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Hate or Fate?  作者: たきかわ由里
52/232

17-2


「続行で」

 手を伸ばして、マイクの入力を戻して声をかける。

「綺悧、さっきのハイトーン良かったぜ。次も頼むな」

「はい!」

 ん、いい返事だ。大丈夫だな。宵闇の顔を見ると、微かに笑みを浮かべた。

「綺悧、Cメロから行く。一回音を出す」

「はい」

 ざっくりとここまで録った音をまとめた音が流れ出す。まだきちんとミックスしてないから荒いけど、それでも今までのベルノワールを大幅に上回る出来なのがわかる。現時点で出来る最高の音だ。ここにまだギターを重ねて、シンセを入れることを計算に入れると、相当ヤバい。どこのバンドだ、ってレベルだ。

 俺は、これからこれ以上のプレイが出来るバンドにして行くつもりだし、胸を張って海外へ進出させたいって考えてる。「あいつらが海外だって」なんて誰にも言わせない。ヨーロッパから「来てくれ」って頼まれるようになってやる。

 軽く口ずさみながら曲を再確認した綺悧は、宵闇をまっすぐ見て頷く。

「じゃあ、録るぞ」

「お願いします」

 もう一度音が流れ出し、合わせて指先でカウントを取った綺悧が歌い始める。5日間苦しんだとは思えない、クリアな声だ。喉だけで声出してんのに、これは逆に驚異的だ。だからこそ、ちゃんとした発声法を身に付けて欲しいんだよな。今のままだと、ヴォーカル生命が短くなっちまうかもしれない。それは惜しいから、長く歌っていく為にも、体の正しい使い方は覚えて損はない。

 俺自身、専門学校で勉強して今があるから、本当にそう思う。自分の体を使うドラムとヴォーカルは、特にそこを大事にした方がいいと思う。せっかく好きなことをするんだ。長く楽しみたいだろ。

 大きなミスはなく、1テイク目は終わる。

「いいじゃん、綺悧。えーっと…I sorrowed forのとこからの英語、もうちょっと泣きそうな感じとかどうよ?」

 アドバイスは直球で要求するんじゃなくて、綺悧に提案する感じで。昨日一日で、俺はこのコツをつかんだ。綺悧のテンションを気遣うだけじゃなくて、綺悧がこれをきっかけに自分で考える癖がつけば、更に表現力も上がるだろう。

「泣きそうって」

 綺悧は笑って、それから腕を組んで目を泳がせる。

「うーんと…泣きそうっていうか、嘆くって感じ?」

「そんな感じかな。どう?」

「えーっと…I sorrowed for your icy eyes」

 綺悧が歌い直して提示した表現は、なかなかだ。ちょっと苦しそうで、辛そうで。やれば出来るんだよな、こいつ。

 こういうアドバイスが、宵闇には出来ない。昨日の帰り道も、俺の車の中でめちゃめちゃ感心してた。マジで今まで何やってきたんだって叱ったけど。

「ああ、すげーいい! なあ、宵闇?」

 宵闇は大仰に頷く。そうだ、お前の仕事はそれだ。

「綺悧、それでもう一回行こう」

「はいっ」

 綺悧は大きく深呼吸をする。

「お願いします!」

 2テイク目が始まる。

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