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「なぁ、どんな呑み屋だ? 何系?」
エレベーターの中の沈黙ってどうも苦手だな。階数表示だけ見てるのも何だし、俺は口を開いた。
「何系って? ラテン系とか?」
「なんだよそのやたら陽気そうな呑み屋。じゃなくて、焼き鳥とか炉端焼きとかそういうさ」
「あ、飯のこと言ってる?」
「うーん、飯だけじゃなくて、主力商品は何かってことなんだけどな。焼酎とかカクテルとかにこだわってますとか」
呑まないからって、こんなに通じないもんか。ある意味ちょっと新鮮だわ。
「何だろうな」
「何だろうなっておい。じゃあ何でここ来ようって」
そこでベルがチン、と鳴って扉が開く。聞くよりつく方が早かったか。じゃあもう、入った方が話が早い。
エレベーターの目の前に、赤と黒の漆塗りの木で組まれた入口がある。掛けられた看板には、筆文字で「ゆるり」と入ってる。なるほど、和系な。和食か、和洋折衷ってとこだろ。
宵闇はすっと中に入り、出迎えた店員にこう告げた。
「予約した須藤です」
「須藤様で2名様ですね。おまちしておりました」
店員はにこやかに店内へと案内してくれる。案内に従って靴を靴箱につっこみ、その後に続く。
「お前、本名、須藤っつーんだ?」
こいつの本名とか考えたこともなかった。そりゃ、本名あるよな。
「ああ、そうだよ?」
下の名前が気になるようなならないような。どうでもいいか。本名で呼ぶことなんかねぇし。
「初耳。けっこう普通だな」
「そりゃそうだよ。ただの日本人だから」
歩いて行く通路の両脇には、ちょっと低めの扉がいくつも並んでいる。個室メインなのか。入口からほぼ反対側に位置している扉の一つを、店員があけてくれた。
これはどういうことかな。
そこは、正面が大きな窓に面している。その窓に沿ってテーブルが作り付けられていて、手前に掘りごたつ風に足を入れて腰掛けられるようになっている。
並びで座れと? いやいいけど。カウンターだと思えば。カウンターじゃねえけど。
そして、その大きな窓からは見事な都会の夜景…が見えれば、話の種にはなかなか良かったんだけどな。
ちょっと、この店を設計したヤツ出て来い。
都内とはいえ、ここは下町だ。ごく普通の商店街と、住宅街が広がってる。夜景のタネになるもんは、少し向こうのパチンコ屋のネオンと幹線道路だけだ。何の為のでかい窓だよ。せめて遠くに東京タワーでも見えりゃいけど、完全に方角が違う。
「夕、荷物置いて座れよ」
「……おう」
まったく見所のない夜景にぽかんとしていて、荷物置くのすら忘れてた。宵闇に促されて荷物を置き、とりあえず座る。
ドリンクはと店員から尋ねられ、「生中」とだけ答える。宵闇はグレープフルーツジュース。女子か。
あまりの設計ミスに、俺はうっかりため息をつく。宵闇は首を傾げて俺を見る。
「どうした?」
「…ここの夜景が素晴らしすぎてな…」
宵闇は、外の景色に目を走らせる。





