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ほんとまぁ、定時連絡にも程があるというか。昨日も今日も、大体20時前後にLINEが入って来た。俺は練習を切り上げてから、それに返事をしてやるパターン。宵闇からのレスポンスは割と速い。
心配してた綺悧の様子は、やっぱりというか何というか。今までならOKが出るはずのテイクにOKが出ないことに、2日目の昨日にしてヘコんでしまったっぽい。ヘコむよなぁ。今までがクソ甘かったからな。でも、今日入れてあと3日ある。頑張りゃ短縮の可能性もあるけど、そこまでは無理だろう。
「あやり大丈夫か?」
そう返事を送って、まとめた荷物を車に積み込んで自宅に向けて帰路につく。
運転しながら通知がないか気にしてたけど、ちっとも返事がない。大体10分以内で返事来るんだけどな。何かあったかな。
駐車場に到着して、荷物を担いで部屋に帰る。
スマホを見ても、返事は来てない。
いつもの余裕のあるディレクションの状況じゃないってことか。
ヴォーカリストは繊細だからなぁ。特に綺悧みたいなタイプは結構ヤバい気がする。あんまり綺悧タイプのヴォーカリストに関わったことはないんだけど、普通に人として気が弱いっつーか、腹が据わってないっつーか。
23だって言ってたっけな。最初からベルノワールにいるみたいだから、加入したのは高校時代か。もしかすると、ベルノワールが初めてのバンドかもしれない。
そうだとすると、他の二人よりももっと宵闇の存在がでかい可能性がある。もし宵闇がキャラ変して、プライベートの穏やかな雰囲気を出しちまったら、逆にショックを受けることすら考えられるぞ。
これは扱いが難しい。
冷蔵庫を覗くと、あるはずのビールがない。そういえば、昨夜呑んじまった。コンビニに買いに行くか。コンビニは駐車場の隣だから近い。
財布と鍵と…スマホも持たないとな。
そう思ってスマホに指を触れた瞬間、振動が伝わって来た。この長い振動は、電話だ。画面には宵闇と表示されている。
すぐに指を滑らせて電話に出る。
「おい、宵闇。何かあったか」
「ああ。何でわかった?」
「お前の返事が遅いってのはイレギュラーだろうよ」
「当たり」
宵闇の声は少し沈んでいる。何か知らんが、多分ヤバいな。
「綺悧は」
「ロビーで休ませてる」
コンソールルームには、飲み物も菓子も揃ってるし、当たり前だけど空調だって効いてる。宵闇も、スタッフも皆そこにいる。それなのに、わざわざロビーで休憩させてるってことは。
「どうした」
電話の向こうで、宵闇がため息をつく。
「声が出なくなって」
「えっ、全然か?」
「全然じゃないけど、音域が突然狭まって」
俺はヴォーカリストじゃないし、ヴォーカルにはそれほど詳しくないから、それだけで何かを判断することは出来ない。ただ心配するだけだ。具体的なアドバイスは持ち合わせていない。





