19-10
「ほら」
ほら? 何がほらだ。…って、この状態は。
「食えよ」
あーんですか。あーんしてくれるって言うんですか、ベルノワールの宵闇様が。何のファン感謝祭なんだよ。しかも俺、ファンじゃねぇし。
とは言っても、宵闇の表情はやたらと嬉しそうだし、箸はもう口のすぐそばだし、これはかなり拒否しにくい。
…誰か見てるわけでもねぇしな…。
俺が観念して口を開けると、秋刀魚が口の中に放り込まれる。
最早、味がよくわからない。さっき一口食った時美味かったんだから、美味いんだと思う。思うけど、わからん。
もぐもぐ咀嚼する俺の顔を、宵闇はにこにこと見ている。一瞬目が合ったけど、つい視線を逸らしてしまう。
「なあ、夕」
「…ん?」
飲み込むタイミングを見失った秋刀魚を、それでも何とか飲み込む。
「好きな子とか狙ってる子いるのか?」
「修学旅行かよ」
今回はどうにかツッコめた。修学旅行の就寝時間かよ。
「え?」
「この後枕投げでもすんのかよ」
「しないけど」
何をきょとんとしてるんだこいつは。マジで言ってんのか。頭いてぇな。
「いません!」
「安心した」
箸を置いた宵闇は、俺の方へ体ごと向き直る。いよいよか? いよいよ来るのか? どうしよう。来い、店員。俺の生中がまだだ。
コツコツ、とノックの音。完全に盗聴してる上に俺の味方なんじゃねぇか?
「どうぞ!」
勢いよく返事をすると、扉が開いて、生中がやって来る。ありがとう神様。俺もう絶対この店贔屓にする。設計ミスだけど。
受け取った生中を、そのままごくごく飲む。どうにか一息ついた俺は、こっちから話を切り出す。
「そういや、Monster's Foolish Nightのセトリさ」
「ん?ああ」
少し前に宵闇からメールで送られて来た、今度参加するイベントのセットリスト。それについて、まだ話してなかったことを何とか思い出せたから、今度はそっちに話を振る。
「流れ的にTears for Fearより」
スマホを出して、そのメールを探しながら話す。
「Like Abyssの方がいいんじゃねぇかと思ったのと…」
見つけ出したメールを開いて、宵闇に見せる。宵闇は素直に画面を覗き込む。
「4曲目にHate or Fate入れたらどうだ?」
「Dear Luciferと入れ替えか?」
「ああ。リリースも近いし、先行で出しても構わねぇだろ?」
テンポと曲調は割と近い2曲だ。入れ替えても、セットリストの勢いは削がない。シングル3曲の中でも、この曲なら客もすぐ順応できそうな感じだ。





