11-2
うん、100点じゃないけど良くなってるんじゃないか? 過去のは誤魔化し済の音源しか聴いてないけど、今弾いてるのはそこそこ使えるテイクだ。これが維持できれば、ライブでもまあ大丈夫だろう。
Bメロが終わり、宵闇の合図で停止する。
ヤツが横目でちらりと俺を見上げる。俺は小さく頷く。
宵闇は視線をブースに戻した。
「朱雨、OKだ。休憩にしよう」
声をかけられた朱雨は、ギターを置いてコンソールルームに戻って来る。長いプラチナブロンドをひとまとめにして、キャップを被ってる。こいつが金髪ロン毛だから、俺の金髪はいらないって言われたんだな。確かに被ってるっちゃ被ってる。黄色い俺の髪よりずっと綺麗な金髪。いや、お前が赤く染めろよ、「朱雨」なんだし。
朱雨は俺の顔を見て、わざとらしい笑顔を作る。会うのは二度目だもんな、俺だってどんな顔していいのかわからん。いきなりフレンドリーにハグすんのもおかしいしな。日本人だし。
「おつかれさん」
俺も大人なんで、笑顔で声をかけてやる。
「おつかれ。夕…くんは」
「夕でいいよ」
確かこいつ、同い年のはずだ。これから同じバンドでやっていくんだ、出来るだけ仲良くしたい。
仲良くしたい、ってのは、馴れ合いたいのとは違う。なあなあで流しちまう、今までのベルノワールみたいなのじゃない。互いに切磋琢磨しつつ、協力して音楽を作り上げられるような仲の良さだ。それじゃなきゃ、バンドでやる意味なんかない。クオリティ高いだけの音を作りたいなら、ソロで上手いやつを機械的に集めて、何なら全部デジタルで隙のないものを作ればいい。バンドでやるからには、人間くさいとこが欲しい。
「ああ、夕、今日は?」
「時間あったから、レコーディングどんなんかなって覗きに来た。礼華の時は来れなかったんだけどさ」
「そうかぁ。今回のドラムトラックとベーストラック凄いな。俺、ヤバいよ」
そう苦笑して近くの椅子に腰掛け、置かれたコーヒーに口をつける。
こうやって見ると、普通の兄ちゃんだな。宵闇みたいに素顔が美形だから完成品も綺麗、のタイプじゃない。世間一般が想像する「ヴィジュアル系がメイク落としたら大体こんなもんだろ」ってのを地で行ってる。全然ブサイクじゃないんだけど、髪切ったら誰だかわかんねぇくらい平凡だ。
「宵闇さんに、死ぬ気で練習してから来いって言われた意味がわかったよ」
「死ぬ気でやったか?」
「うん。やれることはやって来た。でも、何やっていいのかわかんなくてさ」
それなりに練習して来たんだろうっていうのはさっきのプレイでも伺い知れたし、やってもないのにやったって言うほど要領良くも見えない。ただ、やっぱ基礎がない気がするんだよな。上滑りっつーか。
「練習、何した?」
「HateとRiskとWheelを、ひたすら弾きまくった」
俺はちょっと頭を抱える。うん、それは大事だ。それも確かに大事なんだけど。
「…朱雨、ギター始めた時って何から始めた?」
「俺? 俺はDIR EN GREYのコピーしまくったよ」
「それから?」
「アリス九號のコピー」





