20-1
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翌朝目が覚めると、知らない部屋の知らないベッドにいた。
…これは、どういうことだ。
薄目で見回すと、モノトーンの落ち着いたインテリア。そして、それをぶち壊す黄色いぬいぐるみの一群。…あれはピカチュウじゃねぇか。
いやちょっと待ってくれよ? ピカチュウ? 体を起こしてみると、頭がぼんやりと痛い。思い出せ、俺。昨夜どうしたんだった。
宵闇の告白を回避して便所に行って、個室に戻って、おかしな雰囲気にならないようにまたバンドの話とかどうでもいい話とかをあれこれし続けて、定期的に店員が来るようにビール頼み続けて…。
寝落ちした。多分。
潰れたんだな、俺。
最後の方の記憶がすげぇ曖昧だ。自分で歩いてたとは思う。歩けないって程じゃなかったと思う。多分、多分な。
うちに来るか? って言われたんだっけか。そんな気がする。何て返事したのかは覚えてないけど。きっと、うんって言ったんだろう。
ってことは、ここは宵闇の家か。
…ピカチュウ好きなのか。
ほんと、これ公表出来ねぇ事実だぞ。
一応確認するが、何かされた形跡はない。そんな卑怯なヤツじゃないはずだとは信じてる。
部屋を見回すと、ベッドの下の床でバスタオルにくるまって宵闇が寝てる。見つけといてよかった。家主踏むとこだったわ。
俺にベッド譲って、自分は床で寝るなんざ、なかなか紳士じゃねぇの。寝てる宵闇を何となしに眺める。プライベートで関わるようになってわかったけど、こいつ全然性格悪くねぇし、寧ろ善良なくらいだし、顔もいいし、仕事熱心だし、いいヤツだよな。これから仲良くしてくのは歓迎だ。
でも、もし「好きだ」とか言われたら…言われたらなぁ。…嫌じゃないだけに困る。嫌いなヤツから言われるんなら即決でお断り出来るんだけど、こいつに言われたら、めちゃめちゃ迷っちまいそうだ。
しかも、「もし」じゃねぇんだよ。こいつは、明らかに俺に伝えようとしてる。
俺はそういう気持ちは持ってないけど、そう言われたらその気になっちまいそうな気がするんだよなぁ。不思議なことに。
昨夜抱きしめられた時に、妙にドキドキしたもんな。あれ、どうでも良かったら「おいおい」っつってすぐに離させてたはずなんだよ。でも、どうしていいのかも何を言っていいのかもわかんなくなった。あれはヤバい。
俺、割と嫌じゃないんだなってことだけわかった。嫌じゃないけど、付き合う気があるのかないのか、自分でもわからん。今まで男と付き合った経験は、ない。
でも、あの時に「好きだ」って言葉を聞いちゃってたら、うっかり付き合っちゃってたかもしれない気がぼんやりとする。
とにかく、今は回避出来るだけ回避しよう。何もかもが微妙過ぎる。
それにしても…胃がちょっと気持ち悪いな。吐くほどじゃないけど、ムカムカしてる。喉もやたら乾いてるし。水が欲しいな。でも、このまま降りると宵闇を踏みそうだ。
でも喉乾いたし。
そーっと宵闇を踏まないように足を置く。よし行けた。このまままたげば大丈夫だ。ヤツの足をまたいで、向こう側に着地。もう片方の足を持ってくる。と。小さな唸り声。
「んー…。…夕…起きたか?」
ありゃ、起こしちゃったな。
「起こしたな。悪い」
宵闇を振り返って謝ると、むくっと起き上がった。





