20-3
おもちゃ屋の店頭でピカチュウを買い込む宵闇を想像すると、かなり笑える絵面だ。是非ファンに目撃されて、ネットの掲示板に書かれて欲しい。
水を飲みながら、部屋の中を何の気なしにぐるっと見る。部屋の隅にベースが2本とアコギが1本立ててあって、その隣にはPCデスク。Macだな。ここでシンセパートとか、デモ音源とか作ってるんだろう。
「そういや、Hateとかのシンセパート間に合ったのか? だいぶ変えなきゃなんなかっただろ」
「ああ、めちゃくちゃ変えたよ。ほぼ全部やり直しだった」
キッチンでいれたインスタントコーヒーを飲みながら、宵闇は俺の足元に戻って来て胡座をかく。
「いつやったんだ?」
全部やり直しとなると、相当時間がかかったに違いない。毎日レコーディングに立ち会いながら、よく時間がとれたもんだ。
「レコーディングから帰ってからやってた」
「お前、ずっとロクに寝てねぇんじゃねぇか?」
「ん? ああ、ちょっと睡眠不足だけど、そこまでじゃない」
「そうか? ならいいんだけどな」
宵闇の飲んでるコーヒーがいい匂いだ。ちょっと飲みたくなったけど、今飲んだら、間違いなく吐くな。我慢しよう。
「宵闇、ミーティングの前に早めに行くのか?」
先に行って準備や打ち合わせがあるなら、俺は一旦、さっさと帰った方がいいよな。
「いや、今日は皆と同じ時間だよ」
「ああ、そうなのか」
それなら慌てる必要はないな。もうちょっと居させてもらおう。ここ、やけに居心地がいい。自分ちと比べても遜色ない。広さが似てるからなのか、何なのか。俺の部屋に比べたら随分片付いてて、オシャレなインテリアなんだけどな。但しピカチュウを除く。窓ぎわの観葉植物とか、俺には絶対無理なヤツ。
考えてみたら、逆にこいつが俺の部屋に来た時も、違和感なかったな。自分は初めての客にはそれなりに気を遣う方だと思ってたんだけど、宵闇に一切気を遣った覚えがない。
俺ら、すげぇいい友達になれる気がする。
いい友達に!
心の中で、そこを強調して繰り返す。そこを意識しておかないと、こいつの気持ちについ流されちまいそうで。
「宵闇、車乗ってくか?」
「ん? あ、いいのか?」
宵闇は嬉しそうに俺を見上げる。
「いいよ。いっぺん家に荷物置きに帰るから、それからこっち回って事務所行けばいい」
「それなら、俺も一緒に夕のうち行くよ」
「何で?」
「お前んちからの方が、高速乗りやすいだろ、ルート的に」
「確かに」
送って来る時は不便じゃないんだけど、ここを経由して高速入口に行くのは、一方通行なんかもあって面倒だ。
「夕、気分はどうだ?」
立ち上がりながら、俺の額に自分の額をこつんとぶつける。おいおい、少女漫画か。ってか、熱ないから。
「もうだいぶいい」
冷たい水のお陰で、二日酔いの症状もピークを過ぎたっぽい。食欲までは出てないけど、普通に動けそうだ。





