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俺のリテイクは最後の最後、0時頃からスタートして、どうにか2時30分には撤収出来た。
リテイクも宵闇は眺めているだけで、ディレクションはなしだ。礼華と朱雨は先に帰らせたから、ヤツはちょっと気を抜いた表情で楽しそうにコーヒーを呑みながら観戦してやがった。ま、いいけどな。
一通りのレコーディングと、録ったテイクを通して、こいつと俺がベルノワールを動かして行きたい方向ってのが一致してるのはわかった。だから、こいつは俺のプレイに一切文句がないんだ。
俺の方からあいつのプレイに対しては、何だかんだあるわけだけれども。でも、それは主にテクニック的な部分とか細部の作り込みなんかの問題であって、センスと方向性に対して言いたいことはない。
車に機材を載せるのを手伝わせて、宵闇もついでに積んで帰宅。あいつの家をまわってから帰って、寝たのは4時前だ。
めちゃめちゃ眠いけど、少し寝たらまた仕事だ。年に何回かある、サウンドアンドミュージックカレッジの特別講義。我が母校は名古屋校なんだけど、今日は昼から東京校で講義。タイミング良く、ドラムレコーディングについてだ。
あれこれと一時間くらい軽く話して、それから実演。基本的な機材はもちろん揃ってるから、結構実践的だ。俺もここで習ったことが今のレコーディングの基礎になってる。
それが済んでから、質疑応答して講義は終了。そこから夕方まで、個人カウンセリング希望の学生と何人か話した。まぁ、いろいろ悩むよな、進路とかさ。バンドか良いのか、サポートをメインにするか、スタジオミュージシャンがいいのか。それとも、メーカーに就職してドラムテクニシャンになるか。楽器屋勤めって道もあるし。音楽教室のインストラクターなんてのもありだけど、あれはちょっとキャリア積んでる人が多いかな。
進路の他にも、苦手なプレイの克服法だったりとか、行き詰まってるから基本的なフォームから見直したいだとか、みんな悩みはいろいろだ。
俺に答えられる、やってやれることは出来る限り全力で応える。ここの講師の先生方は、面倒見がいいタイプが多くて、俺もそうしてもらって来たし、未だにその繋がりで仕事もらってるし。ベルノワールに加入したきっかけだってそれだったもんな。
希望者全員とのカウンセリングがやっと終わって、時計を見ると19時だ。
「山口くんお疲れ」
名古屋校で世話になった高井先生が冷えた缶コーヒーを渡してくれる。先生は今年から、東京校の講師になった。
「おつかれっす」
「何かげっそりしてないか?」
「今朝方まで自分とこのバンドのレコーディングやってたんで」
「あれ、バンド入ったのか」
俺が卒業以降フリーで活動してるのは勿論知ってるから、ちょっと驚いたみたいだ。
「金沢先生の紹介で。ベルノワールってバンドなんすけど」
「どっち系だ?」
高井先生はジャズがメインの人だから、ベルノワールのことは知らないよな。
「ヴィジュアル系です」
「メタル野郎の山口くんが?」
俺のメタル野郎っぷりは、校内では結構有名だったからなぁ。毎日メタルTシャツ着てたし。
「まあ何か、勢いでっつーか、縁があってっつーか。うっかり入っちまったんで、それはそれでちょっと頑張ってみますよ」
「どうせやるなら、全力出した方が面白いからな」
「そうなんすよ。入る時の話じゃ、海外進出狙ってるみたいなんで、ちょっとヨーロッパとかビビらせて来てやりますよ」
高井先生は大きな声で笑う。





