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「ほんとさ、お前の音程の正確さは大したもんだよな。その歳でさ」
青ざめていた頬に、ふわっと血の気が戻って来る。そうなんだよな、頑張った分は褒められたいよな。人間、こういう簡単なことが割と大事だ。
「音域も広そうじゃん。ハイトーンもかなりの高さまで出てたし。どこまで出んの? B?C?」
「それはよくわかんないです…あ、わかんない」
そっか、ちゃんとボイトレしてないから、自分の能力がどの程度なのかも知らないんだな。もったいない。
「そうか。ベルノワールはいくつめのバンドなんだ?」
「初めて」
「マジか。それでメジャーまで来たとかすごくねぇ?」
とは言ったけど、ま、予想通り。綺悧は少しだけ笑みを浮かべた。俺は少しほっとする。綺悧が少しでも俺と打ち解けてくれたら、緊張も緩むだろう。
「俺は、ただラッキーなんだと思う」
「ラッキーも才能だろ。何でベルノワール入ったんだ?」
「俺、ディエス・イレのファンだったんです」
「でぃえす…?」
何だそれ。バンド名っぽいな。
「宵闇さんの、前のバンド。中学生の頃から宵闇さんに憧れてて」
「へぇ」
宵闇の前のバンドとか、一瞬たりとも興味持ったことなかったわ。でも、綺悧少年の心はがっちり掴んでたみたいだな。
「それで、何でベースやるんじゃなくてヴォーカルになったんだ?」
「たまたま、ベルノワール結成するのにヴォーカル探してる、って情報ゲットしたから。それと、中学の時は高い声出るだけで周りは上手いって言ってくれたし」
ああ、あるある。周りよりちょっと何か出来るだけで「お前すげぇな!」みたいな感じになるんだよな、それくらいの年頃は。
「応募したら、すぐにオーディションしてくれて。宵闇さんと話せただけでも舞い上がったなぁ」
ほんとに、心底宵闇のファンだったんだな。あいつの無意味にカリスマっぽい俺様オーラすげぇからな。俺は直撃されてないけど。
「バンドのことなんか何にもわかんない俺を、宵闇さんはここまで連れて来てくれたんだ。…すごい人だよね」
「ああ…」
うーん、そうか。すごいのか。さっきの情けない表情を思い出す。すごいのか、あいつ。俺には欠片も伝わってねぇけど。
綺悧はその頃のことを思い浮かべているのか、さっきまでの沈んだ表情はどこへやら。うっとりと幸せそうな顔をしてる。ある意味マジで宵闇すげぇな。こんな何年も近くにいる綺悧が、まだ騙されているとは。まさかチキンラーメンをちまちま鍋で煮てるとは思ってないんだろうな。
やっぱり、こんだけ綺麗に憧れの人物像を保ってるのに、それをぶち壊すのは得策じゃない。そんなすごい宵闇に認められたい、ってのが綺悧の行動原理だ。
「だから、宵闇さんに納得してもらえる歌を歌いたいんだ。…でも、今回の俺、ダメみたいだなぁ…」
あ、ヤバい。またしゅんとしちまう。
「俺が聴いた感じは全然ダメじゃないぜ?」
いや、俺が納得してるんじゃダメなんだよな。でも、俺が褒めてもそれはそれなりに喜んでくれるみたいだし。
「ほんとに?」
「ああ、今までの音源も聴いたけど、今回はちゃんと上回ってる」





