15-7
「へらへらすんな。そろそろ綺悧連れて来るから、お前はいつもの宵闇でいろ」
「ああ、わかった」
「よし」
手を伸ばして、宵闇の前髪を整える。赤くなってる左頬はちゃんと隠しとかないとな。
「口ん中切ってねーか?」
「大丈夫。ちゃんと食いしばっといたから」
「ん」
多分、こいつ殴り合いとかしたことねぇんだろな。見た目と違って俺より断然穏やかだし。
今回は怪我させたくて殴ったんじゃないから、怪我がなくて良かった。ほっぺたは後から腫れるだろうけど、それは怪我にカウントしないってことで。
安心してにっこり笑ってやると、嬉しそうに笑って、すぐに表情を戻す。
「その顔な。俺が綺悧にアドバイス入れたり褒めたりするから、お前はOKかNGかだけジャッジしろ。いいか、今は欲張るなよ?」
「ああ」
「あいつまだ絶対育つから、潰すな」
宵闇が頷いたのを確認して、ロビーに綺悧を迎えに行く。
「夕さん」
綺悧の背筋は伸びて、さっきまでの暗い雰囲気はすっかり消えていた。しっかり気分転換出来たんだろう。すっぴんで笑うと、なかなか愛くるしい。子犬っぽい。アーティスト写真だと目の下黒いけど。
「お待たせ。そろそろスタジオ戻るか?」
「はい!」
うん、いい返事だ。テーブルに広げていたあれこれをコンビニ袋に戻して、スタジオに向かう。
「何か元気出たなぁ。ありがとうございます!」
「そーか、そんなら良かった。まだお前の歌、生で聴いてないからさ、聴いてくよ」
「あ…声出るかな」
ふと、不安げな表情が覗く。
「無理しなくてもいいぞ? 出たらで。明日も覗きに来るし。今日の残り時間は練習のつもりでいいんじゃねえ? 調子戻ったら録りゃいいし、無理ならとっとと帰って寝ようぜ」
「いいのかな」
「いいって。明日またやれるんなら、明日早めに始めりゃさ」
その辺は、俺がこっそり宵闇を動かしてやるし。
「俺だったらそうするな。お互い体が資本じゃん? 俺はちょっとでも筋肉とか関節に異変あったら、その日は切り上げるよ」
「そうなんですね」
そんなことも知らなかったのか。今まで、こいつは一人で限界まで突っ走ってたんだな。よしよししてやりたくなるじゃねぇか。
自分より若いバンドマンはあんまり付き合いがなかったから、こういう気分になったことなかったけど、案外悪くない。俺を可愛がってくれる先輩方も、こんな気分なのかね。俺は綺悧に比べたら随分可愛げがないと思うけどさ。
スタジオに入る。今度は大声はあげない。
「綺悧、落ち着いたか?」
いつものリーダー然とした、クールな宵闇が戻ってる。唇の端をよく見なけりゃわからんくらいの微笑。ま、左の頬は腫れてんですけどね。見えないけど。次やらかしやがったら、右の頬も出させよう。
「はい。すみませんでした」
綺悧はぺこりと頭を下げる。宵闇は綺悧の肩を叩いて、背中を押す。
「じゃあ、やってみるか」
「はい」
くるりと振り向いた綺悧が、俺ににっこりと笑いかける。
「いってら」
手を上げてやると、頷いてヴォーカルブースに入って行った。





