17-1
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ライブは予定通りの時刻で終了した。
出来は上々、お客さんの反応も最高。今回のツアーも楽しく終わらせてもらえた。
自分のプレイも、かなり納得出来るレベルが保てたから満足だ。
楽屋でそのまま軽く呑める人はビール、俺は烏龍茶とデリバリーの寿司なんかで中打ち上げをして、LEDを出たのは22時30分過ぎ。宵闇からLINEは入ってないから、まだレコーディングやってるはずだ。ここからレコーディングスタジオまでは、まあこの時間なら30分で行くか。
車を出して直接スタジオに向かう。ライブやった後だから、そりゃ俺だって疲れてるけど、立ち会うだけだから別に体力使わないし。少し眠いけどな。この3日は睡眠時間削っちまってるから、しょうがない。
期限通りにレコーディングを終わらせるのは、メジャーレーベルと契約してる以上、絶対だ。堂々と期限を引き延ばせるほどの大物じゃない。それに協力するのはメンバーとして当然だ。今の切羽詰まった状況がわかってて知らん顔は出来ない。
スタジオに到着して、6スタのドアを開けると、綺悧のハイトーンシャウトが耳に入った。おお、よく伸びてんじゃん。あと2拍伸びりゃ言うことなしだな。
振り返った宵闇と目が合う。ヤツは無表情のまま顎で俺を隣に呼びつける。それでこそ「宵闇」だ。隣の椅子に腰掛ける。
「よし綺悧、OKだ」
静かな宵闇の声。綺悧は宵闇に軽く頭を下げ、俺がいることに気付くと小さく手を振る。ほんと可愛いヤツだな。しっぽ振ってんのまで見える気がするわ。綺悧がどんな売り方してんのかまだよくわからんけど、このキャラ生かしたいよな。
インタビューとかチェックしとこう。
綺悧は深呼吸をして、息を整えてる。
「宵闇、どんな感じだ?」
「好調だよ。あと、こことここで終わる」
宵闇が手元の書き込みでいっぱいの歌詞を指さす。Cメロと大サビな。Wheelの中でもちょっと難しめの、音程が取りにくい部分だ。でも、綺悧ならそこは大丈夫だろう。どっちかっていうと、大サビラストのデスボイスでのシャウトがどこまで伸ばせるかが勝負になって来る感じだ。
何せ今のとこ喉から声出してるから、デスボイスが喉を痛める可能性が高いのと、上っ滑りになりがちなのが気がかりだ。俺はあんまり歌の方は得意じゃないから、テクニック的にどうこう言えないけど、腹からこう…重い地獄の叫びみたいなのがここには欲しいんだよな。
「次どっちからにするんだ」
「Cメロ。大サビやったら、その後声出なくなるからな」
「やっぱりか」
「いつもそうだよ」
いつもそうなら、早いうちに対策立ててやって欲しかったよな。本気でボイトレやらせよう。綺悧はそれで格段によくなるはずだ。
「綺悧、次行けるか?」
宵闇の問いかけに綺悧は頷く。まったくへこたれてない。目が輝いてるぜ。一昨日の死んだ魚の目とは全く違う。いいじゃないか。このまま、今晩中に終われるな。
宵闇はマイクの入力を下げ、小声で俺に聞く。
「このままやらせていいか? 休ませた方がいいか?」
「今どれくらい続けて歌ってんだ?」
「40分くらい」
「ちょっとキツいか。…でも」
ブースの中で伸びをしてる綺悧に疲れは見られない。機嫌も良さそうだ。それなら、テンションが切れないうちに次を録り始めるのも手だ。さっきのハイトーンも綺麗だったし。少し後で休憩を入れても構わないだろう。





