私のものは姉のもの
第17回マグネット三題噺の参加作品です。
お題は、姉、執念、万華鏡。
この三つのワードを織り込んで、3000文字以内で書くコンテストです。
[あらすじ]
幼い頃から姉にいろんな「もの」を奪われてきた妹。
その妹が望む「もの」は──
高校生姉妹の妹が主役の、ある愛のカタチの物語です。
[登場人物]
妹(主人公)
姉
モブ男子
【私のものは姉のもの】
高校三年生、二つ上の姉は、私の"もの"を欲しがる。
持っている物でも、欲しい物でも、のべつ幕なしに。
小さな頃からそうだった。
私が新しいぬいぐるみを買って貰えば、数ヶ月かけて自分の物にした。
あの万華鏡だってそうだ。
パパがくれた海外出張のお土産だったのに、いつの間にか姉の宝箱の中。
私の"物"に対する姉の執念は、それはもう凄まじいのである。
けれど、私が一番欲しい物、一番好きな物を、姉は絶対に手に入れることは出来ない。
この事実を知った時。
その時の姉の顔を見るのが、私はすごく楽しみなのだ。
だから、バレないように、隠して、隠して。
今日も私は平静を装うのだ。
「ねえ、遅刻するわよ」
「あ、待ってよ」
私は、姉に急かされて高校へ急いだ。前には、私と同じく小走りの姉の背中。
姉さん。
私の"もの"を全部奪っていく、姉さん。
だめだ。姉さんの背中を見ていると、自制心が効かなくなってくる。
その私よりも小さな、華奢な身体を、後ろから──
教室に入ると、次々と挨拶が飛んでくる。一人ずつに挨拶を返しながら、窓際の自分の席へ向かった。
うん? 何だろう。
空っぽの筈の机の中に、少し膨らんだ封筒があった。
みんなから見えないように机の中で開封し、中の手紙を開いた。
【放課後、中庭の花壇の前で待ってます】
文面は、たったそれだけ。差出人の名前は、ない。
角張った字で書かれたそれは、いわゆるラブレターだろう。
となれば、差出人はこのクラスの男子かな。
違うクラスなら、手紙は昇降口の靴箱に入れるだろうし。
さぁて、どうしようか。
脳をフル回転させているうちに、授業が始まった。
昼休み。
私は、二人分の弁当を持って屋上へ向かった。
姉と昼食を食べるのは、私がこの高校へ入学してからの日課だ。
晴れたら屋上、雨ならばこっそり空き教室で。
姉妹誰にも邪魔されず。
私が屋上のドアを開けると、もう姉は着いていた。
「ごめんね、あたしのお弁当まで持たせちゃって」
「ううん、いいの」
姉の弁当を私が持ってくるのは、私自身の希望だ。
私がこの弁当を捨ててしまえば、姉は昼食を食べられない。
つまり。
姉の生命の一部を、私が握っている。
それは、姉の生殺与奪の権利を持つに等しい行為に思えた。
もちろんそんな意地悪はしない。弁当箱を渡すと、蓋を開けたのだろう、姉の黄色い声が響いた。
「かっわいー、今日もキャラ弁なんだー」
「うん、まあ。作るの楽しくなっちゃって」
「まーちゃんは女子力高いねー、すぐにお嫁さんになれるよ!」
はしゃぐ姉を見る私の目は、きっと冷淡そのものだ。
そんな言葉で、私が喜ぶとでも思っているのだろうか。
だけど姉の意識は、もう弁当にしか向いていない。
あーあ、そんなにガッつくと、その胸についたみっともない駄肉が増えるよ。
「おいしー」
そりゃそうだ。こっちは毎日、姉の好物ばかり入れてるんだ。
今日は唐揚げ。冷めても美味しいように、衣は片栗粉だ。
「お母さんのより美味しいよ」
せいぜい喜ぶがいい。今のうちに。
私は、朝机の中に入っていた手紙を取り出す。
「ん、なぁに、それ」
「なんか、放課後来いって」
「えー、それ危なくない?」
「そうかな」
