15-3
「それと、そのヴォーカルくんのキャリア知らないから、これはもしかしたらだけど」
「うん?」
「緊張とかストレスかもしれない」
ああ、やっぱり。
「プレッシャーとかでも?」
「あるわね。とりあえず、急かさないで優哉くんがバカ話でもしてあげたらどうかな」
「わかった。ありがとな! じゃあ急ぐから」
「うん、今度また詳しく聞かせてよ」
「ああ。それじゃな!」
礼もそこそこに通話を切り、部屋を出る。まずは駐車場の隣のコンビニへ。レジ近くの飴の棚を見ると、結構目立つ位置にマヌカハニーののど飴が置いてあるので一つ手に取る。それから、ホットドリンクの棚。まだちょっと早いかと思ったけど流石コンビニ。既におでんが始まってるもんな、はちみつレモンもある。
その二つを買い、車に乗ってスタジオに向かう。そして、スタジオ近くのドラッグストアに立ち寄って響声破笛丸なるものを購入。喉の薬の棚ですぐ見付かった。
スタジオの玄関を入ってすぐのロビー。大きな窓際のテーブルに突っ伏してる青髪がいる。綺悧だ。
隣に座り、肩を叩く。
「綺悧?」
綺悧はちらっと顔を上げて俺の顔を見ると、目を見開く。
「え…夕さん」
「陣中見舞いだよ」
何事もないかのように、にっこり笑ってみせる。ここで俺が心配そうにしたら、こいつは余計に気にする。
「今日ちょうど、サポートやってるヴォーカリストに会ってさ、今ヴォーカルレック中だって言ったら、何か良さげなもん教えてもらってな」
嘘も方便。わざわざ聞いたって言ったら、こいつ恐縮しちまいそうだ。
買ってきたものを、テーブルに並べてやる。
「その子ベテランで、レコーディングの時、こういうの常備してるって言ってたから」
綺悧はへたってた上半身を起こして、並べた品物を見る。目に生気がねぇな。かなり参ってるぞ。
「じゃ、ちょっと宵闇に挨拶して来るわ。何スタ?」
「6スタです」
「です、とかいらねーよ。はちみつレモンでも飲んでてよ。あ、その何か漢方とのど飴も。飲み食いしといて」
綺悧はこくんと頷いて、はちみつレモンを手に取って蓋を開ける。それを確認して、席を立ってレコーディングスタジオへ行く。
「宵闇!」
ドアを開けるなり、大声で呼びつけてやる。そんなことするまでもなく、目の前のソファに座ってたんだけど。
目が合うと、宵闇はバツが悪そうな顔をする。その腕をひっつかんで、ヴォーカルブースに引きずり込み、カーテンを閉める。ここ、なかなか親切だな。集中出来るようにカーテン設置してあるよ。
「夕、悪いな。綺悧は」
「もう今会って、差し入れ渡してきた。お前どんだけ綺悧ぶっ叩いたんだよ!」
加減はわかってると思ってたけど、調子に乗ってかなりダメ出ししちまったんじゃないのか。落ち込んだ様子の綺悧を実際目にしたら、何かムカついてきた。





