9-2
角を曲がるとすぐに龍谷が見えてくる。平日のこんな時間だ、行列はない。
「よかった、並んでないな」
宵闇が俺が言おうとしたことを先に言う。こいつも行列嫌いなんだな。ここ美味いから、多少の行列なら我慢して並ぶけど。
ヤツが先に立って店に入る。店内もまあまあ空席があった。宵闇はテーブル席を選んで座る。俺もその向かいに腰掛けた。
メニューを手にした宵闇に声をかける。
「何食うよ」
「そうだな…いつものパターンになるけど」
「龍谷ラーメンに餃子?」
「それ」
俺とまったく同じパターンで食ってるんだな。今までここでバッティングしなかったのが不思議だ。いや、バッティングしてたけど気付いてなかっただけかもな。
宵闇が前髪をかきあげて笑う。ちょっと優しく見えるな。顔の殆どを覆う長い前髪が、こいつを必要以上にミステリアスに見せてるんだろう。ステージならそれもいいけど、プライベートだったら、ちょっと前髪上げててくれた方が、表情がよくわかって良いのに。
ラーメンと餃子をそれぞれ2つずつ注文する。
「それとビール。宵闇は?」
「俺はいい」
出された水に口をつけながら、宵闇は言う。
「何だ、呑まねーの」
「俺、酒はあんまり」
「へぇ!」
呑まない人が増えてはいるから、別に珍しくないけど、見た感じはかなり呑みそうなのにな。
「じゃ、一つで」
自分の分だけビールを頼む。それから、宵闇に向き直る。
「で、今日は何だ? 何か話あるんだろ?」
「いや、別にない」
「は? 何だよ、会いたいっつーから出て来てやったのに」
「ああ、会いたかっただけだ」
変なヤツだな。用もなくて会いたいとか意味がわからん。
「あっそ。じゃ、礼華のレコーディングはどうだよ」
用がないからって無言で飯食うのも何だしな。それなりに気にはかかっているレコーディングの状況を聞いてみる。
「何とかHate or Fateは録り終わったよ」
「あいつのカッティング、かなりふわふわしてて弱かったけど?」
「とにかくそこを集中的に直させた。かなりマシになったな」
「あと、リズム感な」
「それもクリックに合わせるようにさせたよ」
ほんと、カッティングがとにかくふわっとしてて、音同士が歯切れ悪くグズグズに繋がってたんだよな。音に力もないし。あれを歯切れ良く、力強く弾くだけでもかなり印象が変わるだろうと読んでた。
リズム感がダメなのも、まずはクリックにジャストになるよう、繰り返しやるしかない。
宵闇も同じところに目をつけたなら、良かった。これなら、まだ続くレコーディングもいい方向に行くだろう。