私が曖昧に答えると、姉は玉子焼きを頬張りながら首を傾ける。
食べるか考えるか、どっちかにしなよ。
「よし、あたしが付き添ったげる。いい考えでしょ」
「そうだね、お願いしようかな」
「まっかせなさーい」
いい考えなもんか。
運動音痴の姉がいたところで、男子数人いたら何にも出来ないクセに。
「ふぅ、ごちそうさまでしたっ」
律儀に手を合わせる姉から、空の弁当箱を回収する。
「んじゃ、放課後。昇降口で待っててね〜」
食べ終わった姉は、さっさと屋上から去っていく。
友達の多いあの人のことだ。きっとまた誰かの噂話とかで盛り上がるのだろう。
六時限目の授業を終えて、昇降口へ急ぐ。頼りにしていると見せかける為に、姉より先に着いておく必要があるのだ。
五分ほど掲示板の紙と睨めっこをしていると、姉がやってきた。
「ごめんね、待った?」
「ううん、さっき来たとこ」
急いで来たのは、このセリフを言う為もある。
私の企みを知らない能天気な姉は、フンスと気合いを入れて、先陣切って歩き出す。
またしても姉の背中が目に入った。
だめ。もう少しの我慢だ。
もう少ししたら──
中庭に着くと、クラスメイトの男子が一人で待っていた。名前は……覚えてない。
「話って、何かな」
「あ、あのさ、オレ、お前のことが……」
待ってほしい。名前も知らない相手に、お前なんて言われたくない。
私は身を縮こまらせて、わざとらしく後ずさりをする。
すると、後ろにいた姉が、すっと私の前に立ってくれた。
「あの、キミね」
「……何ですか、こいつの友達ですか。誰かは知らないけど、邪魔しないで貰えますか?」
私に向けた弱々しい声とは正反対、姉には強気なようだ。
確かに姉は華奢だ。
私と一緒に歩いていると、私の方が姉に見られたりする。
だけど、だけど。
「──お姉ちゃんに向かって、何言ってるの」
私は、出来る限り冷酷な声音を作った。
「え、お姉、さん?」
「そうよ、私の、大事な大事な、大好きなお姉ちゃんなの」
「ご、ごめん……」
呆然としたあと、弱々しく謝る男子。項垂れる頭に、内心で『よくやった』と投げかけておく。
まさか、都合よく姉を蔑ろにしてくれるとは思わなかった。
今回は、当たりだ。
だが、私の声音は変わらず低いまま。
「もういい。貴方と話すことは無いから。いこ、お姉ちゃん」
「あ、待ってよ〜」
つかつかとその場を立ち去る。姉は、私の後ろをとてとてと追っかけてくる。
「許せない」
「もー、そんなに怒ったら、あの子がかわいそうだよー」
「だって、お姉ちゃんにあんなこと言うんだよ」
ここで私、というか妹の得意技、ウソ泣きの出番だ。
「だって、悲しかったんだもん……」
姉に聞き取れるくらいに言葉を崩して、嗚咽を漏らす。そんな私を、姉は抱き締めてくれた。
心臓が高鳴る。
鼓動がたたらを踏む。
もう、だめ。
気がついた時──
「っふ!?」
──姉の口唇を、私の口唇が塞いでいた。
私の、初めての、キス。
ほらお姉ちゃん。
私の"もの"を何でも欲しがるお姉ちゃんに、プレゼントだよ。
「お姉ちゃん、ずっと、ずっとずっと、一緒にいてね?」
「──当たり前だよっ」
私は、姉の華奢な背中を引き寄せて抱く。姉の駄肉の感触を、少しでも強く感じられるように。
──私は恋愛対象として、姉が好きだ。
小さな頃から、ずっと、ずっと。
だから今度は、私が手に入れる番。
あらゆる"もの"を姉に奪われた私は、これから一番欲しい物を手に入れる。
ぬいぐるみも、万華鏡も、全部引っくるめて。
姉の全てを、今夜──奪う。
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