャーに聞いてみる。なかったらしんどいな。
「そこの廊下をまっすぐ行った突き当たりの扉出た非常階段よ。そこに灰皿があるわ」
「サンキュ」
あるなら良かった。軽く手をあげて礼を言い、会議室を出る。天気良くて良かったわ。冬になったら、非常階段で吸うのキツそうだな。行くけど。
言われた通り扉を出ると非常階段の踊り場だ。そこに、赤いスタンド灰皿が置かれている。タバコを一本くわえて火をつける。
風はあまり強くない。吐き出した煙がゆっくり流れていく。
ぼんやりと外を眺めながら、タバコを灰にしていく。二日酔いはすっかり消えた。
今からラジオか。台本ないって宵闇が言ってたし、どんな展開になるやら。主に綺悧が進行するって言ってたけど。
何度目かに灰を落とした時、扉が開く。





