15-2
「話すくらいは大丈夫だけど、歌となるとほぼダメなんだ」
「そうか…」
レコーディングの突然の変貌に着いてこられなかったか。でも、着いてこられないからと言って、綺悧だけを置いてけぼりにするわけにはいかない。
何とかしないと。とにかく、行こう。行ってどうにかなるのかならないかは別だ。会ってみないことには始まらない。
「宵闇、今からそっち行く」
「来てくれるのか?」
「ああ。俺が行くまで、綺悧はそのまま休ませろ」
「わかった」
すぐに電話を切り、少し考える。俺には、ヴォーカリストにとって良いことが何かはわからない。それなら、ヴォーカリストに聞くのが一番だろう。
連絡先をスクロールし、電話をかける。
日本にいればいいな。海外でもかかるっちゃかかるけど、時差がある。
数回コールの後、向こうが出た。
「おつかれ、優哉くん。なぁに?」
少しだけハスキーな、艶っぽい声。話し声もいいんだ、この子は。
「マヤちゃん、今どこ?」
「日本よ?」
良かった。スパイダーリリーは海外遠征も多いから、ちょっと心配した。
「あのさ、うちのヴォーカルが」
「うちの?」
「ああ、そう、こないだバンドに入ったんだけどさ」
そういえば、それから連絡取ってなかったな。ただ、それを詳しく説明してる暇はない。
「レコーディング中にヴォーカルの声が出なくなっちまった。どうしてやればいい?」
「大変じゃない! どんな感じなの?」
マヤちゃんは驚いた声を上げる。ヴォーカリストにとって、それがどんなに致命的なことか、辛いことかは、俺よりこの子の方がよほど感じ取れるはずだ。
「まだ直接会ってないから詳しくはわかんねぇけど、突然音域が狭まって、話せるけど歌えないらしい」
「レコーディング長引いてるの?」
「いや、まだ3日目なんだけど、マヤちゃんみたいにトレーニング全然出来てねぇからさ」
「そうなの。うーん、そうだなぁ…」
唸りながら、少し間があく。
「この時間ならドラッグストアまだ開いてるわよね。響声破笛丸ってヤツ、喉にいいから買ってあげて」
「きょうせい…?」
「響く声に破壊の破、笛、丸。言えば出してくれるわよ。結構速効性あるから。あと、マヌカハニー。コンビニにあるのど飴のでもないよりいいかな。この時間からほんとのマヌカハニーは間に合わないわ。あとは、私の場合は何かあったかい飲み物。コーヒーとかお茶じゃなくて、はちみつレモンとか」
流石、当代随一の鋼鉄の歌姫。頼りになる。その3つを記憶に叩き込む。





