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Hate or Fate?  作者: たきかわ由里
59/232

19-4

「なぁ、どんな呑み屋だ? 何系?」

 エレベーターの中の沈黙ってどうも苦手だな。階数表示だけ見てるのも何だし、俺は口を開いた。

「何系って? ラテン系とか?」

「なんだよそのやたら陽気そうな呑み屋。じゃなくて、焼き鳥とか炉端焼きとかそういうさ」

「あ、飯のこと言ってる?」

「うーん、飯だけじゃなくて、主力商品は何かってことなんだけどな。焼酎とかカクテルとかにこだわってますとか」

 呑まないからって、こんなに通じないもんか。ある意味ちょっと新鮮だわ。

「何だろうな」

「何だろうなっておい。じゃあ何でここ来ようって」

 そこでベルがチン、と鳴って扉が開く。聞くよりつく方が早かったか。じゃあもう、入った方が話が早い。

 エレベーターの目の前に、赤と黒の漆塗りの木で組まれた入口がある。掛けられた看板には、筆文字で「ゆるり」と入ってる。なるほど、和系な。和食か、和洋折衷ってとこだろ。

宵闇はすっと中に入り、出迎えた店員にこう告げた。

「予約した須藤です」

「須藤様で2名様ですね。おまちしておりました」

 店員はにこやかに店内へと案内してくれる。案内に従って靴を靴箱につっこみ、その後に続く。

「お前、本名、須藤っつーんだ?」

 こいつの本名とか考えたこともなかった。そりゃ、本名あるよな。

「ああ、そうだよ?」

 下の名前が気になるようなならないような。どうでもいいか。本名で呼ぶことなんかねぇし。

「初耳。けっこう普通だな」

「そりゃそうだよ。ただの日本人だから」

 歩いて行く通路の両脇には、ちょっと低めの扉がいくつも並んでいる。個室メインなのか。入口からほぼ反対側に位置している扉の一つを、店員があけてくれた。

 これはどういうことかな。

 そこは、正面が大きな窓に面している。その窓に沿ってテーブルが作り付けられていて、手前に掘りごたつ風に足を入れて腰掛けられるようになっている。

 並びで座れと? いやいいけど。カウンターだと思えば。カウンターじゃねえけど。

 そして、その大きな窓からは見事な都会の夜景…が見えれば、話の種にはなかなか良かったんだけどな。

 ちょっと、この店を設計したヤツ出て来い。

 都内とはいえ、ここは下町だ。ごく普通の商店街と、住宅街が広がってる。夜景のタネになるもんは、少し向こうのパチンコ屋のネオンと幹線道路だけだ。何の為のでかい窓だよ。せめて遠くに東京タワーでも見えりゃいけど、完全に方角が違う。

「夕、荷物置いて座れよ」

「……おう」

 まったく見所のない夜景にぽかんとしていて、荷物置くのすら忘れてた。宵闇に促されて荷物を置き、とりあえず座る。

 ドリンクはと店員から尋ねられ、「生中」とだけ答える。宵闇はグレープフルーツジュース。女子か。

 あまりの設計ミスに、俺はうっかりため息をつく。宵闇は首を傾げて俺を見る。

「どうした?」

「…ここの夜景が素晴らしすぎてな…」

 宵闇は、外の景色に目を走らせる。

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